文化 CULTURE

モーニング娘。'14のエピローグ

2014.12.13
 モーニング娘。のコンサートに行くときは、毎回新鮮な気持ちで会場へ向かう。何度も観ていれば徐々にルーティンワーク化しそうなものだが、一向にそうならない。常にアップデートされる期待とそれに伴う不安が、決まって私の心を占める。1ヶ月前に観たばかりでも、次のコンサートではどんな風に変わるのか、全く読めない。そして終演後は、「来てよかった。また必ず来よう」という気持ちになって会場を後にする。そういったことを繰り返すうちに、私はモーニング娘。が持つ魅力にはまった。

 ただ、今回の「モーニング娘。'14 コンサートツアー秋 GIVE ME MORE LOVE 〜道重さゆみ卒業記念スペシャル〜」に関して言えば、観る前に不安を感じることはなかった。道重さゆみをリーダーとする10人のメンバーなら、前回の「エヴォリューション」ツアーを超えることは可能だろうと当然のように考えていたのだ。「エヴォリューション」でメンバーの一体感が異様に強まっていたことを踏まえた上で、道重の卒業ツアーでは、それがより強靭になることはあっても、緩むことはあり得ないとみていたのである。果たしてその予想が裏切られることはなかった。私は日本特殊陶業市民会館(名古屋)、日本武道館、NHK大阪ホール、横浜アリーナに行き、「モーニング娘。'14の完成形」を目に焼き付けることができた。

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 今回のツアーでは、各公演で全力を振り絞る道重に引っ張られるかたちで、そして最終的には、彼女を支えるかたちで、9期、10期、11期のメンバーが一斉に一歩前に踏み出した。2014年10月29日に発売されたアルバム『14章〜The message〜』の初回生産限定盤Bの特典DVDには、道重のコメントの後、9期、10期、11期のスペシャル・インタビューが収録されていて見応えがあるが、その中で佐藤優樹が「絆という漢字の偏と旁の間に10人がはまっている気がする」と語っている。「GIVE ME MORE LOVE」のステージ上での一体感は、佐藤の言葉をそのまま示すものだった。無論、一体感というのは一朝一夕にして成るものではない。それまでに気負いや葛藤、気持ちの切り替えを経た上で、グループの中に馴れ合いとはまた違う「和」が生まれたのである。

 道重の卒業により、私がモーニング娘。の世界に足を踏み入れた頃在籍していたメンバーはいなくなる。また、彼女の場合、しばらく休業するという話も出ている。そんなこともあって、11月26日の横浜アリーナ公演では寂しさもひとしおだったが、コンサートとしては密度の濃い内容だった。後輩メンバーの頼もしさも十分感じられた。メドレーの途中、道重が足を痛めて動けなくなり、図らずもリーダーが後ろから後輩メンバーを見守るかたちになったときは、観ていて切なくもあり、象徴的な構図のようにも見えたものである。このハプニングが起こった後の各メンバーの対応力は、ファンの間で語りぐさになるだろう。人によって見方はいろいろあるかもしれないが、困難を乗り越える意志の総和があのステージを覆っていたことは間違いない。

 道重にとって、コンサートの途中で動けなくなったのは不本意なことだし、その辛さは観ている方にも伝わってきたが、こういったハプニングが起こることにより、スポーツ紙のインタビューで「泣かない」と宣言していた彼女の極めてエモーショナルな部分が一気に表出したのも事実である。ただ、最後の卒業スピーチのときは、話し方を意識的に切り替えることで感情を抑制し、ファンをはじめとする「すべての人」に向かって、ほとんどよどみなく感謝の言葉を伝えていた。これらのことをひっくるめて、結果的に、道重の成長した部分と変わらない部分を3時間に凝縮したような卒業コンサートになっていた。

