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『必殺仕掛人』のすすめ

2023.09.16
はらせぬ恨みをはらす

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 世のため人のためにならない悪人どもを、金を貰って殺す。
 池波正太郎原作の『仕掛人・藤枝梅安』は1972年に発表され、その年のうちにテレビドラマ化された。タイトルは『必殺仕掛人』、初回放送日は1972年9月2日。当時は『木枯し紋次郎』が人気を博していたが、数ヶ月後には視聴率で追い越し、放送が2ヶ月延長され、さらに劇場版も作られた。『必殺仕掛人』のヒットがなければ、その後の「必殺シリーズ」が生まれることもなかっただろう。

 オープニングから斬新である。アコースティックギターの音が鳴り、月岡芳年の無惨絵『英名二十八衆句 古手屋八郎兵衛』が映し出される。頭に刀を刺され、血まみれになった女の顔のドアップだ。さらに、『英名二十八衆句』の別の絵が続く。登場順に挙げると、「笠森於仙」(芳年)、「げいしや美代吉」(芳幾)、「小幡助六郎信世」(芳年/これのみ『魁題百撰相』)、「稲田九蔵新助」(芳年)、「邑井長庵」(芳幾)、「鳥井又助」(芳幾)、「国澤周治」(芳幾)。どれも血みどろである。
 血の匂いが充満する中、睦五郎のナレーションが入る。

はらせぬ恨みをはらし
ゆるせぬ人でなしを消す
いづれも人知れず
仕掛けて仕損じなし
人呼んで仕掛人
ただしこの稼業
江戸職業尽しには
のっていない

 腕はいいが女にだらしない鍼師の梅安役には、当初天知茂が候補として挙がっていたが、最終的に緒形拳に落ちつき、これがハマり役となった。色気、かっこよさ、殺気、人懐っこさ、どれをとっても完璧である。妻子持ちの剣豪、西村左内役は林与一。この役は竹脇無我が断り、林に回ってきたという。昔ながらの時代劇の二枚目スターらしい気品があり、ざっくばらんな緒形の雰囲気と好対照をなしている。仕掛人の元締・音羽屋半右衛門役は山村聰。貫禄があり、優しく、手下思いだが、仕掛人の掟を守らない者には厳しい。裏切りは許さず、自分を騙した依頼人は躊躇なく殺す。山村以外にこの役を巧みに演じられる役者を思い浮かべることは難しい。
 半右衛門の下で仕掛人をサポートする千蔵役は津坂匡章、万吉役は太田博之、半右衛門の妻おくら役は中村玉緒、梅安の愛人おぎん役は野川由美子、左内の妻お美代役は松本留美、と脇を固めるキャストも良い。ゲストもそうそうたる顔ぶれで、室田日出男(第1話)、遠藤辰雄(第2話)、小池朝雄(第3話)、大友柳太朗(第5話)、三國連太郎(第6話)、中尾彬(第7話)、天知茂(第12話)、津川雅彦(第15話)、佐藤慶(第19話)、田村高廣(第21話、第30話)、加賀まりこ(第23話)、伊藤雄之助(第32話)が出演している。

仕掛人の特徴・特性

 全33話で、監督は深作欣二、三隅研次、大熊邦也、松本明、松野宏軌、長谷和夫の6人。撮影は石原興、照明は中島利男。光と影のコントラストで魅せる「必殺」の世界は、この2人が作り上げた。音楽は平尾昌晃。颯爽としたテーマから、情緒に富んだメロディーまで、様々な劇伴を手掛けた才人で、仕掛けのシーンがもたらす高揚感の半分は、その音楽に拠っていると言っても過言ではない。編集の園井弘一、調音の本田文人、題字の糸見溪南、そして制作の山内久司と桜井洋三も、「必殺」ファンにはおなじみの名前である。
 周知の通り、「必殺シリーズ」はマカロニウエスタンの影響を強く受けている。顔のアップを多用した映像、モリコーネ風にアレンジされた音楽からも、それはうかがえる。そもそも金を貰って人を殺す話をテレビドラマで放送しようという大胆な発想からして、マカロニ的と言えなくもない。それまでの時代劇のスタイルに異文化を取り込み、新しい時代劇を生み出した、というと出来すぎた話のようだが、事実そのように発展したのである。

