文化 CULTURE

オーディオ・マニアの鑑賞記 バルトークの「弦チェレ」第2楽章 36枚聴き比べ

2021.08.28
はじめに

 昨年、お気に入りディスク数枚を基にスピーカーを比較試聴し、私のオーディオシステムに最適なスピーカーが定まった。その後も、光学ドライブの更新や設定変更等いくつかの調整を経て、好ましい響き方・鳴り方のシステム構成が出来上がった。

[CDプレーヤー相当]
・外付け光学ドライブ
 (パイオニアReal Time PureRead活用)
・ノートパソコン
 (192kHz、32Bitにアップサンプリング)
・D/Aコンバーター:SoulNote D-1(BulkPet転送)
[アンプ]
・プリメインアンプ:アキュフェーズ E470
 (AB両端子を使ってバイワイヤ接続)
[スピーカー]
・DALI Helicon 400
・PMC twenty5 22

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 このシステムの良さを最大限発揮するには、どんな曲やディスクがベストだろうか。私が思いついたのは、バルトークの「弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽」だ。この作品なら、各楽器群が入れ替わり主役になってそれぞれの響きを味わうことができるし、特に第2楽章は旋律やリズムの変化が面白く、オーディオ性能の良さを存分に楽しめそうだ。この楽章を何度か聴いているうちに、頭に浮かんだ光景は......

 アフリカの荒野で野生動物が駆け回り、ヒョウがジャッカルを仕留めて食いちぎり、その狩りの様子を伺っているハゲワシが、ヒョウの隙をついて上空から急接近し、獲物の断片をかすめ取って飛び去る。

 そんなイメージで、猛々しさや緊迫感、生命の脈動を感じさせるような演奏が、私の理想像となっている。
 そこで、このイメージを充分に味わえるような、加えて、オーディオ趣味もあるのでできるだけ録音が新しく鮮明に聴こえるマイベスト盤を探そうと思い立ち、期待できそうなディスクを新たに入手し、32種の録音、さらにリマスター等の4種を合わせて、全36種のCDを聴き比べてみた。

 整理の方法としては、大きく2つの軸、演奏内容が私の好みか、再生音が鮮明かに基づき面的にマッピングし、さらに、表面と裏面を照らし分ける感じで、2種類のスピーカーによる聴感の違いも意識した。主に、前稿でベストとしたPMC25-22(以下、PMCと略す)で評価しつつ、傾向の異なるDALI Hellicon400(以下、DALIと略す)で聴いた相違点を記録した。
 それでは各ディスクの印象を順次挙げていく。まず、音質順に5つのグループに分類し、録音年代順に並べ、演奏内容を勘案して、満足度を表していく。5段階評価で、○は良い点、▲は残念な点、※は備考である。
(三ツ瀬 歩)

グループ1(音質:★☆☆☆☆)

グループ1とグループ2は録音の古さが顕著で、クラシック愛好家で古い録音に慣れている方なら特に苦労は無いかもしれないが、演奏の細部を聴き取るにはかなりの脳内補正が伴う。特に、この曲になじみのない方が聴くと、ストレスが溜まるばかりではないかとさえ思えるが、個性的な演奏もいくつかあるので、その出会いは楽しかった。

【フェレンツ・フリッチャイ】
RIAS響 グラモフォン 1954年録音
(内容:★★★★☆  満足度:★★★☆☆)

〔PMC〕
▲ 高〜低の帯域がかなり狭く、窮屈な印象。
▲ 音の動きとしては、音圧の強弱だけなので、オーディオ的な愉しみの面では、満足感はほとんど得られない。
〔DALI〕
◎ 音が、塊となって押し寄せて、まるで滝に打たれているような印象。熱い情念のエネルギーを帯びているようにも感じられる。
〔共通〕
・モノラル録音の影響や、最も古くて音がかなり曖昧だからなのか、他のディスクとは一線を画す印象で、独特の魅力が感じられた。
・テンポはやや遅めだが、概ね標準的な速さ。
・モノラルなので、弦楽器の左右対向配置による、音の動きを楽しむ魅力は無い。
・音質は★☆☆☆☆未満。