 別れと出会い、喪失と再生を繰り返すモーニング娘。の歴史はこれからも続く。2014年9月30日の日本武道館公演では、12期メンバー(尾形春水、野中美希、羽賀朱音、牧野真莉愛)が発表された。彼女たちの加入により、道重が卒業した今、このグループは13人体制になっている。そんな新生モーニング娘。のリーダーは、譜久村聖である。
 考えてみれば、2011年1月に加入した9期メンバーの4人(譜久村聖、生田衣梨奈、鞘師里保、鈴木香音)は、高橋愛、新垣里沙、光井愛佳、田中れいな、道重さゆみと活動を共にし、卒業まで見送ったメンバーなのである。しかも、そういう経験をまだ中高生のうちにしているのだ。先に私は「寂しさもひとしお」と書いたが、おそらくその比ではない感情の波をタフに乗り越えているのである。そんな彼女たちが、これまで見てきたことや経験してきたことを糧に、後輩と共に自分たちなりのモーニング娘。を作っていくことになる。

 新生モーニング娘。に対しては、不安よりも楽しみの方がまさっている。ひとつ気になる点があるとすれば、コンサートツアーのリハーサル量が少なくなっている、ということだろうか。これを前向きにとらえるなら、「リハーサルが少ない分、団結力が増し、集中力を発揮して臨むことができた」となる。逆にとらえると、今の段階でその方法を用いても、彼女たちはまだ若く、己の限界も知らないわけだから、どこかで無理が生じたり怪我をしたりするのではないかと、余計な心配をしたくなる。まあ、次のツアーは12期メンバーを入れて行われるので、やり方も変わるだろう。

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 すでに歌やダンスで大きな存在感を示している16歳の鞘師里保のようなメンバーでも、やはりそれ相応の時間をかけながら自分に有益なものを吸収し、進化ないし突破していくタイプなのだと思う。今回の「GIVE ME MORE LOVE」ツアーでは、愛知公演や日本武道館公演での「キラリと光る星」で歌い手としての成長ぶりに接することができたが、最も印象的だったのはファイナルの横浜アリーナ公演である。ツアーの後半、喉のコンディションを崩していたのが、この横アリで持ち直し、序盤の「What is LOVE?」のソロパート以降、何か吹っ切れたように今の自分の実力をしっかり発揮していた。ああいう大舞台で結果を出せたことは、今後に弾みをつける上でも、収穫だったのではないだろうか。

 収穫と言えば、2014年6月に行われたミュージカル「LILIUM ーリリウム 少女純潔歌劇ー」の公演もはずせない。これは末満健一演出による舞台である。モーニング娘。'14からは7人のメンバーが出演していた。このゴシックな劇で、重圧のかかる難役を演じた鞘師や工藤遥は、それまで開けたことのない引き出しを必要としたと思うが(パンフレットにも演出家がこのように書いているーー「僕は、俳優が自分の引き出しの中にあるものだけで演技を収めてしまうのがあまり好きではありません」)、かなり凄惨で切ない物語の世界に深く溶けこんでいた。普通なら何度も演じているうちに気が滅入りそうである。こうした適応力を今から備え、さまざまな表現方法を経験して楽しむことは、自分の可能性を広げる引き金になる。

 これまでにも何度か書いてきたことだが、モーニング娘。は強い個性を持つメンバーを擁しながらも、不思議なバランスと連携感を体現しているグループである。彼女たちがまとまったときの一体感は、馴れ合いから生まれるものではない。単に複数のメンバーがいる、という意味でのグループでは全くないのだ。私にとって、10人体制のモーニング娘。'14は、特にそのことを再認識させる存在だった。10人は決して少ない数ではないが、今思えば、多いと感じたことは一度もなかった。メンバーの一人一人については、これが足りない、あれが足りないという見方はいくらでもできるだろう。でも、コンサートで10人がステージに立つと、最高だった。コンサートだけでなく、トークの掛け合いでも、絶妙のバランスを保っていた。そういうグループの動向を自分の目でしっかり追うことができたのは、私にとって財産以外の何物でもない。これからも、大切の瞬間の一つ一つを見逃したくないものである。
(阿部十三)


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