2013年4月アーカイブ

周知の通り、透谷は「人生相渉論争」(1893年)の中心人物でもある。これは山路愛山への論駁から発展した、文学の本質や文学のあるべき姿をめぐる論争だ。愛山は「文章即ち事業なり」とし、世を益することなく、人生に相渉ることのない「文章の事業」は「空の空なるのみ」と説く。これに対し透谷は「人生に相渉るとは何の謂ぞ」を書き、文学は事業を目的としていない、文学は人生に...
[続きを読む](2013.04.27)
ザ・フー「恋のピンチ・ヒッター」(1966年/全英No.5) 目下、唯一ザ・フーの話題で気が合うと言ってもいい知り合いのフリー・ライター兼編集者さんのA氏曰く「僕は〈substitute〉という英単語をザ・フーのこの曲で知りました」。それに応えて筆者「私は子供の頃に、この単語をミラクルズの〈The Tracks of My Tears〉で覚えましたよ。スモー...
[続きを読む](2013.04.24)近代批評を確立したといわれる小林秀雄は、1929年に「様々なる意匠」で「批評とは竟に己れの夢を懐疑的に語る事ではないのか!」と書いた。この言葉は今も深甚なる影響を私たちに及ぼしているといってよい。ただし、このような批評を意識的に実践したのは、小林が最初ではない。「様々なる意匠」よりも40年近く前に、北村透谷がかなり苛烈なやり方で行い、批評の可能性を押し広げ...
[続きを読む](2013.04.20)
2004年にグリゴリー・ソコロフのコンサート映像がDVD化された時、日本では知名度が高いとはいえないこの大ピアニストについて、私は次のように書いたことがある。「現在は西欧を中心にマイペースの活動を行ない、その名声はすでに不動の高みに達している。にもかかわらず、日本で目立つかたちで紹介される機会はなく、情報が増えない。はっきりいえばマイナー扱いされている節す...
[続きを読む](2013.04.16)
シンプル・マインズ『ライフ・イン・ア・デイ』1979年作品 キャリアの出発点とその後の着地点が大きく異なるーーという点では、以前ご紹介したトーク・トークに似ている。もっともシンプル・マインズの場合は逆のパターンで、初期を知らない人はあまりいい印象を抱いていないかもしれない。スコットランドのグラスゴーで1977年に結成されたこのバンドは、1985年にリリースし...
[続きを読む](2013.04.13)
クシシュトフ・キェシロフスキ監督の連作集『デカローグ』は、十戒をモチーフにした10篇の人間ドラマである。元々はテレビ用に撮られたものだが、あまりにも完成度が高く、1989年のヴェネチア国際映画祭で上映されて絶賛された。これによりキェシロフスキの名前は世界中に轟いた、といっても過言ではない。 作品は一話完結式である。一つの戒律をテーマにしたエピソードもあれば...
[続きを読む](2013.04.10)
そこは、〈都会のオアシス〉などという陳腐な言葉に置き換えるのが憚られるほど、幽玄で心地好い静寂に包まれた空間。行く度に身も心もゆったりとした気分に浸れ、なおかつ極上の美術品を鑑賞したという満足感にも包まれて、終いにはその場にいつまでもいつまでも佇んでしまいたくなる。筆者が最も愛する美術館のひとつ、根津美術館(以下、根津美)とは、そうした場所だ。 手持ちの『...
[続きを読む](2013.04.06)