音楽 POP/ROCK

カーペンターズ 「スーパースター」

2011.03.11
カーペンターズ
「スーパースター」
(1971年/全米No.2、全英No.18)

 高校〜大学時代、『朝日ウィークリー』紙を購読していた。週に一度配達されるいわば週刊誌ならぬ週刊紙で、英語記事や海外アーティストのインタヴュー記事、洋楽ナンバーの英詞と訳詞などが掲載されており、今でも当時のスクラップを大切に保存してある。

 インターネットもなく、日本のTVで当たり前のように海外ニュースをオン・タイムで見られる時代でもなかったため、筆者はカレン・カーペンター(1983年2月4日死去/享年32)の訃報をFEN(現AFN)のニュースで知った。彼女が急逝した週に発行された『朝日ウィークリー』には追悼記事が載っており、残念ながらその記事はスクラップしなかったので手元にはないが、だいたい以下のような内容だったと記憶している。
 曰く「拒食症(から誘発された心不全)で死ぬなんて、余りに哀れ過ぎる。(「夢のカリフォルニア」の大ヒットで知られる)ママス&パパスのキャス・エリオットのように、最後まで食べたいものを食べて死んだ方がよっぽどましだ」

 キャス・エリオット(1974年7月29日死去/享年32)が遺体となって自宅で発見された際、部屋の中に食べかけのサンドイッチが残されていたことから、当時は「サンドイッチを喉に詰まらせて窒息死した」と報じられたが、後に本当の死因は心筋梗塞だったことが判明。が、多くの人々は、大柄の彼女がサンドイッチを頬張っている途中に窒息死した、ということを本気で信じたものだ。カレンとキャスは、奇しくも享年が同じ32であるため、恐らく『朝日ウィークリー』でカレンの追悼記事を執筆した方は、その点に着目して両者の死に方を対照的に論じたのでは、と思われる。

 今も世界中でーー特にこの日本でーー根強い人気を誇るカーペンターズは、誰もが一度は耳にしたことがある、という曲が最も多い洋楽アーティストのうちの一組だろう。彼らのオリジナル・ヴァージョンは言うに及ばず、カヴァー・ヴァージョンも含めて、TVのCMソングとして、或いは街角で流れるBGMとして、頻繁に耳にする。カーペンターズの魅力は、何と言っても親しみ易いメロディと歌詞、そしてカレンの透明感溢れる清潔なヴォーカルに集約される。まさに万人に愛されるアーティストだ。

 純粋無垢で時に夢見心地なカーペンターズの曲の中にあって、やや異質なのがこの「スーパースター」である。この曲がヒットしていた頃、FENではしょっちゅう流れていたが、子供心にもマイナー調のメロディが切ないなあ、と思ったものだ。長じて歌詞を理解するようになり、「憧れのスーパースターに恋い焦がれる女性の心理」ということは解ったのだが、今から約20年前、アメリカ人の知人から「あの曲はロック・バンドのギタリストのグルーピーが主人公で、〈もう一度、私を抱いて欲しい〉と身悶えしている曲なのよ」と言われ、ようやくこの曲の真義を知った。但し、それだとカレンのイメージに余りにそぐわないような気がしたのもまた事実である。

 実際、レオン・ラッセル作のこの曲のオリジナル・タイトルは「Superstar」ではなく「Groupie」であり、後に現行のものに変更された。また、直接、カレンの兄リチャードから話を聞いた人によれば、「もう一度あなたに会いたくてたまらない」というフレーズは、もともとは「もう一度あなたと寝たくて(=セックスしたくて)たまらない」という即物的な歌詞だったという。カレンがそこを歌うのを頑なに拒否し、♪...to sleep with you again... の歌詞は♪...to be with you again... に変えられた。もしそこがオリジナルの歌詞のままレコーディングされていたなら、従来のカーペンターズのファンは驚愕したのではないか。それを恐れて、カレンがカーペンターズのイメージを守ろうとして歌詞を変えたのか、或いは彼女自身が清純だったのか。いずれにせよ、カレンにロック・ギタリストの追っ掛けに命を懸けている女性像を重ね合わせるのは難しい。それでもこの曲が大ヒットしたのは、もちろん、カーペンターズの人気に負うところが大きいからだろうが、当時、歌詞の内容に共鳴する一般人の女性が多かったことも、その要因のひとつではないだろうか。
(泉山真奈美)

【関連サイト】
CARPENTERS(英語)
カーペンターズ
【執筆者紹介】
泉山真奈美 MANAMI IZUMIYAMA
1963年青森県生まれ。訳詞家、翻訳家、音楽ライター。CDの訳詞・解説、音楽誌や語学誌での執筆、辞書の編纂などを手がける(近著『アフリカン・アメリカン スラング辞典〈改訂版〉』)。翻訳学校フェロー・アカデミーの通信講座マスターコース及び通学講座の講師。