2015年10月アーカイブ

  •  テレサ・ライトには純情で明るくて一緒にいると楽しそうなアメリカ女性というイメージがある。肩のラインの高い服がよく似合い、肌の露出は少なめで、濃密な色気で男を降参させる感じではないが、可憐でほのかな色気を匂わせるところがかえって男心をくすぐる。かつて彼女のような女性とデートしたい、結婚したいと夢見ていた男性は多かった。日活出身でオペラ演出家の三谷礼二は、その...

    [続きを読む](2015.10.27)
  •  アーリーン・オジェーの歌声は心を洗う光、雑念を消す光である。まさしく真の美声だ。普通の歌手なら中年にさしかかるあたりで声が重くなったり固くなったりして、高音の出し方にも力みが感じられるようになる。しかし、オジェーは表現の幅を広げることはあっても、気品と透明感のある美声を失うことはなかった。彼女はそのキャリアの中で、厳密な意味で「衰えない」という奇跡を積み重...

    [続きを読む](2015.10.23)
  • ニック・ケイヴ・アンド・ザ・バッド・シーズ『マーダー・バラッズ』1996年作品 殺人者の歌、つまりいわゆるマーダー・バラッズを集めたアルバムを思い付いて、躊躇いなく実行に移す男と言えば、この人しかいない。オーストラリアのイメージをドス黒く塗り替える暗黒王子にして、ポストパンク世代では最もトム・ウェイツやボブ・ディランやレナード・コーエンといったレジェンドたち...

    [続きを読む](2015.10.17)
  •  1962年に『シンデレラの罠』を発表し、推理小説界の寵児となったセバスチアン・ジャプリゾの人気は今なお衰えることを知らない。2003年に亡くなった後も、その作品は読まれ続け、映画化され続け、ミステリ史の総合ランキングの常連であり続けている。 ミステリ・ファンにはよく知られているように、『シンデレラの罠』が出版された当時、その宣伝文は次のようなものだった。私...

    [続きを読む](2015.10.10)
  • 「悲愴」と「幻想」 チャイコフスキーの「悲愴」は1893年に書かれた最後の交響曲である。初演は1893年10月28日、作曲者自身の指揮によって行われた。「悲愴」という言葉に込められた真意は分かっていないが、弟のモデストが伝えるところによると、初演の後、作品の標題をどうするか、兄から相談を受けたという。モデストがまず提案したのは「悲劇的」だったが、却下された。...

    [続きを読む](2015.10.07)
  • ワイラーとヒューマニズム ウィリアム・ワイラーは1930年代から1960年代にかけて多くの傑作を手がけ、アカデミー賞をはじめとする数々の名誉に輝いた監督である。『ローマの休日』(1953年)と『ベン・ハー』(1959年)の監督というだけでも映画史におけるその存在感の大きさは格別だ。 しかし彼の映画にみられるいくつかのパターンは、必ずしも万人受けするものとは言...

    [続きを読む](2015.10.01)