文化 CULTURE

アンチ・デジタル反乱のスローガンは、「君のターンテーブルは死んでいない」

2012.04.14
 6年連続売上アップ、かつ、2011年は前年比で25%増し。
 今の音楽界にそんな調子のいい商品があるとはちょっと信じ難いのだが、実はアナログ・アルバムの話。ちなみにこれは米国内での数値で、計350万枚が昨年1年間に売れたという。まあ、何かが一方向に傾くと必ず反動があるのが世の常なわけで、デジタル・リスニングが浸透する一方でアナログの良さが改めて評価されて、新作アルバムをアナログで買う若者が海外では着々と増えているのである。売上チャートを見ると、1位こそ古典(ビートルズの『アビイ・ロード』)だが、2位はフリート・フォクシズ、3位と7位はボン・イヴェール、ほかブラック・キーズやレディオヘッドなどインディロック勢の新作がずらり。今やそれでも飽き足らずテープに着目する動きもあって、テープ専門レーベルなんてのも存在するほどだ。

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 もちろんアーティストにもアナログ支持派は多く、中でも〈Your Turntable's Not Dead〉をスローガンに掲げ、アナログ復権と音楽とのナマな付き合いを訴えて果敢に活動しているのが、ジャック・ホワイト。ご存知、ザ・ホワイト・ストライプスの解散を経て2012年4月24日にアルバム『ブランダーバス』でソロ・デビューを果たす男だ。彼は2009年に、米南部ナッシュヴィルにThird Manをオープン。ここは主宰するレーベルのオフィスやライヴハウスやスタジオを兼ねたスペースで、以来ジャックは自らのプロデュースで、ナッシュヴィルをツアーなどで訪れるアーティストたちを招いてレコーディングをしたり、Third Manでライヴを行なうバンドのパフォーマンスを録音したりして、音源をスピーディーにアナログ・シングル化。地元の新進バンドからジェリー・リー・ルイスやトム・ジョーンズといった大物に至るまでジャンル・世代問わず、録音機材も当然アナログで、デザインや写真撮影もThird Man内で行ない、近所にある工場でプレスし、併設したショップで売っている(畑の脇にある野菜の直売所みたいなノリか?)。さすがに誰もがナッシュヴィルに来れるわけじゃないから、各地のフェス会場にワゴン車の移動ショップで出張もするし、ウェブサイトでも購入可能。プレイヤーがない? ご心配なく、ちゃんとオリジナルのプレイヤーも各種用意されている。
 またこれらのシングル盤以外にも奇想天外な限定作品を続々送り出しており、今年のレコード・ストア・デイ(個人経営のCD・レコード店を応援するべくミュージシャンたちが特別な作品を提供する恒例のイベント)には透明な中空のディスクにブルーの液体を注入した12インチ・シングルなどをラインナップし、さる4月1日にはソノシート・シングルを結びつけた巨大なヘリウム風船(生物分解性素材を使用)を1,000個制作してショップの前から飛ばすという、パフォーマンス・アートじみた試みでも話題を集めたばかり。拾った人は、いつどこで見つけたのか状況を知らせて欲しいーーと風船には書き添えられていたそうで、ウェブサイトには寄せられた目撃写真が次々とアップされている。

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 現在ではナッシュヴィルの観光名所とも化しているそんなThird Manを、先日ジャックの取材のために訪れたのだが、取材前夜に開かれた3周年パーティーでお土産に頂いたのも、1枚のアナログ・レコード。スタッフの女性は「ウチで作ったシングルの音源が全部入ってるの!」と言う。が、しかし、その数56曲。1枚に収まるわけがなく、なんと史上初の3rpmレコードだったのである。つまり、ストップウォッチ片手に1分間に3回転するよう手で調節しない限り、聴けやしないのだ(動画サイトにはどうにか聴こうとプレイヤーと格闘する人の映像も!)。それはそれで残念だったけれど、「こんなことも出来るアナログって楽しいだろ?」というメッセージは伝わってくるし、オークション・サイトではいい値がついているので、いつかジャックに感謝する日が来るかも(笑)。
(新谷洋子)


[関連サイト]
THIRD MAN RECORDS
レコード産業界の歴史