2013年11月アーカイブ

富ノ澤麟太郎の世界 文章はピアノのようなものである。ピアノは誰にでも普通に音を出すことが出来る。ただし、奏者の腕によって出てくる音はだいぶ異なる。文章も誰にでも書くことは出来るが、書き手によって暗色になったり、暖色になったり、硬質になったり、神秘的な雰囲気を帯びたりする。夭折の天才、富ノ澤麟太郎の作品を読むと、そんな当たり前のことを改めて潜思したくなる。 富...
[続きを読む](2013.11.30)
1830年に生まれた革命的交響曲 幻想交響曲が完成したのは1830年のことである。ベートーヴェンが世を去ってから3年しか経っていないのに、ここまで奇想天外な交響曲がフランスから生まれたという事実には驚嘆するほかない。しかも作曲当時、エクトル・ベルリオーズは26歳だったのである。 作曲の原動力になったのは恋である。若手の登竜門とされるローマ賞に挑戦して落選した...
[続きを読む](2013.11.26)
ワム!『メイク・イット・ビッグ』1984年作品 中学時代に出会ったジョージ・マイケル(ヴォーカル)とアンドリュー・リッジリー(ギター)が18歳の時に結成し、1980年代を代表するアイドル〜アーティストのひと組へと成長したワム!について、何よりも驚くべきことは、その若さでジョージが一貫して作詞作曲のみならずプロデュースまで手掛けていたという点だろう。3枚のアル...
[続きを読む](2013.11.21)
北極圏の鳥たちとオーケストラの融合 『カントゥス・アルクティクス』は、フィンランドの世界的作曲家、エイノユハニ・ラウタヴァーラの代表作である。作曲されたのは1972年。フィンランドのオウル大学の大学祭のために書かれ、ウルホ・ケッコネン大統領に献呈された。副題は「鳥と管弦楽のための協奏曲」という。 フィンランドといえば誰もがまずシベリウスを思い浮かべるだろうが...
[続きを読む](2013.11.15)
年に1回は必ず読む漫画がある。楳図かずおの『わたしは真悟』だ。初めて読んだ時は頭が爆発しそうになるほどの興奮を覚えたものだが、何回読んでも、ほとんど同じ強度の興奮に襲われる。読み慣れた作品という印象を抱くことはない。毎回新鮮な気持ちになり、楳図が創造した驚異的な世界に溺れてしまう。 『わたしは真悟』は1982年から1986年にかけて『ビッグコミックスピリッ...
[続きを読む](2013.11.09)
先に挙げた『愛人ジュリエット』、『夜ごとの美女』、『夜の騎士道』、『危険な関係』は大きく2つの系統に分けることが出来る。前の2作は過酷な現実からの逃避を描いたもの、後の2作は危険な恋の賭けを描いたものという風に。 『愛人ジュリエット』は、マルセル・カルネ監督作。恋人ジュリエット(シュザンヌ・クルーティエ)のために店の金を盗んで、刑務所に入れられた青年ミシェ...
[続きを読む](2013.11.06)
ジェラール・フィリップはいつの時代にも通用しそうな美貌に恵まれた二枚目であるだけでなく、舞台でも高い評価を得ていた演劇人であり、抜群の身体表現の能力と知性と品格と神秘性を備えたカリスマであった。そして何より柔軟性に富み、アクション史劇にも、ロマンティックな文芸映画にも、軽い喜劇にも、シリアスな現代ドラマにも嵌る名優であった。だからこそ、亡くなってから半世紀...
[続きを読む](2013.11.04)