【グイド・カンテッリ】
ニューヨーク・フィル Stradivarius 1954年録音
(内容:★★☆☆☆  満足度:★★☆☆☆)
〔PMC〕
▲ マイクがオケからかなり遠い印象で、オケ全体を見渡せるが、その代わりに各楽器群の響きや抑揚がかなり曖昧。
 〔DALI〕
○ 録音が古いわりに、各楽器群は判別できる程度に聴こえる。
○ メリハリや緊迫感も垣間見える。
○ フリッツ・ライナー盤に似た畳み掛ける印象も感じられる。
〔共通〕
・モノラルなので、弦楽器群の左右対向配置による音の動きを楽しむ魅力は無い。
・音質は★☆☆☆☆未満。

【ヘルベルト・フォン・カラヤン】
ベルリン・フィル EMI 1960年録音
(内容:★★★☆☆  満足度:★★☆☆☆)

〔PMC〕
▲ ピアノが、中盤と終盤の聴かせどころで、音程がずれているように響いて、マイクの位置が遠いとか、ミキシングが悪いのかなど、イヤな方に引っかかるのが残念。
〔DALI〕
○ 弦パートの左右対向はハッキリ。左右の掛け合いが楽しい。
○ PMCより低域が豊かで、ドスが効いている。
〔共通〕
・テンポの速さ、演奏のキレの良さがよく伝わる。軽くさばいている印象。

【エフゲニー・ムラヴィンスキー】
レニングラード・フィル GRAND SLAM 1965年録音
(内容:★★★★☆  満足度:★★★☆☆)

〔PMC〕
▲ 中域があまり感じられず、高域寄りでシャリシャリ。
〔DALI〕
○ PMCに比べ、肉感的で、重み・厚みが増す。
○ キレの良い音が弾丸のように、次々と飛び出してくる感じで楽しい。
○ 解像度はPMCより落ちているが不満というほどではなく、総合的には満足度が高くなる。
〔共通〕
・演奏内容(緊迫感など)は、1965年録音のメロディア盤とおおむね同じ印象。

【ハンス=シュミット・イッセルシュテット】
北ドイツ放送響 EMI 1971年録音
(内容:★☆☆☆☆  満足度:★☆☆☆☆)

〔PMC〕
▲ テンポが遅めのため、碁石を慎重にポツンポツンと碁盤に置きに行くかのような印象。
▲ この曲(楽章)については、遅いのは残念...と、自分の好みを再確認させてくれた。  
〔DALI〕
▲ ポツンポツンの印象は相変わらず。
○ PMCに比べて肉感的になり、単に遅いだけではなく説得力を帯びた印象。

グループ2(音質:★★☆☆☆)

【フリッツ・ライナー】
シカゴ響 BMG(SACDのCD層) 1958年録音
(内容:★★★★☆  満足度:★★★☆☆)

〔PMC〕
▲ 冒頭のヴァイオリンの音が、蚊の鳴くようなか細さ。
○ 全般的に音像がシャープで見晴らし良い。
○ 中盤のティンパニが、弾むように聴こえて好ましい。
◎ 終盤の、畳み掛けるような疾走感、緊迫感が、新たな発見のようで印象的。
〔DALI〕
○ ヴァイオリンの音が、厚みやふくよかさがやや出て、好ましい響きに改善。
▲ 粒立ちは低下し、お粥状に近づく。
○ 終盤の緊張感、音の厚みが増して、迫力が増した。

【フリッツ・ライナー】
シカゴ響 廉価盤 1958年録音
(内容:★★★★☆  満足度:★★★☆☆)

〔PMC〕
○ SACDのCD層盤で気になった、高域のシャリシャリ感は無かった。
▲ その代わり、音像のシャープさや見晴らし良さも薄まった。
〔DALI〕
▲ SACDのCD層盤と概ね同じ印象
〔共通〕
・廉価盤なので見くびっていたが、わりとしっかりした音で聴ける。

