2012年10月アーカイブ

  • 音楽と詩のデリケートな関係「その詩は、音楽家が無意識の間に作った詩のように思えるし、その音楽は、詩人が無意識の間に作った音楽のように思える。それほどの域に達している」 これはクロード・ドビュッシーのオペラ『ペレアスとメリザンド』を評したポール・デュカの言葉である。オペラというと、題材がドラマティックで、歌手たちが競うように声を張り上げて歌っているイメージを持...

    [続きを読む](2012.10.27)
  • ザ・ザ『マインド・ボム』1989年作品 インド系英国人作家のサルマン・ラシュディが先頃(2012年9月)出版した『Joseph Anton:A Memoir』は、1989年2月に著書『悪魔の詩』の中でイスラム教を冒涜したとして当時のイランの最高指導者ホメイニ師から死刑宣告を受け、隠遁生活を送っていた時期の回想記だ。イスラム教社会とキリスト教社会/欧米的価値観...

    [続きを読む](2012.10.23)
  •  新左翼に大きな影響を与えた哲学者、ヘルベルト・マルクーゼの代表的著作に『エロス的文明』がある。これは1955年に出版され、ベストセラーになり、3年後には邦訳も出た。三島由紀夫は1959年1月に季刊誌『声』でこれを取り上げて痛烈に批判し、その思想を「非歴史的な途方もない、天体望遠鏡のやうな客観性」と皮肉っている。抑圧からの解放、反体制を唱える人はいつの時代に...

    [続きを読む](2012.10.20)
  • 実験と娯楽 「なにを始めるかわからないと評判の市川崑」ーー1957年に公開された『穴』の予告編に出てくるキャッチコピーである。これほど市川崑という監督のスタンスをわかりやすく言い表した言葉はない。ベネチア国際映画祭サン・ジョルジオ賞を受賞し、アカデミー外国語映画賞候補にも挙がり、市川崑の名を知らしめた『ビルマの竪琴』。女子大生に睡眠薬を飲ませて犯す場面が話題...

    [続きを読む](2012.10.18)
  •  磯田光一の最初の評論集『殉教の美学』は、単に情熱的な作家論というにとどまらず、示唆に富んだ戦後論であり、日本人論である。初めてこれを読む人は、その鋭く殺気立った論調に当惑し、「ここまで断定的に書いていいのか」と思うかもしれない。しかし、底流には豊かな知性が広がっていて、戦後の日本人の思考を読み解く上で非常に興味深いキーワードが随所にちりばめられている。 磯...

    [続きを読む](2012.10.13)
  • 独奏ピアノを持つシンフォニー ブラームスのピアノ協奏曲第1番は、1859年1月22日にハノーファーで初演された。長い年月をかけて完成させた渾身の力作だったが、結果は成功とはいえなかった。しかし、さらなる失望が25歳の作曲家を襲う。その5日後、1月27日にライプツィヒで行われた演奏会が大失敗に終わったのである。演奏後、拍手した聴衆は数人だけだったという。世間の...

    [続きを読む](2012.10.12)
  • ジョージ・マイケル「アメイジング」(2004年/全英No.4)【The Religious Side of The Song】 Christians for a Moral America Pray for George Michael's Death.(道徳的なるアメリカを求めるクリスチャンたちはジョージ・マイケルの死を祈願する) これは、実際にインターネ...

    [続きを読む](2012.10.10)
  •  外での仕事を1本終え、仕事場に戻るや否やパソコンに向かい、2本の原稿を書き上げて、最早ヘトヘト。時計を見たら、24時23分。さて寝るか......と言いたいところなのに、明日の午前中が締め切りのこの原稿を書かねばならない。なんという悪夢! 明日は朝からスケジュールがギッシリ詰まっているので、原稿を書いている時間なんてないのだ......という、まさしく追い...

    [続きを読む](2012.10.06)
  • ハリウッドのはじまり ハリウッド草創期から第一線で活躍した大監督、セシル・B・デミル。スペクタクル史劇の巨匠と呼ばれる彼が手掛けた映画のテーマは実に多彩だ。一例を挙げるだけでも、旧約聖書(『サムソンとデリラ』、『十戒』)、新約聖書(『キング・オブ・キングス』)、ローマ帝国(『暴君ネロ』、『クレオパトラ』)、十字軍(『十字軍』)、カナダ史(『北西騎馬警官隊』)...

    [続きを読む](2012.10.05)
  •  どんな音楽作品でも、それを演奏する者によって、傑作に聞こえることもあれば、凡作に聞こえることもある。そこまで好きになれなかった作品が、特定の演奏家の手にかかるとえもいわれぬ魅力を帯び、また聴きたくなる、というケースもある。ひとつの作品との幸福な出会いとは、同時に演奏家との幸福な出会いを意味する。世に「傑作」とか「名盤」といわれているものが、必ずしも個人にと...

    [続きを読む](2012.10.01)