2012年6月アーカイブ

高度経済成長期の日本を生きる人々。その欲望のドラマをサスペンスフルに描いた大映の「黒シリーズ」中、最も有名な作品は、やはり第1弾を飾った『黒の試走車』(1962年)だろう。梶山季之の原作をもとに、自動車業界の内幕、産業スパイを描いたこの映画は、強引なストーリー展開さえも魅力の一つにしてしまう増村保造の簡勁な演出と、田宮二郎や叶順子といった役者陣の魅力に支え...
[続きを読む](2012.06.27)
少し前の話になるが、2011年4月12日、四半世紀来の男友だちSが不治の病に冒されてこの世を去った。享年52。遺されたのは、奥さんと1万枚以上にも及ぶアナログ盤のレコード。 筆者の知人・友人の中で、R&B/ソウル・ミュージックを語らせたら、彼の右に出る者はいなかった。とりわけ、いわゆる〈甘茶系〉と呼ばれる音楽、即ちスウィート・ソウルへの造詣は深く、...
[続きを読む](2012.06.23)
トーク・トーク『カラー・オブ・スプリング』1986年作品 ポストパンク期の英国のアーティストの中には、アメリカでのブレイクを機にコマーシャルな路線に進んだシンプル・マインズ、或いは直球のハードロックに接近していったザ・カルトなどなど、初期のユニークさを少なからず失ってしまった例が少なくない。かと思えば逆に、年を追うごとに非商業的な表現を極めた例もあって、デヴ...
[続きを読む](2012.06.20)
ポール・モオランが書いた『夜ひらく』の中の一編「カタロオニュの夜」で、ある心理ゲームが紹介されている。 日曜日の夜、高名な歴史の教授のもとに集まった人々が、新種のゲームを行う。やり方は簡単である。まず、いくつかの項目が記された表に、自分で自分の点数を0点から20点までつける。その後、隣にすわっている人と表を交換し、点数を訂正し合う。項目数は20。美貌、魅力...
[続きを読む](2012.06.16)
60歳の出世作 ブルックナーがワーグナーを信奉していたことはよく知られている。交響曲を献呈し、バイロイト音楽祭にも足を運んだ。ワーグナー協会の名誉会員にもなった。当然、音楽的にも大きな影響を受けた。ただ、そのおかげで、ある評論家から執拗に攻撃されることになる。それが、アンチ・ワーグナーとして知られたエドゥアルト・ハンスリックだ。ブラームス派だったハンスリック...
[続きを読む](2012.06.11)
『続・荒野の用心棒』の監督 映画黎明期から高い人気を誇ったアメリカの西部劇は1950年代をピークとし、衰退していく。しかし、そんな状況と入れ替わりに60年代半ば辺りから70年代前半にかけてイタリア製西部劇、通称マカロニ・ウエスタン(海外ではスパゲッティ・ウエスタンと称される)が隆盛期を迎えた。このブームの契機となったのが、セルジオ・レオーネ監督が手掛けた『荒...
[続きを読む](2012.06.09)
LLクールJ『ママ・セッド・ノック・ユー・アウト』1990年作品 「年寄りっ子は三文安い(=孫は目に入れても痛くないほど可愛いので、祖父母に溺愛された子供は甘やかされて育つ)」という古い諺がある。が、幼い時に両親が離婚し、祖父母に育てられたLLクールJに限って言えば、その諺は当てはまらない。何故なら、彼がラッパーとして大成するに至った最大の功労者が、祖父母に...
[続きを読む](2012.06.05)
2012年5月22日、吉田秀和氏が急性心不全のため亡くなった。その5日後の日曜日、私は新しいパソコンを買うために行った家電屋で、このニュースを知った。ネットがちゃんとつながるかどうか店員さんに確認してもらっている時、アクセスした某ポータルサイトのトップページに載っていたのである。「音楽評論家の吉田秀和氏死去」 高校の図書室にあった吉田秀和全集を思い出す。 ...
[続きを読む](2012.06.02)