文化 CULTURE

ゲロルシュタイナー ドイツから来た救世主

2012.10.06
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 外での仕事を1本終え、仕事場に戻るや否やパソコンに向かい、2本の原稿を書き上げて、最早ヘトヘト。時計を見たら、24時23分。さて寝るか......と言いたいところなのに、明日の午前中が締め切りのこの原稿を書かねばならない。なんという悪夢! 明日は朝からスケジュールがギッシリ詰まっているので、原稿を書いている時間なんてないのだ......という、まさしく追い詰められている現在の僕を救ってくれるのは、あいつだけ。ゲロルシュタイナー。ドイツから来た我が友。こいつがいてくれて本当に良かった。

 今、冷蔵庫からゲロルシュタイナーの500mlのボトルを持ってきた。キャップをひねる掌を、噴き出した炭酸ガスが爽やかに撫でる。ボトルを持ち上げ、傾けると、口いっぱいに広がる刺激。快感! 身も心も少し蘇った。ゲロルシュタイナーがくれたエネルギーが途切れないうちに、この原稿を一気に進めるとするか。
 ゲロルシュタイナーとは、ドイツ西部、アイフェル高地にある町・ゲロルシュタインで採水されている天然炭酸水。今年の夏から、僕はすっかりこれに頼るようになってしまった。「原稿を早く書かないと大変!」というプレッシャーを、ゲロルシュタイナーを飲みながら乗り越える日々がずっと続いている。いささか依存症的な消費の仕方をしているのかもしれない。先程、冷蔵庫を開けて、我ながらギョッとした。冷蔵庫を埋め尽くす大量のゲロルシュタイナー。その片隅に申し訳なさそうに存在する味噌が、何とも言えず物悲しい。しかし......冷蔵庫内のランプに照らされて仄かに光るゲロルシュタイナーのボトルキャップの、なんと美しいこと。大雑把に言えば「灰色」なのだが、「銀色」にも見えてくる。近藤真彦の「ギンギラギンにさりげなく」が思い出される。さりげないギンギラギンとは、まさしくこのキャップのようなことを言うのではないだろうか? そんなことを考えながらウットリと眺めまわしていたら、「早く扉を閉めろ!」というアラームが鳴った。美を理解しない冷蔵庫め! 日本製はこれだからな......と、ゲロルシュタイナーにドップリ浸かり、すっかりドイツ人になったつもりの僕は思うのであった。

 ゲロルシュタイナーと僕の出会いは突然だった。2012年の5月27日にSHIBUYA-AXでMAN WITH A MISSION(以下、MWAM)というロックバンドのライヴを観た帰りに、会場の出口で試供品を貰ったのだ。MWAMの「Get Off Of My Way」という曲は、ゲロルシュタイナーとのコラボレーション。「ゲロルシュタイナーの炭酸音を独自のエフェクト音に変換してロックを奏でる」というコンセプトのプロジェクト『GEROCK(ゲロック)』の第1弾であった。その縁で、MWAMのファンたちにゲロルシュタイナーが配布されたのだろう。僕はゲロルシュタイナーの存在は知っていたものの、飲んだことは一度もなかった。貰っても「炭酸水か......」と、大して嬉しくなかったと記憶している。しかし数日後、ふと何かの拍子にゲロルシュタイナーを飲んだ瞬間、すっかり魅了されてしまった。

 ジュースやお茶などとは違う、この味わいをなんと表現したら良いのだろう? 「美味しい」というのは見当外れではないものの、何となく実感とはズレている。ゲロルシュタイナーは水であり、「味」と呼ぶほどのものはない。それなのに確実に存在する、この劇的な魅力とは何なのか? 炭酸の弾ける音、刺激、透明感、「ドイツからやって来た!」というスペシャル感、「ゲロルシュタイナー」と発音する時の優越感、何となくカッコいい気がするパッケージ......これらが複雑に入り混じって醸し出される一種の「ムード」のようなものが、僕を満たしてくれているのかもしれない。

 締め切りに追われてヒビ割れた僕の生活に潤いを与える救世主、ゲロルシュタイナー。なんと素敵なやつだろう。ダンケシェーン! 近所のスーパーマーケットへ行く度にゴッソリ買い込んでしまう。原稿を書く前に、景気づけにゲロルシュタイナー。原稿に行き詰まり、逃げ出したくなったらゲロルシュタイナー。原稿の催促が来て、焦りまくったらゲロルシュタイナー。僕の稼業は、最早ゲロルシュタイナーと共にあると言っても過言ではない。さて......。先程開けたゲロルシュタイナーのボトルの中身はもう僅か。こいつを飲み干しながら、原稿を終えるとしよう。やっと今日のノルマを果たした。ゲロルシュタイナーをもう1本。祝杯だ。
(田中大)


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