音楽 CLASSIC

カミラ・ウィックス 〜極上のシベリウス〜

2012.04.04
 カミラ・ウィックス。名盤聴き比べとか名盤ランキングといった類の記事では滅多に目にしない名前である。ヴァイオリニスト人名事典のようなものを開いてみても彼女の名前が抜けていることは珍しくないし、ニューグローヴ世界音楽大事典にも記載がない。お粗末な話である。彼女が弾いたシベリウスのヴァイオリン協奏曲を一度でも聴けば、こんなことは起こらないだろうに。

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 カミラ・ウィックスは1928年8月9日にカリフォルニアのロングビーチで生まれた。父はノルウェイ人ヴァイオリニスト、母はピアニストである。7歳の時に公開演奏を行い、注目を浴びる。その後、アンリ・テミアンカとルイス・パーシンガーに師事。パーシンガーはユーディ・メニューイン、ルッジェーロ・リッチ、アイザック・スターンの教師だった人である。1942年にパーシンガーの肝いりでニューヨーク・デビュー。1946年にはカーネギーホールでシベリウスのヴァイオリン協奏曲を演奏し、成功を収めた。結婚後は第一線を退き、表舞台から姿を消したが、1960年代に活動を再開。ウィックスの名声は父の祖国ノルウェイで特に高く、彼女自身もこの国を愛した。教師としても高名で、多くの弟子を世に送り出している。

 代表盤は1952年2月18日に録音されたシベリウスのヴァイオリン協奏曲。これがある限り、カミラ・ウィックスの名は永遠に残るだろう。「私のヴァイオリン協奏曲の最高の解釈者」とシベリウスが絶賛したウィックスの演奏には金切り声も押しつけがましさもない。溢れんばかりの熱い歌心と余計な作為を感じさせないフレージングで聴き手の耳を奪う。技術的難所でも渋滞感を出すことなく、有機的な楽想のつながりとして聴かせる。シクステン・エールリンク指揮、ストックホルム放送交響楽団によるサポートも文句なし。絶妙というほかないコンビネーションである。シベリウスのヴァイオリン協奏曲というと、ジネット・ヌヴー、ダヴィッド・オイストラフ、あるいはチョン・キョンファの演奏がもてはやされているが、あまり評価が偏るのも考えものである。

 第一線を退いた後も、ウィックスはヴァイオリニストとして第一級であり続けた。それを証明するのが1960年代後半から1980年代の録音である。数は多くないが、粒ぞろいの名演ばかりだ。特筆すべきは1985年1月17日のライヴ音源。このグラズノフのヴァイオリン協奏曲を聴いてもはっきりと分かるように、50代後半になってもウィックスのテクニックには衰えがみられない。それどころか、驚くほどみずみずしく、香り高い音を響かせている。同じ日に披露されたヴォーン・ウィリアムズの「揚げひばり」も気品と詩情漂う超美演だ。ウィックスの音源は数えるほどしかないが、僅かに残っている録音がいずれも粒ぞろいの名演であることは、せめてもの救いとすべきだろう。


【関連サイト】
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲(CD)