【フリッツ・ライナー】
シカゴ響 BMG 1958年録音
(内容:★★★★☆  満足度:★★★☆☆)

〔PMC〕
○ 廉価盤と同様、SACDのCD層盤で気になった高域のシャリシャリ感は無かった。
▲ その代わり、音像のシャープさや見晴らしの良さが薄まった。
▲ 廉価盤と概ね同じ印象
〔DALI〕
○ プラシーボ効果程度に、廉価盤よりも音の太さがやや改善したような気がする。

【レオポルト・ストコフスキー】
ストコフスキー響 ウラニアレコード 1959年録音
(内容:★★★☆☆  満足度:★★★☆☆)
○ 前半はゆったりで、まるで奇妙さを打ち出したいかのような印象。徐々に加速し、後半は駆け足気味となり、盛り上げ方がうまい。
〔PMC〕
○ 録音の古さを考えると、じゅうぶん聴きやすい音質の良さ。
・全体的には抑揚が感じられるが、後半での「ここが山場」と思うところでの強さがイマイチなのが惜しい。
〔DALI〕
○ 左右パートをはっきり分けているのを強く感じる。
○ PMCでは古く枯れた印象だったのが、脂が乗って太さ・厚さが出た。

【レナード・バーンスタイン】
ニューヨーク・フィル SONY 1961年録音
(内容:★★★★☆  満足度:★★★☆☆)

〔PMC〕 
▲ 音の厚み・太さがあまり感じられない。
▲ 高域が、上限ラインにぺったり張り付いたような印象で、やや耳障り。
○ 澄み切って、ホールトーンが感じられる。
○ 見晴らし良く、気持ちいい。
◎ 速さと、ヒステリックな強さが熱気を帯びており、私が求めている野蛮さを感じる。
○ 緩急と抑揚の変化も良いアクセントになっている。
※「これで音がもっと良ければ理想のディスクかもしれないのに...」と思いつつ、逆に、「音の悪さが生み出したヒステリックさ等の印象かもしれないし...」とも思う。
〔DALI〕
○ 各パートの厚みがやや改善する。
▲ 代わりに、見晴らしの良さは減衰。

【ヘルベルト・フォン・カラヤン】
ベルリン・フィル グラモフォン 1965年録音
(内容:★★★☆☆  満足度:★★★☆☆)

〔PMC〕
○ 各パートが整然と組み立てられているのが強く感じられる。
○ カラヤンとベルリンフィルの組み合わせによる、威厳あふれる構築力・風格に感心させられる。
▲ 中域が古ぼけて籠ったような印象。
〔DALI〕
○ ぼやけが気にならなくなった。
○ 全体的な印象としては、オケらしく聴こえる。
▲ よく聴くと、いくつかの楽器が曖昧だったり欠けたりと、粒立ち低下。
〔共通〕
・ライナー盤やバーンスタイン盤に比べて、低域の量感があり、音の厚みが増す。
・テンポが速いのは良いが、もっと野蛮さが欲しい。

【エフゲニー・ムラヴィンスキー】
レニングラード・フィル メロディア 1965年録音
(内容:★★★★☆  満足度:★★★☆☆)

〔PMC〕 
○ キレの良さ、緊迫感が如実に感じ取れる。
○ スピード感があって明快。
※「No Noise」とあるように、先述GRAND SLAM盤に比べ高域をバッサリ削った印象。
〔DALI〕
○ 速さに加えて、止めも効いていて良い。
○ 低域のドスも効いていて、怒っているかのような、叩きつけている印象。
○ PMCに比べ、肉感的で、重み・厚みが増す。
○ キレの良い音が弾丸のように、次々と飛び出してくる感じで楽しい。
○ 解像度はPMCより落ちているが不満というほどではなく、総合的には満足度が高くなる。

【ピエール・ブーレーズ】
BBC響 ソニー 1967年録音
(内容:★★★★☆  満足度:★★★☆☆)

