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人狼、狼男の伝説 [続き]

2019.11.28
『狼男』

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 前作の失敗を踏まえ、設定やストーリーを改良し、2作目『狼男』(1941年)が製作された。主演は怪優ロン・チェイニーの息子、ロン・チェイニー・ジュニアである。これが大ヒットし、ようやく人狼はホラー映画の定番モンスターとなった。

 『狼男』の主人公ラリー(ロン・チェイニー・ジュニア)も、やはり人狼に咬まれた哀れな男だ。気のやさしい大男で、情けないところもある。しかし満月の夜、狼に変身すると理性が消えて凶暴になる。このキャラクターが大ウケし、人狼のイメージが定まった。「人狼は銀製の武器でなければ殺せない」とか「人狼の体には五芒星の印がある」という人口に膾炙した雑学は、この映画に由来している。

 しかしブームは長く続かず、1950年代以降、人狼はホラー映画の脇道を歩むことになる。この時期に製作されたもので観るべき作品は、ハマー・フィルムの『吸血狼男』(1961年)くらいだ。

1980年代の人狼

 1980年代に入ると、人狼が突然脚光を浴びる。ついにドラキュラやフランケンシュタインの人気を上回る時が来たのだ。そのきっかけとなったのが、ジョー・ダンテ監督作『ハウリング』(1981年)とジョン・ランディス監督作『狼男アメリカン』(1981年)である。

 特殊メイクを手掛けたのは、『ハウリング』がロブ・ボッティン、『狼男アメリカン』がリック・ベイカー。ベイカーが師、ボッティンが弟子である。この師弟が、大きな見せ場である変身のシーンに生々しさを与え、人狼映画のクオリティを劇的に向上させた。特に『狼男アメリカン』で主人公のデヴィッド(デヴィッド・ノートン)が最初に変身する場面は、裸の人間に毛が生え、顔の輪郭や体格が変わり、獰猛な狼になるまでのプロセスを、たっぷりと時間をかけて撮り、そのリアルさで観る者を圧倒した。

 『狼男アメリカン』は、デヴィッドと恋仲になる看護師役のジェニー・アガターも魅力的だし、コミカルな要素も、残酷な要素も、エロティックな要素もある。デヴィッドに自殺を促すゾンビの存在も、面白さと気持ち悪さで何とも言えない気分にさせる。だけど、とても切ない映画で、個人的には人狼映画の最高峰だと思っている。

 『ハウリング』は狼族に狙われた女性キャスターの話で、これまた切ない。難点は、キャスターの同僚が「そこまで活躍するか」と言いたくなるほど狼族退治で凄腕ぶりを発揮し、スリリングさが足りないところ。この映画に出てくる人狼のポイントは、40年前の古典『狼男』を踏まえて狼族退治に「銀」を用いていること、そして、夜に限らず人狼が人を襲うという設定上の変化だろう。

ミュージックビデオで人気者に

 この2作ほど人気があるわけではないが、同じ年にもう1作、アルバート・フィニー主演の『ウルフェン』(1981年)が公開されていたことも付け加えておく。『ウルフェン』の特徴は、狼から見た視点を、不気味な特殊効果を駆使して表現しているところで、この手法は『プレデター』(1987年)などに引き継がれた。

 これらの作品で再びモンスター界の花形となった人狼は、活躍の場を広げ、マイケル・ジャクソンの「スリラー」(1983年)のMVで世界中の人の目に焼き付けられた。私自身、童話や漫画でしか知らなかった「オオカミ男」を実写で見たのは、これが初めてだった。MVを演出したのはジョン・ランディス、メイク担当はリック・ベイカー、『狼男アメリカン』のコンビの仕事である。

その後の人狼

 「スリラー」の後、マイケル・J・フォックス主演の『ティーン・ウルフ』(1985年)、スティーヴン・キング原作の『死霊の牙』(1985年)などが製作された。1990年代に入っても「人狼映画」は撮られたが、大ヒット作はない。ただ、ジャック・ニコルソン主演の『ウルフ』(1994年)には、人狼になることは必ずしもネガティブではないという解釈(精力が増すなど)が盛り込まれている。また、その解釈を引き継ぐ形で、2011年にドラマ版『ティーン・ウルフ』が製作され、シーズン6まで続くほどの人気番組となった。

 最近は、人狼を扱った文学も映画もパッとしないが、「人狼ゲーム」が流行するなど、人狼は世の人々に忘れられることなく認識されている。ジキルとハイド的な人間のことを人狼と呼ぶこともある。なるほど、その用法は適切だと思う。一見怖い人が、実は良い人だったという例ならまだ救いはあるが、それよりもSNSで善人の顔を見せ、裏で悪いことをしている人間の方が増えているような気がする。それこそ現代の人狼だろう。
(阿部十三)


[参考文献]
児玉数夫『怪奇映画紳士録』(明治書院 1975年)
風間賢二「人狼について 伝説・小説・映画」(スティーヴン・キング『マーティ』解説 学習研究社 1996年)
ロバート・カラン/粟生こずえ『封印された博士ノート 恐怖のオオカミ男』(学研教育出版 2015年)



【関連サイト】
人狼、狼男の伝説

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