文化 CULTURE

歌手・梶芽衣子 音楽にも愛された女

2011.10.15
 『女囚さそり』や『修羅雪姫』シリーズの存在だけでなく、梶芽衣子の歌も、僕はクエンティン・タランティーノの『キル・ビル』(2003年)を通じて知った。『キル・ビル』の劇中で、梶芽衣子の「修羅の花」(1973年)と「怨み節」(1972年)が使用されていたのだ。《死んでいた朝に とむらいの雪が降る》という、不吉な一節で始まる「修羅の花」、匕首を喉元に突きつけるかのようなドスを利かせる「怨み節」に、僕は大きなショックを受けた。「何と物悲しく、儚く、血生臭い歌だろう!」と。正直なところルーシー・リューの河童のような死に姿などよりも、歌のインパクトの方が圧倒的に強かった。こうして僕は女優・梶芽衣子&歌手・梶芽衣子という、刺激的な新世界へと一気に飛び込んだのであった。

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 言うまでもなく梶芽衣子は「女優」。しかし、彼女が新人であった1960年代後半頃は、映画の主題歌を出演女優が歌う例が多かったようだ。梶芽衣子の歌手活動も、そんな当時の映画界の流れにより、自ずとスタートしていったらしい。彼女のレコードデビューは主演映画『怪談昇り竜』の主題歌「仁義子守唄」(1970年)。そして、歌手・梶芽衣子を世間に印象付けたのが、『女囚701号 さそり』の主題歌「怨み節」だ。
 男の甘い言葉に誘われて身も心も捧げ、騙された末に堕ちて行った女。己の愚かさを呪いつつ、怨み一筋に生きてゆくことを誓うこの歌は、女囚さそり=松島ナミの姿そのものだ。作詞を手掛けたのは『女囚701号 さそり』の監督である伊藤俊也。レコーディングの際に伊藤監督が、サビの一節《怨み節》の《いぃぃぃぃ〜》というコブシの回し方についてしつこくダメ出しをしたところ、「じゃあ監督が歌ってください!」と梶芽衣子が詰め寄ったという逸話が残っているが、この《いぃぃぃぃ〜》は一悶着の甲斐あってか秀逸だ。松島ナミの胸中で渦巻く呪詛の果てしない戦慄きが、怖いくらいに伝わってくる。

 この「怨み節」に代表される通り、映画主題歌における歌手・梶芽衣子は女優・梶芽衣子と同一線上、演技とはまた別の形での役柄の表現だと言える......とはいえ、決して女優の副業的なレベルではないことに、誰もがすぐに気づいたはずだ。時にはドスを利かせ、時には狂気を滲ませ、時には艶やかに、時には儚く、自由自在に歌う梶芽衣子。彼女が純粋な音楽作品としての楽曲にも進出していったのは、ごく自然な流れであったことだろう。そして、歌手・梶芽衣子としての新境地が、遂に鮮やかに刻まれたのが、アルバム『去れよ、去れよ、悲しみの調べ』(1974年)だ。それまでの梶芽衣子は演歌調のサウンドでやさぐれた心情、幸薄い女性像を歌い上げることが多かったが、本作では洗練された海外ポップス、ソフトロック的なサウンドで繊細で柔らかな一面も表現している。作詞:なかにし礼、作曲:大野克夫、編曲:松任谷正隆による収録曲「不思議ね」は、作家陣のクレジットを見るだけでも、本作で実現された新鮮な息吹を感じ取れるのではないだろうか。

 その後も歌手・梶芽衣子はさらなる進化を遂げてゆく。憂いを帯びたフォーク風味のサウンドが際立っているアルバム『きょうの我が身は......』(1975年)。作詞:阿木燿子、作曲:宇崎竜童によるポップス路線のシングル「欲しいものは」「袋小路三番町」(両曲共1977年)。ライト演歌路線の『酒季の歌』(1980年)......などなど、音楽シーンのサウンドの流行を程良く反映しつつ、多彩な世界観に取り組んでいった。しかし、シングル「乾いた華」(1984年)を最後に、歌手・梶芽衣子は長い沈黙へと入る。

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 一時は年間60曲をレコーディングする契約をしていたらしく、彼女がリリースした曲は膨大な数に及ぶ。今となっては入手困難の音源もあるが、ベスト盤が何枚かCDでリリースされているので、代表曲に触れることは難しくない。先述の「怨み節」「修羅の花」は言うまでもなく名曲。『女囚さそり』シリーズ第2弾『女囚さそり 第41雑居房』の劇中歌「女の呪文」(1972年)は、集団脱走をした女囚達が荒野を走るシーンに流れるのだが、映像と抜群にマッチしている。映画と併せて楽しむことをお薦めしたい。「銀蝶渡り鳥」(1972年)は同名映画の主題歌。女博徒を演じた梶芽衣子の和服姿を想像させずにはおかない凛とした歌だ。「やどかり」(1973年)は、不幸がすっかり沁みついた人生を歌っている点で、彼女の初期の作品群の集大成とも言うべき1曲。阿久悠の手掛けた歌詞が抜群に良い。《しょせんやどかり 人生は》というキラーフレーズは、一度聴いたら忘れられない。「海ほおずき」(1975年)は物悲しいフォーク。理想通りの人生を歩めない己の因果を情感たっぷりに歌う......などなど。あなたもお気に入りの曲をたくさん見つけられると思う。

 2009年6月、歌手・梶芽衣子が25年ぶりに復活した。シングル「女をやめたい」をリリースしたのだ。復活の理由を「人生も後半に差し掛かった今、元気を貰えることは何か?と考えたら、自分の意思で取り組んだことはなく、どちらかと言えば苦手意識のある歌の仕事なのかもしれないと思ったから」と、本人は語っている。そして今年、2011年5月にアルバム『あいつの好きそなブルース』がリリースされた。本作は宇崎竜童が全面プロデュース。エッジの利いたロック調、乾いたブルース、ボサノヴァなど、かつての彼女の音楽性とは異なる趣きが広がっている。映画『トラック野郎』シリーズの主題歌「一番星ブルース」(作詞:阿木燿子、作曲:宇崎竜童であることを初めて知った)のカバーは意外だったが、実に素敵な仕上がりだ。「袋小路三番町」のセルフカバーも収録されている。全7曲を聴いて思うのは、「やはり歌声が素晴らしい!」ということに尽きる。時々更新される彼女のブログを読むと、各地で時々ラジオ番組に出演するなど、積極的に今作のキャンペーンを展開しているようだ。先日は聴衆が見守る中、宇崎竜童のアコースティックギターの伴奏で歌い、大いに冷や汗をかいたと、おどけて綴っていた。「ライヴをやりたい」という旨は、様々なインタヴューで語られている。嬉しい。ぜひライヴであの歌声を感じたい。歌手・梶芽衣子は、伝説になるには未だ早過ぎるのだ。
(田中大)


【関連サイト】
梶芽衣子(ブログ)
梶芽衣子(CD)

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