タグ「ダヴィッド・オイストラフ」が付けられているもの

  • 孤独と不安をこえて シューベルトのピアノ三重奏曲第2番は1827年11月に着手された。完成時期と初演日ははっきりしない。1827年12月26日に初演されたという説もあるが、間違いなく演奏されたのは1828年3月26日の自作演奏会においてである。そのときは好評をもって迎えられたという。 シューベルトは1828年11月19日に31歳で亡くなった。なので、1827...

    [続きを読む](2022.08.05)
  •  1951年、エリザベート王妃国際音楽コンクールの開催が決まった際、ソ連政府の役人はスターリンから「必ず優勝を」と命令された。困った彼らは、国際コンクールでの優勝経験がある大演奏家ダヴィッド・オイストラフに相談した。「ソ連のヴァイオリニストの中で、誰なら優勝できるのか?」オイストラフは答えた。「レオニード・コーガンしかいない」――こうして当時27歳だったコー...

    [続きを読む](2021.08.01)
  • ロマンティックか神経症か チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲は、1878年に作曲され、1881年12月4日にウィーンで初演された。作曲から初演までの経緯は、ピアノ協奏曲第1番と似ている。チャイコフスキーはこれをロシアの大演奏家レオポルト・アウアーに弾いてもらおうと考えていたが、アウアーに「演奏不可能だ」と突き返された。そこへ手を差し伸べたのがモスクワ音楽院...

    [続きを読む](2020.04.05)
  • 完璧な演奏 1917年10月27日、ロシアからアメリカへやって来た16歳のヤッシャ・ハイフェッツは、カーネギーホールで初リサイタルを行い、驚異的な成功を収めた。その信じがたいほど完璧な演奏は、当時客席にいた誰もがかつて耳にしたことがないもの、同業者が脅威を感じるレベルのものだったという。 以来、ハイフェッツの名は「完璧」と同義になり、やがて「ヴァイオリニスト...

    [続きを読む](2019.01.04)
  • 偉大なる系譜 ジョヴァンニ・バッティスタ・ヴィオッティは1755年に生まれたイタリア出身のヴァイオリニストであり作曲家である。フランスのパリで演奏会を行い、注目を浴びたのは17歳の時のこと。その後、マリー・アントワネットに認められて宮廷音楽家になり、名声を博した。 フランス革命後、ヴィオッティは不遇の身となり、ロンドンへ行き、演奏家・作曲家として活動を続けて...

    [続きを読む](2018.11.28)
  •  誰もが一度はダヴィッド・オイストラフの演奏に魅了される。緩急強弱の表現すべてが万全で、安定感があり、艶やかで美しい音色でも、鬼気迫る切れ味鋭い音色でも、翳りのあるメランコリーな音色でも、人をひきつける。どんなに一流と呼ばれる人でも、作品やその中にあるフレーズとの相性の良し悪しが出ることがしばしばあるが、オイストラフにかかると、そういうことはほとんど起こらな...

    [続きを読む](2017.07.08)
  • ヴァイオリンが持つ美の力 ヨハネス・ブラームスがヴァイオリン協奏曲を作曲していたとき、名ヴァイオリニストのヨーゼフ・ヨアヒムが助言を与えていたことはよく知られている。1879年1月、ブラームス自身の指揮で行われた初演でも、独奏を務めたのはヨアヒムである。このヴァイオリニストはマックス・ブルッフとも親交があり、ブラームスより10年ほど前、ヴァイオリン協奏曲第1...

    [続きを読む](2016.09.24)
  •  ユリアン・シトコヴェツキーは32歳の若さで亡くなったソ連のヴァイオリニストである。彼のヴァイオリンの音色は暗闇を切り裂くような鋭さを持っているが、表現は硬軟自在。時に妖しい色彩を帯びてゆらめき、時に独特の切迫感で聴き手の胸を圧する。瞑目して耳を傾けていると、閉塞した世界の中で、生命力をみなぎらせる人間の息づかいが聞こえてくるようだ。それは絶対的にソ連という...

    [続きを読む](2014.03.05)
  • 「ジダーノフ批判」の時期に生まれた傑作 ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番は1947年夏から1948年3月24日の間に作曲された。この時期(1948年以降)、彼はいわゆる「ジダーノフ批判」にさらされていて、作品が演奏禁止になったり、教職を解かれたり、自己批判を強要されたりしていた。 「ジダーノフ批判」というのは、アンドレイ・ジダーノフ主導による言論...

    [続きを読む](2013.06.10)
  • 美と歪み プロコフィエフは若い頃、斬新な作風で賛否両論を巻き起こし、注目を集めていた。ヴァイオリン協奏曲第1番は、そんな彼が青春期の最後に完成させた傑作である。作曲時期は1915年から1917年。初演は1917年11月に予定されていたが、ロシア革命のために流れてしまい、6年後の1923年10月18日、パリで行われた。指揮はセルゲイ・クーセヴィツキー、ソリスト...

    [続きを読む](2012.04.26)
  •  カミラ・ウィックス。名盤聴き比べとか名盤ランキングといった類の記事では滅多に目にしない名前である。ヴァイオリニスト人名事典のようなものを開いてみても彼女の名前が抜けていることは珍しくないし、ニューグローヴ世界音楽大事典にも記載がない。お粗末な話である。彼女が弾いたシベリウスのヴァイオリン協奏曲を一度でも聴けば、こんなことは起こらないだろうに。 カミラ・ウィ...

    [続きを読む](2012.04.04)
  • 愛の協奏曲 バッハはヴァイオリン協奏曲を少なくとも6作品は書いていたといわれているが、現在伝えられているのは3作品のみである。独奏ヴァイオリンのための2作と、2つのヴァイオリンのための1作だ。これらは1717年から1723年のケーテン時代に書かれたとみられている。このうち2つのヴァイオリンのための協奏曲の作曲年は、ほかの2作より早く、1718年頃と推定されて...

    [続きを読む](2012.02.08)
  •  ジネット・ヌヴーのヴァイオリンは胸を突き刺すような鋭い音で聴く者をとらえて離さない。フレーズのどこを切っても鮮血が飛び散りそうなほど熱い情熱が脈打っている。ただし、エモーショナルで尖った音だけがヌヴーの個性というわけではない。彼女の演奏家としての特性はむしろ、火を噴くような荒々しいパトスの奔出、集中力に支えられた逞しい造型感、油絵のような色彩感が統合された...

    [続きを読む](2011.10.10)
  • 憂愁のロマン クラシックの世界で3大ヴァイオリン協奏曲といえば、ベートーヴェン、メンデルスゾーン、ブラームスの作品を指す。そこにチャイコフスキーの作品を加えて、4大協奏曲という言い方をすることもある。だが、「3大」とか「4大」といっても、一般的には知名度にかなりの差があるようだ。この中で圧倒的に聴かれているのは、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲ホ短調(略...

    [続きを読む](2011.03.25)
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