音楽 POP/ROCK

ポリス 「見つめていたい」

2011.03.21
ポリス
「見つめていたい」
(1983年/全米No.1、全英No.1)

 大学時代、スティングの熱狂的なファンの同級生がいた。今でも忘れられないのは、当時、リリースされたばかりのポリスの新譜『シンクロニシティー』のLP(当時まだCDプレイヤーは高価で、大学生ごときに買える代物ではなかった)を買ったその日に彼女が筆者の部屋に泊まりに来て、その夜と翌日、同アルバムを何度も一緒に聴いたこと。アルバムに先駆けてリリースされた先行シングル「見つめていたい(Every Breath You Take)」は、その友人と一緒にLPを通して聴いた際、特に印象に残った曲だ。また、同曲がヒットしていた当時は、モノクロ処理のシンプルなPVもTVの洋楽番組で頻繁に流れていたし、FEN(現AFN)でもそれこそ朝から晩までこの曲がかかっていたため、自然と歌詞を覚えてしまった。諳んじた歌詞を自分なりに頭の中で訳して要約してみると、「去って行った恋人に対して未練が残っている男が、『これからも君の姿を目で追い続けるよ』と、熱い胸の内を吐露している曲」だった、はずなのだが...。

 以前、あるインタヴューで、「見つめていたい」の作者でもあるスティング自身が「あの曲はある種のストーカー的心理を歌ったもの。歌詞の内容を勘違いして結婚式なんかで流す人もいるみたいだが、それはそれで面白いと思う」というようなことを語っているのを読んで、仰天すると同時に、「英語圏の人でも歌詞の内容を勘違いすることがある」ということを知った。あの日あの時、うっとりとした表情で「見つめていたい」に聴き入っていた友人は、その後、果たして「見つめていたい」の真義を知る機会があっただろうか。

 後にいろいろと調べてみたところ、「見つめていたい」は、スティングが最初の妻フランシス・トメルティ(1976年に結婚)との結婚生活がこじれ始めていた頃に作った曲であることを突き止めるに至った。そのことを暗示するフレーズが、この曲の歌詞に潜んでいる。それは、♪Every claim you stake... の箇所。"stake a claim"(もしくは"stake out a claim")はイディオムの一種で、「〜を自分のものであると主張する、要求する」「〜であると自称する」という意味。ここを深読みすれば、「離婚するにあたり、妻が自分に要求する慰謝料や財産分与の中身」ということになりはしないか。そしてその深読みがあながち曲解でないとすれば、スティングは妻に対して「お前の要求をひとつも見落とさない(聞きこぼさない)=I'll be watching you.」と歌っているわけである。本人が語った通り、これはもうストーカー的心理としか言いようがない。そしてスティングは、最初の妻フランシスと、この曲が大ヒットした翌1984年に離婚。スティングがこの曲を作った本当の動機が判った瞬間、昔の日本の歌謡曲「別れても好きな人」のタイトルが頭をよぎった(苦笑)。いや、もっと相応しいのは「復縁してくれよ」だろうか。が、これだと演歌やムード歌謡曲になってしまう。やはり「見つめていたい」が最も通りがいいかも知れない。但し、いずれ別れることになるであろう妻に向けたスティングのその視線は、かなりねちっこくて猜疑心に満ちている、ということをお忘れなく。言わずもがなだが、結婚式のBGMには全く以て不向きの曲である。
(泉山真奈美)

【関連サイト】
THE POLICE FILE(英語)
ポリス THE POLICE
【執筆者紹介】
泉山真奈美 MANAMI IZUMIYAMA
1963年青森県生まれ。訳詞家、翻訳家、音楽ライター。CDの訳詞・解説、音楽誌や語学誌での執筆、辞書の編纂などを手がける。翻訳学校フェロー・アカデミーの通信講座マスターコース及び通学講座の講師。