〔PMC〕
◎ ブーレーズの演奏の特徴として「攻撃的な」との表現を目にしたことがあるが、エッジが効いていて刺激的。
◎ 速めのテンポの中、キリリと搾り上げられた統率感が好ましい。
〔DALI〕
▲ 肉感が出たのは良いが、音が素早く入れ替わるような場面では、やや混濁気味になってしまい、解像度が欲しくなる。
※PMCで感じた攻撃的な響きは、角がやや和らいで、「キレが良い」程度に収まった。

【エフゲニー・ムラヴィンスキー】
レニングラード・フィル Russian 1970年録音
(内容:★★★☆☆  満足度:★★☆☆☆)

〔PMC〕 
○ 1965年録音のカラヤン盤に似た、軍隊の重厚な進軍のような威圧感がある。
▲ 整然としている点は良いが、節回しや歌はなく、面白みが感じられない。
〔DALI〕
▲ 1965年録音のメロディア盤より新しいはずが、むしろ古ボケた音質の印象。
▲ 高域のシャリシャリ感が耳障り。

【レナード・バーンスタイン】
バイエルン放送響 MEMORIES 1983年録音
(内容:★★☆☆☆  満足度:★★☆☆☆)

〔PMC〕
▲ 終盤やや手前で、指揮者は変速したいのにオケが困惑して乱れてしまった感じが手に取るように分かる。
〔DALI〕
○ PMCに比べ、肉感的で、重み・厚みが増し、格段に魅力的になった。解像度はPMCより落ちてしまうが不満というほどではなく、総合的には満足度が高くなる。
▲ 終盤やや手前の乱れは、相変わらず気になる。
〔共通〕
・録音年は比較的新しいのに(ライヴ録音とはいえ)音が悪い。

グループ3(音質:★★★☆☆)

音質的にはだいぶ聴き取りやすくなり、ストレスがかなり軽減される。また、このグループは1970年代や1980年代の録音が中心なので、1950年代に録音されたライナー盤が入ってきたのは異例のこと。ビクターのXRCD技術によって20年若返ったのかと思うと、面白かった。

【フリッツ・ライナー】
シカゴ響 BMG(XRCD2盤) 1958年録音
(内容:★★★★★  満足度:★★★★☆)

〔PMC〕
◎ 動物的なリズムを刻みながら、駆け巡っているような印象で、血のたぎりを感じさせる。
○ 通常盤の欠点だったヴァイオリンのか細さが改善。
◎ PMCで聴くと、肉を食いちぎったときに血の雫が点々と滴り落ちたり、投げ捨てられた骨がこちらに飛んできたかのようなリアリティが感じられ、この曲のイメージ通りに楽しめた。
〔DALI〕
○ RCAのリッチサウンドが、色鮮やかに蘇った感じ。
○ 細かい部分はさておき、オケの迫力が増す。
▲ 細かい部分が曖昧になり、動物的な機敏さ、脈動のような生々しさは大きく損なわれる。

【アンタル・ドラティ】
コンセルトヘボウ管 フィリップス 1974年録音
(内容:★★☆☆☆  満足度:★★☆☆☆)

○ 左右振り分けで、オーディオ的には聴き応え良好。
〔PMC〕
▲ モソモソと、音がやや籠った印象。
〔DALI〕
○ PMCに比べ、肉感的で、重み・厚みが増す。
○ 解像度はPMCより落ちているが不満というほどではなく、総合的には満足度が高くなる。

【小澤征爾】
ボストン響 グラモフォン 1976年録音
(内容:★★☆☆☆  満足度:★★☆☆☆)

〔PMC〕
▲ 音が、細く、薄く、華奢に感じられる。
〔DALI〕
○ PMCに比べて、音が濃厚になって良い。
▲ 左右感は、PMCに比べてDALIの方がやや弱まるように感じられる。

【ユージン・オーマンディ】
フィラデルフィア管 EMI 1978年録音
(内容:★★★★☆  満足度:★★★☆☆)

〔PMC〕
▲ 高域が頭打ちで、低域も不足気味で、芯がか細く、鳴り方が窮屈な印象。
○ 中域の情報量は充実しており、細やかで満足。
〔DALI〕
○ 統率感があり、ビシッビシッ、ドスッドスッと、揃うべき箇所、アクセントとなるべき箇所がキッチリ押さえられている印象。
○ 音の響き、高域〜低域のバランスが良い。

