2013年3月アーカイブ

シュテファン・ツヴァイクの『人類の星の時間』は、世界史を変えた12の歴史的瞬間を圧倒的な筆力で描いた作品集である。この本を出版するにあたり、ツヴァイクは歴史を一人の詩人に見立てて、次のように書いている。「多くのばあい歴史はただ記録者として無差別に、そして根気よく、数千年を通じてのあの巨大な鎖の中に、一つ一つ事実を編み込んでゆく。......芸術の中に一つの...
[続きを読む](2013.03.30)
「怒りの日」に音が溢れる サン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」は、循環形式を駆使して書かれた傑作である。壮麗に鳴り響くオルガンのインパクトが大きすぎるため、「派手な交響曲」の代名詞のようにいわれがちだが、その堅牢かつ緻密な構成を意識しながら聴けば、作品の奥にある魅力が味わえるだろう。 時に暗示的に、時に変則的に現れる主題はグレゴリオ聖歌の「怒りの日」...
[続きを読む](2013.03.29)
スウェード『スウェード』1993年作品 2012年7月、再結成してから2回目の来日を果たしたスウェードを、妙齢女性4人で勇んで観に行った時のこと。年甲斐もなく最前ブロックに押しかけてもみくちゃになって、若い頃と変わらぬルックスを保つブレット・アンダーソン(vo)に見惚れた我々は、「散々歌っちゃったけど、ほんと、ドラッグとセックスの曲ばっかだよね」と、大笑いし...
[続きを読む](2013.03.24)
50年以上経っても一流のエンターテイメント映画として世界中の人に支持され、愛されている007シリーズの最高傑作は何か。これはファンにとって話題の尽きないテーマであり、悩みの種である。その人が007に何を求めるかによっても、評価はだいぶ変わってくる。ストーリー性なのか、軽い娯楽性なのか、アクションなのか、小物なのか、ボンドないしボンドガールのルックスなのか、...
[続きを読む](2013.03.20)
憧れはいつまでも 私にとってシューベルトは、憧れと諦めの感情を最も刺激する作曲家である。とりわけ死の年に書かれた作品を聴くと、もう手の届かない憧れに想いを馳せ、甘くて痛い喪失感の中にこの身を浸したくなる。その音楽は絶美だが、無菌質ではない。親しみと孤独が手を取り合った世界から生まれる美しさである。 ヴァイオリンとピアノのための幻想曲は、シューベルトが晩年に書...
[続きを読む](2013.03.16)
デバージ「アイ・ライク・イット」(1982年/全米No.31) いわゆる木の芽どきが近づきつつある気配を少しでも感じると、無性に聴きたくなる曲がある。毎年、決まってその季節。不思議とそれ以外の季節には、この曲のことを忘れてしまっている。考えられる理由は、最もよくラジオ(FEN/現AFN)で流れていた季節だからだろう。ほぼ毎日のようにスピーカーから流れてくるそ...
[続きを読む](2013.03.13)
誰にでも1曲は忘れられない卒業ソングがある。 卒業式で歌った合唱曲なんか聴いても面白くない、という人もいるかもしれないが、実際に聴いてみると、けっこう胸にしみるものである。当時は何も考えずに歌っていた曲が、ずっと眠っていた記憶を呼び覚ますのだから不思議である。卒業式で泣く人の気持ちがよく分からなかった私のような人間でさえそのように感じるのだから、多くの人は...
[続きを読む](2013.03.09)
マントヴァーニ『ワルツ・アンコール』1958年作品 時折、マントヴァーニのレコードを無性に聴きたくなる。そして、そのストリングスの響きに耳を傾けるたびに、えもいわれぬ恍惚感に包まれる。と同時に、マントヴァーニほど特異で鋭敏な聴覚を持った音楽家は、歴史上、数えるほどしかいないのではないか、と思わされる。 ただ、この巨匠の業績も、ムード音楽というジャンルの衰微と...
[続きを読む](2013.03.02)