 「お引き受けする以上、この世の中に生かしておいては世のため人のためにならねえ人でないと、私は殺しませんよ」ーー「仕掛人」の第1話冒頭で音羽屋が言うセリフである。音羽屋はこの掟を厳守しているが、依頼人に騙されることもあるし、判断が鈍ることもある。梅安も女にだらしがなく、そのためにドジを踏む。冷静な左内も、世直し思想家にあっさりと感化される。「必殺」はシリーズを重ねるごとにスーパーマン化していくが、「仕掛人」はどこまでも人間臭い。
 後の「必殺」と違い、依頼人がほとんど死なないのも「仕掛人」の特徴である。善良で哀れな依頼人が悪人に殺されることで、視聴者の怒りを爆発させ、悪人を抹殺することへの共感を頂点にまで引き上げる手法は、滅多に使われない。梅安も左内も依頼人のことをほとんど知らない。元締が依頼を受け、密偵が調査を行い、仕掛ける相手が悪人だとわかったら、殺す。あくまでお仕事である。依頼人が誰なのか、視聴者にもはっきりと教えないまま終わるパターンもある。

 全話それぞれ趣向を凝らしているが、私が好んでいるのは、第1話「仕掛けて仕損じなし」(深作)、第2話「暗闘仕掛人殺し」(深作)、第3話「仕掛けられた仕掛人」(三隅)、第4話「殺しの掟」(三隅)、第8話「過去に追われる仕掛人」(大熊)、第9話「地獄極楽紙ひとえ」(三隅)、第11話「大奥女中殺し」(松野)、第20話「ゆすりたかり殺される」(松野)、第21話「地獄花」(三隅)、第23話「おんな殺し」(松本)。ここに挙げた三隅作品のクオリティは異常なほど高く、繰り返しの鑑賞に堪える。時代劇の名匠がメガフォンをとるということで、スタッフも気合いが入っていたのだろう。2022年に刊行されたインタビュー集『必殺シリーズ秘史 50年目の告白録』でも、カメラマンの石原が「どの監督よりも緊張しましたが自由にやらせていただきました」と語っていた。

「地獄花」と「おんな殺し」

 特に素晴らしいのは第21話「地獄花」だ。冒頭、梅安は仕掛けの現場を浪人に目撃される。浪人の名前は神谷兵十郎。かつて藩の取りつぶしに遭い、今は長屋で妻と2人つましく暮らしている飄々とした男で、剣の達人でもある。音羽屋はその腕を見込んで、仕掛人にならないかと持ちかける。神谷は興味を示さない。しかし、「侍に戻りとうございます」という妻の願いを聞き、心が動く。仕官のためには支度金が必要だ。仕掛人になることを承諾した神谷は、呉服屋と癒着して女を斡旋させている悪党・永井監物を殺すべく、雪の降る中、梅安と共に屋敷へと向かう。そこで神谷が見たものとは......。
 ゲストが活躍するイレギュラーな回だが、これは超傑作である。第1話から第6話までのオープニングに出てきた無惨絵「古手屋八郎兵衛」をモチーフとしたシナリオは完璧と言うほかない。前半は立ち小便など尾籠なカットもあるが、後半は鳥肌が立つほどの悲愴美を見せる。神谷役は田村高廣。阪妻を彷彿させるダイナミックな殺陣で、しかも華麗で美しい。なお、神谷は第30話に再登場し、さらに強いインパクトを残すことになる。

