音楽 POP/ROCK

ジャクソン・ファイヴ 「クリスマスに愛を贈ろう」

2011.12.15
ジャクソン・ファイヴ
「クリスマスに愛を贈ろう」
(1970年)

 クリスマス・シーズンが近づくと、街角のあちらこちらから、或いはラジオやTVから、これでもか、と様々なクリスマス・ソングが流れてくる。『聖書』の場面に基づいた讃美歌あり、オリジナルのゴスペル・ソングによるものあり、更には、古くから歌い継がれてきた定番のオリジナル・クリスマス・ソング(ビング・クロスビーで有名な「ホワイト・クリスマス」など)もどこかで必ずと言っていいほど耳にする曲だ。

 モータウンは、夥しい数のクリスマス・アルバムを過去にリリースしてきた。一組のアーティストによるもの、複数のアーティストが歌ったクリスマス・ソングをオムニバス形式にまとめたもの(昔はLP2枚組もあった)など、手を変え品を変え、時には未発表曲もさり気なくすべり込ませて消費者の購買意欲を煽ってきた(かく言う筆者も未発表曲に惹かれて買ってしまったモータウンのクリスマス・アルバムは数知れず......)。

 が、リリースから40年以上も経過したジャクソン・ファイヴ(J5)の『クリスマス・アルバム』は、筆者が幼少の頃からしばらくの間、クリスマス・シーズンともなれば収録曲のいずれかが必ずFEN(現AFN)から一日に何度も流れてきたものだった。最も頻繁に流れていたと記憶するのは、幼いマイケルがサンタクロース=実はパパが変装した姿、ということに気付かず、曲の終盤で「サンタがママにキスしたのをこの目で見たんだよ!」と兄たちに必死に訴える「ママがサンタにキッスした」だったが、同曲以外にもこのクリスマス・アルバムには佳曲が多い。否、捨て曲が1曲たりともない優れた作品と言っていいだろう。愛くるしいマイケルのヴォーカル、兄たちとのやり取り、ジャーメインの包み込むような暖かな歌声ーーそれらが混然一体となって、単なるお子様向けクリスマス・アルバムではなく、大人も充分に鑑賞できる完璧すぎるほど完璧に仕上がった作品である。

 原題「Give Love On Christmas Day」、邦題「クリスマスに愛を贈ろう」というこの曲は、タイトルを一見すると、恋人同士、或いは夫婦間でクリスマスの日に愛を交わし合う、というストーリーを思い浮かべがちだが、実はそうではない。作詞/作曲は、後にその内訳が判明するJ5専属の覆面ソングライター/プロデューサー・チームのザ・コーポレーション(メンバーの中にはモータウンの創設者で社長だったベリー・ゴーディ Jr.も含まれている)で、レコーディング当時、弱冠12歳だったマイケルが歌うにしては歌詞がかなり大人びている。それでも彼の歌唱力を以てすれば、この曲に込められたメッセージが聴く側にひしひしと伝わってくるのだから、やはり彼は幼少のみぎりから凡人を遥かに超越した歌唱力を備え持った天才だったと言わざるを得ない。

 では、〈クリスマスに愛を贈る〉相手は誰なのか? それは、不特定多数の人々なのである。つまりこの曲のいわんとしていることは、〈クリスマスに親しい人や愛する人にプレゼントを買って贈るのもいいけれど、それより大切なことがあるんじゃないの? 例えばそれは、困ってる人々に救いの手を差し伸べたり、大金持ちの人でも心が満たされていない人だったり、そういう人々に何らかの方法で愛情を示してあげようよ〉ということなのだ。極端に解釈すれば、〈お金では買えないもの=真心、親切心〉をクリスマスだからこそプレゼントしてみたら?ということ。

 この曲がリリースされてから約15年後、エチオピアで飢餓に苦しむ人々を救済すべく、社会活動に熱心なボブ・ゲルドフが音頭を取って、チャリティ・シングル「Do They Know It's Christmas?」(1984年/全英No.1、全米No.13/アメリカではゴールド・ディスク認定)がリリースされ、世界中で話題になった。ご記憶の方も多いだろう。筆者自身、同曲を初めて耳にした時(或いはプロモーション・ヴィデオを先に目にしたかも知れない)、とっさに思い出したのは、J5の「クリスマスに愛を贈ろう」であった。同曲がリリースされた1970年代は、もちろん、エチオピアの人々が飢餓に苦しむことなど想像もできない時代であったのだが、〈普段は目にも留めなかった苦しむ人々にクリスマスの日にこそ目を向け、愛を示してあげよう〉というメッセージは、双方の曲に相通ずるのではないだろうか。

 「クリスマスに愛を贈ろう」は過去に複数のアーティストによってカヴァーされているが、特にオススメなのが、デニス・エドワーズを擁していた頃のテンプテーションズが歌ったヴァージョン(1980年リリースの『GIVE LOVE AT CHRISTMAS』収録/曲終盤の盛り上がりぶりが凄まじい)と、ジョニー・ギルの熱っぽい独唱が素晴らしいヴァージョン(1989年リリースの『MOTOWN CHRIDSTMAS ALBUM』収録)である。ご興味のある方は、ぜひともJ5のオリジナル・ヴァージョンとの聴き較べを。

 年末になると、〈歳末助け合い運動〉なるものが各地で展開される。取り分け今年は3・11の東日本大震災があったため、その機運も弥が上にも高まろうというもの。確かに、非クリスチャンではない日本人でさえも、幼い頃から親しんできた『聖書』に基づく讃美歌のクリスマス・ソング(「きよしこのよる」、「もろびとこぞりて」、「荒れ野のはてに」...etc.)は耳に馴染んでいるだろうし、そらで歌える人も多いことだろう。しかしながら、クリスチャンの人々にとっては、我々日本人が考える以上に(そして想像も及ばないほど)クリスマスは一年で最も特別な日なのである。クリスマスにちなんだラヴ・ソング(例えばWham!のクリスマス失恋ソング「ラスト・クリスマス」、マライア・キャリーの「恋人たちのクリスマス」)に耳を傾けるのも一興だろうが、今一度、「クリスマスに愛を贈ろう」の歌詞を感じて頂きたいと思う。たとえ非クリスチャンでも、年に一度ぐらい、心から誰かに――たとえ見ず知らずの困っている人々であっても――対して優しさや慈愛、愛情を示してみてもいいのではないか、と、3.11から8か月以上も経った今、漠然とそう思うのである。「クリスマスに愛を贈ろう」を、年末助け合い運動のテーマ曲にしてくれたらどんなにかいいだろう、と。これは勝手な願望だが。
(泉山真奈美)


【関連サイト】
JACKSON5
ジャクソン・ファイヴ『クリスマス・アルバム』
【執筆者紹介】
泉山真奈美 MANAMI IZUMIYAMA
1963年青森県生まれ。訳詞家、翻訳家、音楽ライター。CDの訳詞・解説、音楽誌や語学誌での執筆、辞書の編纂などを手がける(近著『アフリカン・アメリカン スラング辞典〈改訂版〉』)。翻訳学校フェロー・アカデミーの通信講座マスターコース及び通学講座の講師。