【ラファエル・クーベリック】
バイエルン放送響 オルフェオ 1981年録音
(内容:★★☆☆☆  満足度:★★☆☆☆)

▲ 弦パートが対向配置ではない。
〔PMC〕
○ ライヴながら、各楽器群がわりと明瞭。
▲ DENONのインバル盤同様に、高域が硬い印象。
〔DALI〕
▲ ほんのりまろやかな傾向になり、高域の硬さが和らぎ、気にならなくなった。それでも、バランスが高域に寄っている印象は存続。

【イヴァン・フィッシャー】
ブダペスト祝祭管 フィリップス 1985年録音
(内容:★★★☆☆  満足度:★★★☆☆)

〔PMC〕
▲ どの楽器も腰が引けてるような、こじんまりとした鳴り方に聴こえる。
▲ 全体的に平板で、抑揚の振れ幅が狭く感じられる。
〔DALI〕
○ PMCで気になっていたマイナス要素がどれも改善され、各楽器群の実体感や迫力が出て、どの楽器もバランス良く聴こえる。
○ 音の重なり、つながりがとても楽しく、自然と引き込まれるような魅力がある。
※今回のテーマは、内容面では「猛々しさ」を追求しているので★3評価とし、音質面含めて総合評価も★3としているが、このディスクは私にとって衝撃的な発見であり、格別な1枚である。他のディスクは大別して3種類で、猛々しさが魅力的なもの(★4以上)、比較的整理されていて何となく聴きやすいもの(★3)、何もかもチグハグな印象で「この曲は何が良いのか理解しがたい」と思わされるもの(★2以下)...のいずれかであった。このディスクを聴くまでは、この曲の印象はアリの巣のように変則的でグロテスクなものだったが、このディスクをDALIで聴いてハッとさせられ、まるで城郭を目の当たりにしているような造形美を堪能することができ、初めて真の姿を見たような、腑に落ちたような感じがした。

【シャルル・デュトワ】
モントリオール響 デッカ 1987年録音
(内容:★★★☆☆  満足度:★★★☆☆)

〔PMC〕
○ 色彩感が豊か。
○ モニター的に鳴って、PMCとの相性もまずまず。
〔DALI〕
○ PMCよりも低域に迫力が出て良い。そのためか、PMCよりも猛々しさが出て良い。

【ゾルターン・ペシュコー】
バーデン=バーデン南西ドイツ放送響 Arte Nova 1988年録音
(内容:★★★☆☆  満足度:★★★☆☆)

〔PMC〕
○ 楽器がとても近くに感じられる。
○ 整然とした構築美を感じる。
〔DALI〕
○ PMCに比べ肉感的で、野太い重低音や、各楽器群の音の厚みが増した。とても迫力があって、聴き応えがある。
○ 解像度はPMCより落ちているが不満というほどではなく、総合的には満足度が高くなる。

【ゲオルグ・ショルティ】
シカゴ響 デッカ 1989年録音
(内容:★★☆☆☆  満足度:★★☆☆☆)

音像がセンター寄りで、ステレオの面白みがあまり感じられない。しかし、この曲の個性的なメロディ運びの扱いに困惑しているような、たどたどしい演奏とは対極的で、流れるような演奏で聴きやすい。
〔PMC〕
○ ダイナミックレンジは広く、その点での迫力は好ましい。
〔DALI〕
○ PMCに比べ肉感的で、弦楽器が弾むように聴こえて心地よい。

グループ4(音質:★★★★☆)

このグループになると、デジタル録音により経年劣化が無いおかげか、解像度の高さが感じられるようになり、かなり鮮明に聴こえる。

【アンタル・ドラティ】
デトロイト響 デッカ 1983年録音
(内容:★★★☆☆  満足度:★★★☆☆)
○ アンサンブルの厚みをある程度感じられる。
〔PMC〕
○ 各楽器群は、わりと明瞭。
○ 楽器が弾力感を持って響き、ホールトーンも感じられる。
〔DALI〕
○ 弾力感の豊かな音の圧力がとても強く、迫力が充分である。
〔共通〕
・テンポは標準的で、音符をよく味わうかのように進行。

