2017年2月アーカイブ

  •  苦悶その物が生命である。これは岩野泡鳴が1906年に発表した評論『神秘的半獣主義』の中に出てくる言葉だ。泡鳴に言わせると、苦悶とは解決できるものではなく、これを解決しようとするのは、悲劇を喜劇に堕落させることであり、「無終無決の苦悶を活現してこそ、初めて真の悲劇」となるのだった。 泡鳴はその主義を血肉とする小説を書いた。悲劇といっても、彼のそれはお涙頂戴も...

    [続きを読む](2017.02.25)
  • U2『ヨシュア・トゥリー』1987年作品 ヨーロッパのミュージシャンにとってアメリカはひとつの理想であり、ゴールであり、時にして憂慮というか疎ましさというか、反感の対象にもなり得る。U2はまさに、そういうアメリカとの複雑な関係性を体現するバンドだ。中でも5作目『ヨシュア・トゥリー』(1987年/全米・全英最高1位)には相反するアメリカ観が完璧なバランスで混在...

    [続きを読む](2017.02.19)
  • 「思い切って書いても恥ずるところはない」 ショパンのピアノ協奏曲第1番ホ短調は、1830年3月に第2番へ短調が初演された後、本格的に着手された。番号と作曲順が合わないのは、第1番の方が先に出版されたことによる。なので、ショパン自身は、第1番の方を「新しいコンチェルト」「二番目のコンチェルト」と呼んでいた。 当時20歳のショパンは、ワルシャワ音楽院声楽科の生徒...

    [続きを読む](2017.02.10)
  •  シモーヌ・シニョレはフランス映画界の第一線で活躍した名女優である。演じた役柄には一定の傾向があり、若い頃は娼婦や不倫の人妻の役が多く、中年になってからは貫禄のあるおばさん役で存在感を発揮した。40歳を過ぎても顔の皺を隠すことなく変に若作りしなかったことや、政治に関する発言を積極的にしていたことから、同性のファンも多かったようである。 初の大役は『宝石館』(...

    [続きを読む](2017.02.04)