2011年8月アーカイブ

  •  白血病に冒された余命3ヶ月の少女ステラがこの映画のヒロインである。明朗快活なステラは、中年ピアニストのリチャードと病院で出会い、積極的にアタックする。絶望の中で生きているリチャードは、誰にも心を許すことなく田舎のバーでピアノを弾いて暮らしていたが、ステラとの交流をきっかけに、その人生が激しく動き始める。ステラの愛に励まされ、夢に挑戦すべく、パリで職を探すリ...

    [続きを読む](2011.08.28)
  •  僕は所詮半端者。だからいつでもいろんな輪から爪弾きにされてしまうのだ。例えば、初対面の人間同士が集まると、自己紹介代わりに出身地のことが話題によく上るではないか。〈東京出身/地方出身〉という2つのグループ分けで話が展開してゆくことが多いが、僕はいつもどっちの仲間にも入れてもらえない。いや、別に僕が地底人だとか、火星からやって来ましたとか、そういう歯切れの良...

    [続きを読む](2011.08.27)
  • 哀愁のアランフェス 夕陽にはアランフェス協奏曲がよく似合う。晩夏の太陽が沈んでゆくのを眺めながら、静かにこの曲に耳を傾け、人の世のあわれに思いを馳せるーーまるでドラマのワンシーンのようである。 古今東西のギター協奏曲の中で最も有名な作品であるばかりでなく、世界中の人々に愛されている傑作、アランフェス協奏曲。作曲者はホアキン・ロドリーゴ、スペインを代表する盲目...

    [続きを読む](2011.08.24)
  • マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン『ラヴレス』1991年作品 マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン(以下MBV)が1991年に発表した『ラヴレス』は、90年代前半の英国シーンを代表する名盤。革新的なノイズ・ギターとドリーミーなメロディとが溶け合った、美しい混沌と陶酔の世界は、時を越えて、今なお多くの人々を魅了し続けている。 厳密には今も存続しているにもかかわらず、...

    [続きを読む](2011.08.21)
  •  決して不機嫌なのではない。そうかと言って、アンニュイな雰囲気とも微妙に違う何かがそこには......。鑑賞者の視線と交わることのない、うっすらと愁いを帯びたその瞳は、どこか遠くーーいにしえの日々かーーを見つめているようでいて、その実、空(くう)を彷徨っているかのようにも見えてくる。どの絵師の美人画とも質を異にする、独特の雰囲気と存在感。そして孤独感。 橋口...

    [続きを読む](2011.08.20)
  •  イギリスが生んだ最もスキャンダラスな監督と言われるケン・ラッセル。彼は挑発的な作品を次々と発表し、世間を憤慨、驚倒させた背徳者であると同時に、極めて鋭く繊細な視覚と聴覚を持つ映像作家であり、音楽と映像をリンクさせる天才でもある。その非凡なセンスはBBC時代からすでに発揮されていた。例えば、ドキュメンタリー『エルガー ある作曲家の肖像』。淡々とした語り口であ...

    [続きを読む](2011.08.18)
  • 20世紀に最も絶賛された前衛音楽の一つ ピエール・ブーレーズの『ル・マルトー・サン・メートル(主なき槌)』は、1955年6月18日に初演されて以来、戦後生まれた最も画期的な音楽の一つとして評価され続けている。あのストラヴィンスキーが寄せた「今の新しい時代、真に価値ある唯一の作品」という賛辞を筆頭に、賞賛の言葉は数限りなくある。ここまで多くの人に歓迎され、理解...

    [続きを読む](2011.08.14)
  •  モーニング娘。の魅力とは何か。答えは様々あると思う。その中で大きな割合を占めそうなのは、メンバーの豊かな個性と未知数の才能、パフォーマンスに対する向上心、コンサートの楽しさ、メンバーの変動から生まれるドラマ、といったところだろうか。私はモーニング娘。のことをかなり後追いでチェックしてきたが、「もうこの辺でいいかな」という感情は一向に湧いてこない。それどころ...

    [続きを読む](2011.08.13)
  • エアロスミス「ウォーク・ディス・ウェイ」(1975年/全米No.10) 今でもエアロスミスのライヴには絶対に欠かせない、彼らの代表曲中の代表曲である。かつての邦題を「お説教」といった。♪彼女(=童貞喪失願望を抱く主人公の男子高校生が憧れるチアリーダー)がオレに××しろと言った......云々という歌詞から着想を得た邦題だろうが、残念なことに、曲の内容とは少々...

    [続きを読む](2011.08.12)
  •  マデリーン・キャロルは戦前のイギリスを代表する美人女優である。知的な美貌と確かな演技力を備え、声も美しく、英語の発音も綺麗だった。アルフレッド・ヒッチコック監督は彼女のことを気に入り、英国時代に撮った『三十九夜』『間諜最後の日』ではヒロイン役に起用している。ヒッチコックがブロンド・ビューティー(ジョーン・フォンテーン、グレース・ケリー、ティッピ・ヘドレンな...

    [続きを読む](2011.08.10)
  •  シカゴ響との録音の中では、ベートーヴェンとR.シュトラウスの演奏が傑出している。この2人の作曲家のものなら何を聴いてもハズレはないが、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」、第9番「合唱」、序曲「コリオラン」、R.シュトラウスの『英雄の生涯』、『ドン・キホーテ』、『エレクトラ』(抜粋)、『ドン・ファン』(ステレオ盤)は、同曲屈指の名盤として傾聴に値する。奇を...

    [続きを読む](2011.08.06)
  •  ソロのアイドル歌手がひしめいていた1980年代前半、石川ひとみはルックス、美声、歌唱力の三拍子揃った存在として私の記憶に刻まれている。当時人気があったアイドルで「石川」といったら、後輩の「秀美」の方を思い浮かべる人も多いと思うが、私は断然「ひとみ」派である。 石川ひとみの代表曲として常に一番に選ばれるのは、三木聖子のカバーである「まちぶせ」。テレビでも、イ...

    [続きを読む](2011.08.06)
  •  フリッツ・ライナーの指揮は動きが小さく、後方にいる楽団員たちからは非常に見づらかったという。そのせいで彼らは常に緊張を強いられ、戦々恐々とし、周囲の音に注意を払っていなければならなかった。その結果として、集中力が極限まで高められ、アンサンブルの緊密さが増し、無駄な贅肉のない音楽が生み出された。指揮棒を1センチ動かすだけで稲妻のような強奏を炸裂させるそのスタ...

    [続きを読む](2011.08.05)
  •  矢口史靖の作品が、とても好きだ。「好きな映画監督は?」と訊かれると、誰もが認める様々な有名監督を挙げつつ、彼の名前も紛れ込ませることにしている。そして、必ずと言って良いほど質問者に怪訝な顔をされる。その反応は勿論覚悟の上なのだが、少々心外でもある。ヒット作がいくつもあるものの、どれも所謂「娯楽作」だし、「巨匠」と呼ばれ得る年齢でもなく、どこか飄々とした外見...

    [続きを読む](2011.08.01)