2012年1月アーカイブ

  •  夭折した天才は何かにつけ悲劇の主人公のように語られがちである。ウィリアム・カペルも例外ではない。不気味なエピソードも彼の人生に深刻な悲劇性を付与している。それは、彼がユージン・リストと共に占い師に運勢をみてもらったという話。その時、彼はこういわれた。「彗星のような経歴だろうが、真に望むものは手に入らない。そして30歳前に衝撃的な死をとげるだろう」ーーこの占...

    [続きを読む](2012.01.30)
  •  月刊『Gun』の国際出版が2011年12月に事業を停止した。雑誌は同年11月号を以て休刊していたので、ある程度予想はしていたが、ショックであった。特に現在30代後半〜50歳前後の男性にとっては、寂しいニュースだったのではないかと思う。月刊『Gun』は銃器に関する専門誌だが、この年代であればマニアでなくても一度や二度は読んだことがあるはずなのだ。子供時代の彼...

    [続きを読む](2012.01.28)
  •  デボラ・カーの熱心なファンとして知られた作家に三島由紀夫がいる。『クォ・ヴァディス』を「無味乾燥な見世物」と酷評した彼は、『地上より永遠に』でこの女優の魅力を発見した。「上官との姦通事件をとりあげているのは、いかにもアメリカらしい率直さで、好感がもてるが、上官の妻になるデボラ・カーはすばらしい。雨の日の最初の男との逢瀬は、不感症的魅力の満溢した女を見せる。...

    [続きを読む](2012.01.26)
  •  デボラ・カーに関する記事を読むと、必ずといっていいほど書かれていることがある。まずオスカーに6回もノミネートされながら一度も受賞しなかったこと。これは事実なので、情報として書かざるを得ない。ただ、その後にこう続く。「端正な美貌とエレガントな雰囲気が演技の幅を狭めていた」ーーこれではオスカーを獲れなかったのは彼女に欠陥があったからだ、と思われかねない。もしか...

    [続きを読む](2012.01.24)
  •  1968年12月10日に起きた三億円事件をモチーフとして制作され、1975年に放送されたTVドラマ『悪魔のようなあいつ』。演出・プロデュースを久世光彦が手掛け、脚本は長谷川和彦、主演は沢田研二。原作コミックは原作・阿久悠、作画・上村一夫。藤竜也、荒木一郎、若山富三郎、細川俊之、篠ひろ子らが出演。作詞・阿久悠、作曲・大野克夫の主題歌「時の過ぎゆくままに」が大...

    [続きを読む](2012.01.21)
  • 「プレチピタート」が描くもの セルゲイ・プロコフィエフは1939年から1944年の間にピアノ・ソナタを3作書き上げた。第6番イ長調、第7番変ロ長調、第8番変ロ長調である。戦争に触発されて書かれたそれらの作品は、まとめて「戦争ソナタ」と呼ばれている。このシリーズ中、プロコフィエフの才気が爆発しているのが第7番である。よりどころのない不安、甘さのないリリシズム、...

    [続きを読む](2012.01.19)
  • ドアーズ『まぼろしの世界』1967年発表 ドアーズはUCLAの映画学科で顔見知りの間柄だったジム・モリソンとレイ・マンザレクを中心として結成された。ナイトクラブ「ウィスキー・ア・ゴーゴー」でのライヴが評判となり、1967年1月に1stアルバム『ハートに火をつけて』でデビュー。「ハートに火をつけて」がビルボードチャートの1位となり、ドアーズは瞬く間に人気バンド...

    [続きを読む](2012.01.17)
  •  デュ・モーリアのファンの間で神品と評されている「モンテ・ヴェリタ」(1952年、『林檎の木』収録)も、2人の男とファム・ファタールの話である。 主人公「わたし」の親友で登山仲間のヴィクターが、不思議な魅力を持つ女性アンナと結婚する。登山に興味を持ったアンナは、ある日、ヴィクターを置き去りにしてモンテ・ヴェリタの山へ向かい、それきり戻ってこなくなる。村人たち...

    [続きを読む](2012.01.14)
  • 同情と共感をあてにしない映像作家 2003年製作のドキュメンタリー「『スリ』のモデルたち」で、マリカ・グリーンが興味深い発言をしている。ブレッソン映画に出た女優たちはお互いに攻撃的で、協調性がない、というのだ。「何かあるんだろうと思うわ。嫉妬というと語弊があるけど、おそらくそれぞれの親密な関係を守りたいんでしょうね。〈私とブレッソン〉という秘密の小さな花園を...

    [続きを読む](2012.01.12)
  • 「傑作の森」からきこえてくる妙なる楽想 ベートーヴェンの人生の中で最も創作意欲が高潮していたのは、交響曲第3番「英雄」を書き上げた1804年から数年間だといわれている。この時期をロマン・ロランが「傑作の森」と呼んだのは周知の通りである。とくに30代後半に入った1806年のベートーヴェンの作曲活動は注目に値すべきもので、交響曲第4番、ピアノ協奏曲第4番、ヴァイ...

    [続きを読む](2012.01.09)
  •  ダフネ・デュ・モーリアの最高傑作は何かと問われたら、大半の人は『レベッカ』と答えるに違いない。そのきめ細やかな心理描写と緻密な構成の向こう側に広がるゴシック・ロマンのムードに魅了されない読者は、ほとんどいないだろう。また、この作品は様々な角度から読み解くことが可能であり、そこもまた魅力の一つとなっている。私なら、一度目は普通に読み、二度目は物語の語り手の主...

    [続きを読む](2012.01.07)
  •  サンフランシスコ市警のハリー・キャラハン刑事、通称〈ダーティハリー〉を描いたシリーズ第1作『ダーティハリー』(1971年)。クリント・イーストウッドは、本作によって世界的なスターとなった。TV映画『ローハイド』(1959〜1966年)への出演、セルジオ・レオーネ監督のマカロニウエスタン作品によってある程度の成功を収めていたとはいえ、60年代末頃のイーストウ...

    [続きを読む](2012.01.04)
  • マニック・ストリート・プリーチャーズ『ホーリー・バイブル』1994年発表 ブリットポップに刺さった棘。 リリース当時、マニック・ストリート・プリーチャーズの3作目『ホーリー・バイブル』は、そういうアルバムなんだと思う。なぜって、オアシスの『デフィニトリー・メイビー』、ブラーの『パークライフ』、スウェードの『ドッグ・マン・スター』、パルプの『ヒズ・アンド・ハー...

    [続きを読む](2012.01.02)