2015年2月アーカイブ

世界が未だかつて耳にしたことがないようなもの マーラーの交響曲第3番は全6楽章、演奏時間に90分以上を要する大作である。ただ、渋滞感や退屈な部分は皆無で聴きやすく、最終的には聴き手を大きな幸福感で包み込む。あらゆる雑念を吸収し、世界を高みへと押し上げるような第6楽章の美しさが、この作品に存在する全ての要素を肯定させ、悲しみも苦しみも疲れも忘れさせるのだ。これ...
[続きを読む](2015.02.25)
扉 アンリ=ジョルジュ・クルーゾーの作品では、扉や門が凶兆を告げるシンボルとして用いられる。それは、単独でメガフォンを取った初の長編映画(それまでは共同監督で長編を数本撮っていた)『犯人は二十一番街に住む』(1942年)から一貫している。この映画は酒場のドアが開くカットで始まり、その後、殺人事件が次から次へと起こる。次作『密告』(1943年)では、墓地の門が...
[続きを読む](2015.02.19)
デュラン・デュラン『リオ』1982年作品 いきなり自慢話で申し訳ないが、何を隠そう我が家の『リオ』は、このアルバムを作った5人のメンバーのサイン入りである。約10年前、まさにその黄金期のラインナップーージョン・テイラー(ベース)、ニック・ローズ(キーボード)、アンディ・テイラー(ギター)、ロジャー・テイラー(ドラムス)、サイモン・ル・ボン(ヴォーカル)ーーで...
[続きを読む](2015.02.14)『万葉集』には定訓を持たない歌がある。その中で最も有名な難訓歌が、額田王の九番歌だ。伊丹末雄の『万葉集難訓歌考』に「古来あまりにも名高い難訓歌で、千年に及ぶ幾多の学者の精密真摯なる研究にもかかわらず、今なお依然として明確には読み解けない」とあるように、大きな謎を残したまま今日に至っている。しかし、謎が深いほど解きたくなるのが人の性。千年以上の間、『万葉集』...
[続きを読む](2015.02.07)
勝利の凱歌なのか チャイコフスキーの交響曲第5番は、1888年に作曲された。第4番から11年ぶり、48歳のときの作品である。その11年の間には弦楽セレナーデ、ヴァイオリン協奏曲、ピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の思い出」、オペラ『エフゲニー・オネーギン』『マゼッパ』、マンフレッド交響曲などが書かれている。また、私生活の面では、他国に滞在することが多くなり、ロシア...
[続きを読む](2015.02.01)