 「仕掛人」には梅安、左内、音羽屋の過去を明らかにするエピソードが度々出てくるが、第23話「おんな殺し」では梅安の幼少期の記憶が掘り起こされる。この話で仕掛ける相手は、料亭鳥善の後妻お美乃。鳥善の乗っ取りを企む悪女だ。梅安はお美乃に近づくが、対面したその瞬間、身動きがとれなくなる。目の前にいるのは、幼少期に生き別れになった妹だった。
 一言でいえば、非情で皮肉な運命の話。実の妹を殺したり、過去に自分を謀った元締・赤大黒の市兵衛に報復できなかったりと、梅安にとって大きな試練となった回である。そういえば、第21話で梅安が「たとえ親兄弟でも(殺す)」と話していたが、その時点でフラグが立っていたのだろう。お美乃役は加賀まりこ。魔性と異常性癖(針で刺して痛めつける)で男を色地獄に堕とす妖婦を好演している。針を研ぎながら、「鳥善の女将は、どうやら私の妹らしい」と静かに語り出す緒形の演技も凄まじい。

世界に誇る傑作ドラマ

 「仕掛人」の劇場版は3作ある。1作目『必殺仕掛人』は田宮二郎、高橋幸治がそれぞれ藤枝梅安、西村左内を演じているが、2作目『必殺仕掛人 梅安蟻地獄』、3作目『必殺仕掛人 春雪仕掛針』はドラマと同じキャストである。ただし、西村左内の役名が小杉十五郎に変更されている。『必殺仕掛人』はドラマの第3話と第23話をアレンジした内容で、話としては凝っているが、田宮版の梅安にはシャープさが足りない。
 『梅安蟻地獄』は緒形拳の色気とカッコよさ、佐藤慶の悪役ぶりを堪能させる作品で、仕掛けのシーンは鮮やかだが、話としては月並みだ。『春雪仕掛針』は梅安がかつて捨てた女、お千代(岩下志麻)との因縁話である。お千代が悪女顔になる時の凄みが忘れがたい。梅安が抱く恐怖や苦悩も描かれていて、見ごたえがある。なお、劇場版には3作共通で梅安の愛人おもん(ひろみどり)が登場する。1作目には梅安との絡みはないが、2作目以降は艶っぽいラブシーンがある。

 ドラマ版に話を戻すと、エンディング曲は第5話までインストで、第6話から歌詞がつく。ファンにはおなじみ、山下雄三が歌う「荒野の果てに」だ。オープニングにも変遷があり、第6話まで無惨絵が使われていたが、第7話から絵が差し替えとなり、残酷さが一掃される。視聴者からクレームが入ったのだろう。しかし第10話で、以前より割合を減らす形で、ちゃっかりと無惨絵を復活させている。テーマがテーマだけに、製作陣も気を遣っていたようで、要所で残虐性を緩和させるべく工夫を施している。第1話で作事奉行(室田日出男)が左内に斬られるカットはその好例で、派手に血が噴き出すところでモノクロに切り替えている。
 仕掛けられる悪人は、どいつもこいつも「この世の中に生かしておいては世のため人のためにならねえ人」ばかりである。残酷な人物像という点では、第2話の鷹匠(遠藤辰雄)、第4話の医者の馬鹿息子(和田正信)、第6話の商人(三國連太郎)、第12話の浪人(天知茂)が度を越している。最も難しい仕掛けの相手は、第11話の大奥筆頭年寄(磯村みどり)だろう。大奥ものは江戸城が舞台だけに大掛かりで面白い。ちなみに、私が嫌悪感を抱いたのは、陰湿なやり方で妻を追い込む第7話の放蕩侍(中尾彬)だ。これは演出も冴えず、無駄にスローモーションを使っていて、余計胸がむかむかした。

 『必殺仕掛人』のようにクオリティの高い傑作ドラマが日本のテレビで放送されていたことは、世界に誇れることだと思う。当時は時代劇を専門とする映画人がたくさんいて、斜陽期の映画界では出来ないことをテレビでやってやろうという気概があった。その才能と情熱とエネルギーが「仕掛人」には充満している。
(阿部十三)


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