2013年10月アーカイブ

ロマンティックでモダニスティック プロコフィエフのピアノ協奏曲第3番は、とびきり美しい旋律を持っているばかりでなく、攻撃性や先進性も兼ね備えた傑作である。ロマンティックでモダニスティック。プロコフィエフらしい異能の才気が迸り、かつて存在しなかったようなサウンドフォルムを形成している。 作曲時期は1917年から1921年。ロシア革命の年に着手され、日本を経由し...
[続きを読む](2013.10.31)名作というよりカルト作、怪作のようにみなされている映画でも、その人が観た時の外的状況や内的状態によって深く心に残る作品になることがある。1987年に公開された那須博之監督の『新宿純愛物語』は、まさにその典型といっていい。これは当時中学2年生だった私にとって精神上の快楽になり、支えにもなった映画の一つである。なので、いくつか欠点があるのは承知の上で、今なお愛...
[続きを読む](2013.10.26)
モービー『プレイ』1999年作品 モービーことリチャード・ホールが作る音楽には孤独感が漂っている。「人恋しさ」とも言えるんだろう。誰かとつながろうとして手を差し伸べているかのようなセンチメンタリティ、ある種ノスタルジックな感覚にも近い。そう最初に強く感じさせたのが『プレイ』だった。それはもしかしたら、このニューヨーカーが一人っ子で、2歳の時に父を亡くし、本作...
[続きを読む](2013.10.21)
「ガヴォットと6つのドゥーブル」を含む作品集 何度聴いても飽きないだけでなく、文字通り一日中繰り返し鳴り続けていても受け入れることが出来る音楽がある。ひとつの曲を延々リピートし、疲労や飽和を感じず音の波に耳を預けていられるというのは、よほど生理的・性質的に合っているのだろう。私にとってそういう音楽作品のひとつがラモーの「ガヴォットと6つのドゥーブル」である。...
[続きを読む](2013.10.17)
嘉村礒多の作品を一読した人なら、誰でもその苛烈なまでの自己露呈と練りに練った緊密な文体に対し、感動なり拒絶なりを示さずにはいられないだろう。彼の私小説はいわば己の罪の記録であり、羞恥と妄執の刻印である。ただ、そういう私小説の作者にありがちな甘いヒロイズムはなく、書くことで己を救おうとする計算もない。己の心理の内にある卑しさ、汚さを余すところなく吐露し、後ろ...
[続きを読む](2013.10.12)
フランス映画史上、最高の美人女優といえばダニエル・ダリューである。人の外見をいい表す時に「フランス人形みたい」というフレーズをつかうことがあるが、彼女はそのフランス人形以上の美しさ、可愛らしさを併せ持つ銀幕の宝石だ。「美」の前に「個性的な」とか「知的な」と付け加えて「美」を相対化したり種別したりする必要もない。シンプルな意味で「美」なのである。そのために白...
[続きを読む](2013.10.09)
アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリは、同じ作品を徹底的に繰り返し練習し、表現の細かい部分まで磨き上げ、精巧無比な技術と強靭な理性をもって感情の抑揚を統御し、コンサートや録音に臨んでいた。1971年にドイツ・グラモフォンと契約してからの一連の録音は、まさにそんなミケランジェリの美学の結晶といえる。そこには一回性の感情表現はなく、完璧なアーティキュレー...
[続きを読む](2013.10.04)