【ジェームズ・レヴァイン】
シカゴ響 グラモフォン 1989年録音
(内容:★★★★☆  満足度:★★★★☆)

〔PMC〕
○ 楽器が近く感じられて、粒立ちも良い。
〔DALI〕
○ 理想的イメージまでではないが、駆り立てる感じは強い。
○ 終盤の疾走感が良い。
○ 音が太くなり、迫力が出て良い。
○ 響きが、絢爛豪華、濃厚な印象。
※音質、内容いずれも★5には及ばなかったが、両方とも★4だったのは、唯一このディスクだけだ。傑出した部分は無いが、大きなマイナス要素も無く、総合的に評価すると最もポイントが高い。オーディオにもクラシックにも特別な興味の無い友人が遊びに来て、「このオーディオでどんな曲を聴いているのか?」と問われたら、このディスクをDALIで聴かせると思う。
〔共通〕
・テンポが速めで小気味良い。

【マリス・ヤンソンス】
オスロ・フィル EMI 1990年録音
(内容:★★★☆☆  満足度:★★★☆☆)

〔PMC〕
○ カラヤン盤に似た構築力・風格に加えて、各楽器が明瞭に聴こえて好ましい。
○ ホールトーンがやや感じられる。
〔DALI〕
○ PMCに比べ、こもり感が気にならなくなり、鳴らしきっている印象。
○ オケに迫り過ぎず、引き過ぎず、距離感のバランスが良い。
〔共通〕
・テンポは速めで、緊迫感もやや有りつつ、メリハリも効いていて良い。

【エリアフ・インバル】
スイス・ロマンド DENON 1991年録音
(内容:★★☆☆☆  満足度:★★★☆☆)

〔PMC〕
○ 低域は迫力あって良い。
▲ 高域が硬い印象。
▲ 中域が弱く、音が薄い。
〔DALI〕
※PMC同様にドンシャリ傾向。
▲ 中域が欠けているかのような印象で、もっと中域の充実感が欲しくなる。

【アダム・フィッシャー】
ハンガリー国立響 Nimbus 1992年録音
(内容:★★☆☆☆  満足度:★★★☆☆)

〔PMC〕
○ 響きから、ホールの広さが感じられる。
▲ マイクがオケからかなり遠いような、各楽器の響きがのっぺりしているような印象。
〔DALI〕
○ PMCに比べ、音の芯が太くなり弾力感が増す。
○ 猛々しさに通じる、駆り立てる感じがやや出る。
▲ 各パートのつながりが不自然で、浮足立っているようにも感じられる。

【ピエール・ブーレーズ】
シカゴ響 グラモフォン 1994年録音
(内容:★★☆☆☆  満足度:★★★☆☆)

〔PMC〕
◎ 低域が、地響きのようにイカつく迫力ある。
○ ヤンソンス盤よりも明瞭。
〔DALI〕
○ PMCではやや窮屈な鳴り方だったのか、サイズの合うスーツを着たような、どの音も自然に聴こえる。

【ミヒャエル・ギーレン】
南西ドイツ放送響 Hanssler 2003年録音
(内容:★★☆☆☆  満足度:★★★☆☆)

〔PMC〕
◎ 各楽器群が明瞭。
◎ ホールの広さが感じられる。
◎ 低域が沈み込む。
▲ 高域がやや不足しているように感じられる。
〔DALI〕
○ PMCに比べ高域の量感が増し、バランスが改善した。
▲ 低域とホールトーンがやや過剰で、やや混濁感。
〔共通〕
・テンポがゆったりしている。

【小澤征爾】
サイトウ・キネン デッカ 2004年録音
(内容:★★★☆☆  満足度:★★★☆☆)

