音楽 CLASSIC

サン=サーンス ピアノ協奏曲第2番

2026.01.04
カデンツァから始まるドラマ

Saint-Saens piano concerto 2_j1
 サン=サーンスのピアノ協奏曲第2番は1868年に作曲された。ロシアのピアニスト、アントン・ルビンシテインに作曲を依頼され、17日間で書いたと言われている。初演は1868年5月13日、ルビンシテインの指揮、作曲者自身の独奏によって行われた。いかにもピアノが主役といわんばかりのヴィルトゥオジティと、幻想的な雰囲気と、バロック的な様式美が備わった作品で、人気が高い。フランツ・リストもこの作品を非常に高く評価していた。ただし、各楽章のコントラストが極端であることから「J.S.バッハに始まり、オッフェンバックに終わる」(ジグムント・ストヨフスキ)と皮肉られたこともある。

 作品の主な特徴としては、第1楽章の序奏が荘重なカデンツァで始まること、ベートーヴェンの「月光」のように第1楽章が最も遅く、第3楽章が最も速いという並びになっていること、全体の構成が分かりやすいことなどが挙げられる。ほぼ同時期に書かれたグリーグのピアノ協奏曲(1869年初演)や、後年世に出るチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番(1875年初演)などに比べるとドラマ性やスケール感は乏しいが、ピアノの出方が二枚目俳優のように格好良いという点では劣っていない。リストが好んだのもよくわかる。

 第1楽章はアンダンテ・ソステヌート、ト短調。序奏は独奏ピアノによるバロック音楽風のカデンツァで始まる。主部に入り、翳りのある第1主題が登場し、印象的な経過句を挟んで、第1主題から派生した甘く穏やかな第2主題が奏でられる。展開部は分散和音を用いて劇的かつ華やかに進み、やがて管弦楽が第1主題を再現し、ピアノが流麗なカデンツァを披露。第1主題と経過部の動機を扱った後、幻想的な雰囲気を醸成し、序奏のカデンツァが再現される。最後は重い和音で力強く締め括られる。

 第2楽章はアレグロ・スケルツァンド、変ホ長調。ティンパニのリズムに乗ってピアノが軽快な第1主題を奏で、管弦楽がそれを繰り返す。ショパンのスケルツォ第4番の主題を彷彿させる主題だ。第2主題はのびやかな性格で、ファゴット、ヴィオラによって奏でられ、ピアノが繰り返す。展開部は第1主題を軸に進み、次に第2主題が前面に出てくる。流麗な分散和音の後、再現部となり、第1主題と第2主題が現れ、最後は第1主題を基にしたコーダで締められる。主題や分散和音の扱いの上手さが際立つ楽章だ。

 第3楽章はプレスト、ト短調。重量感のある強音で始まり、ピアノがリズミカルな第1主題を奏でる。トリルを多用した情熱的な経過句の後、これまたトリルを用いた第2主題が登場。展開部は第1主題で始まるが、すぐ後に第2主題のトリルが結合される。やがてトリル部分のみ残り、そこに管弦楽の旋律的な経過句が絡む。ピアノは分散和音を交えて流麗に動き、激しく技巧的になり、再現部へ。再現部は型通りだがコーダは劇的で、最後はピアノが猛烈な勢いで駆け巡り、勇ましく曲を閉じる。

 冒頭から1分半もの間、ピアノがバロック音楽風のカデンツァを聴かせるのはユニークなアイディアで、大胆な試みと言える。ただ意外性があるだけでなく、荘重な雰囲気を出す上でも効果的である。この冒頭部分を第1楽章の結尾で回想させるのも、出来すぎと言いたくなるほど巧い構成だ。ピアノが二枚目役を演じる古典悲劇を見せられているような気分になる。深みがあるかどうかはさておき、音楽としては格好良い。主題や経過句に使われている旋律も素晴らしい。

 私がよく聴いたのは、エミール・ギレリス(ピアノ)、アンドレ・クリュイタンス指揮、パリ音楽院管の演奏(1954年録音)である。ギレリスが弾いているからというだけで入手し、作品に対する予備知識もなしに聴いたのだが、冒頭の格調高いピアノ独奏に魅了され、そのまま一気に引き込まれた。第1楽章のバロック的な雰囲気とギレリスのタッチが絶妙に合っている。細かいパッセージも疎かにせず、曖昧さもなく、厳格に演奏されている。オーケストラのサポートは堅実で、変に目立とうとしていない。ギレリス盤は数種類あるが、クリュイタンスと組んだものが一番良い。

Saint-Saens piano concerto 2_j2
 グリゴリー・ソコロフ(ピアノ)、ネーメ・ヤルヴィ指揮、ソ連国立響の演奏(1966年録音)も名演。ピアニストがまだ16歳の時の演奏だが、ピアノの技巧はヴィヴィッドで、強音は明晰、弱音は繊細、劇的なパッセージを弾く時の燃えるような表現も素晴らしく、初めて聴いた時は「完全無欠な演奏」とエキサイトしたものだ。今もその感想は変わらない。しかし一方で、このピアノは押し出しが立派すぎるのではないかとも感じている。ギレリス盤は明晰ではあるが、もう少しオーケストラと調和的で、作品のスケールに合った演奏をしている。

 ジャンヌ=マリー・ダルレがピアノを弾き、ルイ・フレスティエ指揮のフランス国立放送管がサポートした演奏(1956年録音)は、自由な語り口が魅力的。ダルレはサン=サーンスの孫弟子にあたり、若い頃からこの作品を弾いていたらしいが、それも納得の闊達さで、ちょっとしたルバートにも妙味があり、やりすぎと思わせない説得力がある。第1楽章で第1主題を再現する時の弱音と、そこからの変化の付け方なども、個性的だが、詩的である。そういった演奏をこれ見よがしでなく、大した気負いもなく、自然にやっているところは、何十年もこの作品を弾いてきた人間がたどり着いた境地と言えるだろう。
(阿部十三)


【関連サイト】
Saint-Säens:Piano Concerto No.2(YouTube)
カミーユ・サン=サーンス
[1835.10.9-1921.12.16]
ピアノ協奏曲第2番 ト短調 作品22

【お薦めディスク】(掲載ジャケット:上から)
エミール・ギレリス(p)
アンドレ・クリュイタンス指揮
パリ音楽院管弦楽団
録音:1954年

グレグリー・ソコロフ(p)
ネーメ・ヤルヴィ指揮
ソ連国立交響楽団
録音:1966年

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