2017年10月アーカイブ
人は現在を生きているが、同時に過去にも生きている。その過去が、時折、距離感を失い現在の自分に近寄ってくることがある。何か特別なことが起こって、そういう状態になるのではない。ちょっと目に入った物、会話の中に出てきた言葉などに、記憶や感覚が触発され、過去が存在感を増すのである。 現在交わされている会話と、過去の出来事がすぐ隣り合わせになっている梅崎春生の『狂い...
[続きを読む](2017.10.28)
ギャヴィン・フライデー&ザ・マン・シーザー『ギャヴィン・フライデーの世界』1989年作品 本コラムでも取り上げた名盤『ヨシュア・トゥリー』のリリース30周年を祝して、目下U2はアルバム再現ツアーを敢行している。このツアーのエグゼクティヴ・ディレクター兼バンド・コンサルタントを務めているのが、ほかならぬギャヴィン・フライデー。ボノの幼馴染み/大親友であり、今回...
[続きを読む](2017.10.22)
『海軍』と『必勝歌』 太平洋戦争以降の『海軍』(1944年)になると、事情が変わってくる。これは悪名高い映画法の統制下にある、まさに戦意高揚のために作られた作品だ。原作は、獅子文六(岩田豊雄)の新聞連載小説。鹿児島の平凡な少年が海軍を志して見事合格し、真珠湾攻撃で華々しく散るまでの成長物語で、配属将校の菊地少佐(原作では「菊池少佐」)が生徒に伝えた「断じて行...
[続きを読む](2017.10.12)
田坂具隆監督の作品で現在広く知られているのは、1950年代以降に製作されたものだろう。『女中ッ子』(1955年)、『陽のあたる坂道』(1958年)、『五番町夕霧楼』(1963年)、『鮫』(1964年)は全て田坂監督作である。しかしそのキャリアは1920年代に始まっており、『正義の強者』(1927年)、『結婚二重奏』(1928年)などによって若くして力量を認...
[続きを読む](2017.10.10)
モーツァルト像をどう描くか モーツァルトの交響曲第39番は1788年6月26日に完成された。創作動機は明らかになっていないが、予約演奏会のために作曲され、実際に演奏もされたのではないかと言われている。はっきりしているのは、この時期、わずか2ヶ月の間に第39番、第40番、第41番「ジュピター」という三大交響曲が立て続けに生み出されたこと、つまりモーツァルトの創...
[続きを読む](2017.10.01)