〔PMC〕
▲ シャリシャリとまでは言わないが、音の厚みががなんか薄い。
▲ スピーカーのキャパが足りてないような飽和感。
○ 整然とした構築美。
〔DALI〕
○ 帯域バランスが良い。
○ PMCより肉感的で良い。

グループ5(音質:★★★★★)

他のグループに比べると、別次元の音の鮮明さが感じられ、オーディオの愉しみを存分に味わうことができる。

【ニコラウス・アーノンクール】
ヨーロッパ室内管 RCA 2004年録音
(内容:★★★☆☆  満足度:★★★☆☆)
〔PMC〕
○ 小編成のオケを近くでマイク録音する利点だと思うが、各楽器の音がとても鮮明で良い。
・これでエッジが利いていれば、猛々しさも抜群になるだろう...と想像するものの、あいにくそういうスタイルではない。
〔DALI〕
○ 音の厚みが増し、圧迫感に近い迫力が出る。
〔共通〕
・エッジ鋭く...というよりは、楽器の響きを大切にしているような印象。

【マリン・オールソップ】
ボルティモア響 NAXOS 2010年録音
(内容:★★★★☆  満足度:★★★★☆)
○ 際立った猛々しさこそ無いが、躍動感は比較的高いレベル。
 〔PMC〕
◎ 面前で力強く響き、熱い圧力と楽器の実体感を感じる。
○ ワンポイントマイクでの録音と思われるような、立体感・臨場感の高さが楽しめて良い。
・ヤルヴィ(PMC)のような、透明感や8K映像的な解像度の高さとまではいかない。
 〔DALI〕
・音圧レベルが高い場面で、心なしか音が歪んでいるような印象を受けた。但し、PMCでは感じなかったので、スピーカーの特性によるものや、私の聴覚が追いつけてないせいかもしれない。

【ゾルタン・コチシュ】
ハンガリー国立管 フンガロトン 2010年録音
(内容:★★★★☆  満足度:★★★★☆)
※評価の基準が、内容面では「猛々しさ」を追求しているので★4とし、音質面含めて総合評価も★4にとどめておくが、補足説明が必要である。「猛々しさ」に代えて「造形美」とするならば、満足度は初の★5である。
◎ 際立った猛々しさこそ無いが、テンポの緩急や音の強弱・抑揚が素晴らしく、抜群にこの曲を表情豊かに楽しませてくれる。
◎ つくづく隙が無い印象。他の盤で気になったような間延びした空白が決して無く、高い緊張感を保ったまま精巧に構築されている。昔、初めてカラヤンやセルを聴いて、統率力の高さに驚いたときのことを思い出した。ブーレーズの演奏についてレントゲン写真を引き合いに出されることがあるが、そんな印象に通じるものを感じる。
○ それでも、必要な粗密は温存され、起伏が感じられて良い。
〔PMC〕
◎ イヴァン・フィッシャー(DALI)で感銘を受けた造形美を、さらに強く感じる。
◎ 各楽器群のバランスの良さがよく分かる。
◎ 面前で力強く響き、熱い圧力と楽器の実体感を楽しめる。
◎ 音が良く、キレ味・弾力感ともに充分。
◎ マイクを適切に配置し、編集段階で各楽器群のバランスを丁寧に調整し、作曲者のイメージや指揮者の意図に忠実なものとなるようにディスク化されている印象を強く感じる。
〔DALI〕
◎ まるで、オケが目の前に広がっているかのような、鮮やかさと迫力がある。
◎ PMCに比べ、美しさと雄大さがより強く感じられる。
・但し緊張感は、PMCに比べやや緩和する。

【パーヴォ・ヤルヴィ】
NHK響 RCA 2017年録音
(内容:★★★☆☆  満足度:★★★★☆)

