2017年8月アーカイブ

  •  大正3年から書かれた永井荷風の『日和下駄』には、「一名 東京散策記」という副題が付いている。その副題の通り、これは作者が地図を片手に散歩し、東京の風物を記す内容で、日本語を知る読者をして風景描写の粋を味到せしむるものである。 しかし、無目的な散歩の書ではない。江戸趣味の荷風が手にしている地図は、「石版摺の東京地図」ではなく、「嘉永板の江戸切図」である。彼は...

    [続きを読む](2017.08.26)
  • k.d.ラング『アンジャニュウ』1992年作品 お隣アメリカの状況が状況だけに、今やカナダという国がいかにリベラルな場所か説明する必要はなくなったが、20年以上前に筆者に初めて「カナダってアメリカと全然違う面白い国なんだ」と認識させたのは、k.d.ラングだったような気がする。本名キャスリン・ドーン・ラング、アルバータ州のコンコートなる田舎町(人口700人程度...

    [続きを読む](2017.08.19)
  • 不倫する女たち 1970年代の出演作を観ると不倫の役が目立つ。『イメージズ』の主人公も、愛人との情事にふけっていた。ロジャー・ムーア主演作『ゴールド』(1974年)では、甘い恋愛を堪能しているが、不倫である。エリオット・グールド主演作『サイレント・パートナー』(1978年)で演じた役も、上司と不倫している女だ。そしてジョージ・C・スコットと共演した『ジェーン...

    [続きを読む](2017.08.12)
  • はじめに トニー・リチャードソン監督の『トム・ジョーンズの華麗な冒険』(1963年)でヒロインのソフィが、大好きなトムではなく、全く相手にしていないブリフィルとの結婚をすすめられる場面がある。当然、ソフィは嫌悪感を示すのだが、その時の表情が本当に豊かで、可愛らしい顔を思いきり崩し、眉間に皺を寄せ、大きな目と口を忙しく動かして、絶対的な拒絶を表現する。彼女はト...

    [続きを読む](2017.08.10)
  • 誰にも書けない音楽 イーゴリ・ストラヴィンスキーの『結婚』は、1914年に着手され、幾度かの中断を経て、1923年4月6日に書き上げられた。自伝によると、当時ストラヴィンスキーは楽器編成の問題で悩み、結論を出すのを後回しにしていたらしい。そして、「初演の日が最終的に決められて切迫した状態になれば何か解決法を思いつくだろうと当てにしていた」。その後、セルゲイ・...

    [続きを読む](2017.08.02)