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ジョン・スタージェス 〜諦めない男たち〜 [続き]

2017.06.25
女性像のパターン

 ジョン・スタージェスは男性を描くのがうまい。この点に異論を挟む人はいないはずだ。『大脱走』など、タイプの異なる男性像がそれぞれ細かく造型されていて、男性群像劇の最高傑作と呼びたいくらいである。モテモテのヤンキーというイメージがつきまとうウィリアム・ホールデンが、『ブラボー砦の脱出』で険のある堅物を好演しているのも、スタージェスが彼からベストの演技を引き出した結果と言える。

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 一方、女性の描き方はどうか。女優にとって難役が多いわりに、そこまで報われているとは思えない。例えば、『ブラボー砦の脱出』『OK牧場の決斗』『ガンヒルの決斗』といった作品では、女たちは心変わりする不安定な存在として扱われている。この中で最も深刻なのは、『OK牧場の決斗』でドク・ホリデイ(カーク・ダグラス)と関係するケイト(ジョー・ヴァン・フリート)だろう。ケイトがドクのもとを去り、以前付き合っていたジョニー・リンゴ(ジョン・アイアランド)の情婦になるのは、ドクの態度が煮え切らないからだが、しばらくするとドクの方に戻ろうとして、心がボロボロになってゆく。感情的になったドクが咳き込んで倒れ、いったん部屋から逃げ出したケイトが、ドクを介抱するために戻ってくるシーンは、カメラアングルの見事さもあいまって感動的だが、それにしても、哀れな役回りである。

 『ブラボー砦の脱出』のヒロインは、カーラ(エレノア・パーカー)。捕虜になっている南軍の恋人ジョン(ジョン・フォーサイス)を助けに来た彼女は、北軍のローパーを誘惑するが、そのうちに本心から恋してしまう。当初の計画では、ジョンを脱走させ、自分は知らんふりして北軍側に居座り、後でジョンとテキサスで落ち合う予定だった。しかし、彼女はローパーを騙し続けることにたえられず、また、このままローパーに溺れてしまうことが怖くなり、ジョンと行動を共にする。このあたりの心理描写は非常に難しい。エレノア・パーカーは超美人であるだけでなく、演技力も抜群なので、難役を完璧に演じているが、これは女優泣かせの役と言える。

 そういえば『戦雲』も、裕福な貿易商に囲われているゴージャスな女(ジーナ・ロロブリジーダ)が、自信満々の米軍大尉(フランク・シナトラ)に反発しながら、拍子抜けするほど簡単に恋に落ちる。恋愛心理の描写は『ブラボー砦の脱出』より数段劣っている。戦争映画だから恋愛の方は二の次ということなのだろうが、これではロロブリジーダが奇妙な女にしか見えない。もったいないキャスティングだと思う。

後期の作品

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 諦めない男たちを描くスタージェス作品の硬派なテイストは、後期になっても変わっていない。地球に戻れなくなった3人の宇宙飛行士を救うために、大胆な作戦を実行するプロセスを追う『宇宙からの脱出』(1969年)は、静かながらも緊張感あふれる人間ドラマとしてまとまっている。音楽を使わないところも良い。酸素が切れかかり、もはや万事休すという時に、ソ連の宇宙飛行士が現れる展開はスタージェス好みと言うべきか。部下が提案した救出作戦を拒絶しておきながら、大統領にやれと言われると敢行するプロジェクトのリーダー、キース(グレゴリー・ペック)の描き方も、どこか批判的だ。キースが夫を亡くした妻に(おそらく近くにいるのに)電話で訃報を伝えるシーンなど、われわれを遣る瀬ない思いにさせる。

 『マックQ』(1973年)はジョン・ウェイン主演の刑事物。反権力のテーマは貫かれているし、海辺でカーチェイスをしながらイングラムをぶっ放すといった注目シーンもあるが、全体的に緊張感に欠ける。コリーン・デューハーストなど魅力的な女優の扱いも良くない。まあ、気楽に観るにはちょうどいい映画といったところか。スタージェスが凄いのは、これで終わらなかったところで、この後ジャック・ヒギンズ原作の『鷲は舞いおりた』(1977年)を映画化している。全盛期の演出に比べると、テンポが悪く感じられるところはあるが、美しい田園風景のカットはスタージェスらしいし、ナチス将校クルト・シュタイナー(マイケル・ケイン)が、逃げようとしたユダヤ人を庇うシーンなどに、この監督の揺るぎないポリシーが感じられて胸が熱くなる。
(阿部十三)


【関連サイト】
ジョン・スタージェス 〜諦めない男たち〜
John Sturges

[ジョン・スタージェス略歴]
1910年1月3日、アメリカのイリオイ州生まれ。マリン・ジュニア・カレッジに進学後、1932年にRKOでキャリアをスタートさせ、主に編集部で研鑽を積む。第二次世界大戦中、多くの戦争記録映画を監督し、1946年に『The Man Who Dared』で劇映画監督としてデビューを飾る。『ブラボー砦の脱出』(1953年)で頭角を現し、『日本人の勲章』(1955年)で賞レースに名を連ねる存在になり、1950年代後半の「決斗三部作」から、1960年代前半の『荒野の七人』『大脱走』まで娯楽映画の巨匠として大ヒットを飛ばし続けた。最後の監督作は『鷲は舞いおりた』(1977年)。1992年8月18日死去。
[主な監督作品]
1946年『The Man Who Dared』/1949年『The Walking Hills』/1950年『ミステリー・ストリート』『暗闇に響く銃声』/1953年『ブラボー砦の脱出』/1955年『日本人の勲章』/1957年『OK牧場の決斗』/1958年『ゴーストタウンの決斗』『老人と海』/1959年『ガンヒルの決斗』『戦雲』/1960年『荒野の七人』/1963年『大脱走』/1965年『サタンバグ』『ビッグトレイル』/1967年『墓石と決闘』/1969年『宇宙からの脱出』/1972年『シノーラ』/1973年『さらばバルデス』/1974年『マックQ』/1977年『鷲は舞いおりた』