文化 CULTURE

月刊『Gun』 黒い肌と鋼鉄の輝きの雑誌・休刊に寄せて

2012.01.28
 月刊『Gun』の国際出版が2011年12月に事業を停止した。雑誌は同年11月号を以て休刊していたので、ある程度予想はしていたが、ショックであった。特に現在30代後半〜50歳前後の男性にとっては、寂しいニュースだったのではないかと思う。月刊『Gun』は銃器に関する専門誌だが、この年代であればマニアでなくても一度や二度は読んだことがあるはずなのだ。子供時代の彼らにとって、モデルガンやエアガンは最も身近なオモチャの一つだったのだから。実銃のレポートを読んで「いつか撃ってみたいな」と危険な妄想を膨らませたり、高くて買えるはずもないモデルガンの新製品を見て涎を垂らしたり、映画の中に登場する銃器の蘊蓄を聞いて「なるほど!」と感心したり......そんな体験に覚えがあるのではないだろうか。

 かく言う僕も、まさにこの世代に属する。アメリカのアクション映画が好きだったし、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の両さんや中川巡査に憧れていた僕は、鉄砲への関心が高い方であった。そんな僕が月刊『Gun』を読んでいたのは80年代初頭〜半ば頃。今思えばなかなか面白い時代であった気がする。「弾丸を発射出来ない」「火薬による音を楽しむ」「実銃の外見や機構のリアルな再現を目指している」=モデルガンがそれまでの銃器玩具の主流だったが、80年代初頭辺りから弾丸を発射できる銃器玩具=エアガンが劇的な進化を遂げたのだ。勿論それ以前から弾丸を発射出来る玩具はたくさんあったが、外見のリアリティに乏しく、大した威力も命中性能もないそれらは、「子供のオモチャ」の域を出るものではなかった。ガンマニアの関心を専ら集めていたのはモデルガンの方であった。そんな状況を激変させたのが、「サバイバルゲーム」だ。

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 ご存知の方も多いだろうが、「サバイバルゲーム」とは、簡単に言うならば戦争ごっこ。野外などでエアガンを撃ち合う遊びだ。サバイバルゲームのブームによって、いい歳した大人達がエアガンを購入するようになった。僕は専門家ではないので、もしかしたら事実誤認かもしれない。あくまで当時子供だった僕なりの皮膚感覚なのだが......サバイバルゲームのブームを生んだ決定的な要因は、「BB弾」だった気がする。「BB弾」とはボール状をしたプラスチック製の弾丸のこと。これがエアガンに採用されたのは80年代初頭だったと思う(細かい話にはなるが、「マルゼン」というメーカーの製品が先駆者だったと記憶している。同社のBB弾を採用した製品であるKG9やmini UZIは、サバイバルゲーム黎明期の主力機種であった)。それまでのエアガンの弾丸といえばテルテル坊主のような形状をした「ツヅミ弾」が主流だったが、あっと言う間に「BB弾」の時代が到来した。「BB弾」は「ツヅミ弾」に較べて風の影響を受けにくく、まっすぐ飛びやすい。野外で遊ぶサバイバルゲームにとって、この特性は非常に魅力的だ。また、メーカーや製品によって形状が様々だった「ツヅミ弾」に対し、半ば統一規格のように幅広く採用された「BB弾」の汎用性も、サバイバルゲームにとっての決定的な追い風となったのだろう。「ツヅミ弾」から「BB弾」への移行は、カセットテープ、MDからデジタルオーディオプレイヤーへの移行並みに急速だったと記憶している。

 サバイバルゲームのブームにより、月刊『Gun』でもエアガンについての記事が増えた。しかし、後発のライバル誌・月刊『コンバットマガジン』に較べて、様子は何処となく異なっていた。エアガンの紹介にもキチンと力を入れていたが、実銃とモデルガンの記事を何よりも大切にしているムードが感じられたのだ。実銃やモデルガンも紹介しつつ、エアガン、サバイバルゲーム関連の記事を勢いよく満載していた『コンバットマガジン』と対照的であった。月刊『Gun』の創刊は1962年。老舗として全面的にエアガンのブームに乗ることに躊躇があったのではないか。後にエアガン以上に高性能、モデルガン並みのリアルさも実現したガスガン、電動ガンの時代に入っても、この印象は変わらなかった。

 月刊『Gun』の編集方針は間違ってはいなかったのだと思う。読者は求める情報に応じて月刊『Gun』と月刊『コンバットマガジン』のどちらかを選べば良かったし、長年に亘って2誌は共存していたのだから。しかし、そんな時代も終わりを迎えた。インターネットを覗けばいくらでも実銃の紹介や動画を見られるし、個人の趣味ブログでも興味深いレポートをたくさん読めるようになったのが月刊『Gun』の休刊、事業停止の一番の理由なのだろう。僕が熱心に読んでいたのは子供の頃。大人になってからは本屋で見かけた際に時折パラパラとめくってみるだけだったので、いろいろ細かく語る資格はないとは思う。しかし、僕の少年時代の記憶に深く刻み込まれている雑誌の一つが月刊『Gun』だ。幕を閉じたことは、とても寂しい。
(田中大)


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