2020年3月アーカイブ

昔、絵画教室の番組を見ていたことがある。講師は外国人の画家で、よく喋る人だった。その音声のせいで絵を描いている音が少ししか聞こえない。それが不満だった。私は絵を学ぶのではなく、絵筆とキャンバスが接する音を味わうことを目的として見ていたのだ。 特定の音を聞いてゾクゾクすることがある。聴覚から官能をくすぐられるのだ。こういった反応を「Autonomous S...
[続きを読む](2020.03.28)
コーナーショップ『ボーン・フォー・ザ・セヴンス・タイム』1997年作品 先日BBCのニュース番組で英国議会の映像を見ていて、ちょっと驚いたことがある。最前列に座るジョンソン首相の両脇にいた内務大臣と大蔵大臣がどちらも、南アジア系の政治家だったのである。人種ではなく、彼らが保守党内閣の最重要ポストにあるという点に驚いたのだ。しかも内務大臣のほうは非常に厳格な移...
[続きを読む](2020.03.22)
ジャック・ティボーのヴァイオリンは甘い音がする。 でもフレージングや強弱の付け方が洗練されているので、べたつかず、すっきりとした後味を残す。古臭いと言われがちなポルタメントやヴィブラートの奏法も上品で優雅、時に官能的な艶を帯び、聴き手を魅了する。 協奏曲を弾く時も、小品を弾く時も、ティボーの解釈には理屈っぽさがない。作曲家に対する大げさな構えも感じられな...
[続きを読む](2020.03.13)
小津安二郎監督の『秋刀魚の味』(1962年)を観たのはだいぶ前のことだが、最初にこれを観た時から中村伸郎の存在が気になっていた。中村が演じているのは、笠智衆扮する主人公の旧友で、男だけの集まりで酒を飲みながら毒のある冗談を飛ばす中年男の役だ。皮肉っぽいがお人好し、身なりが良くてモダンで清潔感があり、話しぶりは軽妙、仲間にとっては「面白い奴」なのだろう。でも...
[続きを読む](2020.03.04)