〔PMC〕
◎ ピントがピタッと合ったような、見晴らしの良さ。
◎ ノイズ感が無く、静寂の中に音が浮かび上がる。
○ 高域〜低域のバランスも良い。
○ 余韻や録音技術の良さのおかげなのか、色彩感が豊かで良い。
※8K映像を高性能ディスプレイで観ているような、録音・再生ともに技術の高さを楽しめるので、オーディオマニア的には大いに満足できる。しかしながら、ライナーのような野生感の対極で、上品・華やかな印象となり、理想的なイメージからはほど遠い。
〔DALI〕
◎ 弦の余韻含め、ホールトーンが豊か。
○ 低域の量感が増す。
▲ 見晴らしの良さは無くなり、うっすら響きが覆う。
▲ やや引き気味に聴こえる。

おわりに

【音質とスピーカーの相性】
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 これは指揮者に優劣をつけたものではない。今回、比較試聴を通じて感じたのは、レコーディングに関わったスタッフの重要性である。演奏そのものも当然重要だが、いくら指揮者やオーケストラが良くても、良いCDやレコードに結実するとは限らない。録音マイクの配置場所や数、ミキシングの加減などの録音・編集方法が、圧倒的なまでに聴こえ方に影響してくるのだ。分かりやすいのは編集工程で、例えば同じ音源のフリッツ・ライナー盤でも、通常盤では蚊の鳴くような音で残念な印象だったものが、XRCD盤では太さ・厚みが出て、迫力の面で抜群の1枚となった。こういったCDを生み出すには、バルトークないし20世紀以降の現代音楽に対する深い理解、知識、リスペクトがスタッフにも不可欠であり、その上でマイクを設置し、ディスク化のために編集するといった、熱心で、きめ細かいサウンド・プロダクションが必要なのだと痛感した。

 今回の36枚の試聴において、PMCとDALIとの比較を振り返ると、ディスクの音質により相性の傾向が見えた。音質:3以下ではDALIの方が概ね相性が良く、音質:4では拮抗、音質:5が出せるのはPMCのみだった。極端に表現するとこうだ。音質の悪いディスクをPMCで聴くと、演奏はさておき音の貧弱さが露わになり、楽しめずストレスになる。しかし、DALIで聴くと、音質の悪さ・貧弱さが繕われて聴きやすくなり、歴史的名演奏を楽しくことができる。一方、音質の高いディスクをDALIで聴くと、概ね良い音ではあるが、わずかながら曖昧さが感じられ、一皮剥けないもどかしさが残る。しかし、PMCで聴くと、プロジェクションマッピングのように精緻かつ立体的に描き出し、ホールトーンが見えるかのように鮮明に聴こえる。単にメリハリが効いているといった陳腐なものではなく、清澄な音空間であり、オーディオ趣味としての手応えや満足感が非常に大きい。そんな、スピーカーの違いへの理解を深めることができたのも、今回の収穫となった。

【価値観を変えた、新たな発見】
 私はピアノ協奏曲第1番のポリーニ盤で衝撃を受けて以来、バルトークの特徴は「猛々しさ」や「グロテスクさ」にあると思っていた。「はじめに」でも、弦チェレの印象について、「アフリカの荒野で野生動物が駆け回り、ヒョウがジャッカルを仕留めて食いちぎり......」と書いた。しかし、今回聴き比べをしていくうちに、スケールの大きな「造形美」こそが、この作曲家や作品の特徴なのではないかと思えてきた。そのきっかけとなったのはゾルタン・コチシュ盤である。正確に言うと、「造形美」を示唆したイヴァン・フィッシャー盤を経て、コチシュ盤を聴いたことにより、新たなバルトーク像が見えてきたのだ。

 とは言うものの、今まで猛々しさを求めて、野生動物のイメージを思い描いて聴き続けてきたので、気持ちの整理が追い付かない。猛々しさの最たるものはライナー盤だった。コチシュ盤と比べると近視的で、音の数ではメインが2つ程度、サブが1つあるかなとの印象。追うものと追われるもの、主役に絞り込んで肉迫し、その躍動感に重きを置いているかのようだ。これはこれで素晴らしい。

 それに比べ、コチシュ盤は巨視的とでも言うべきか。追い追われる主役だけでなく、その光景を見て慌てる小動物たちの動きや、物陰に隠れて息をひそめている小動物たちの警戒心、更には植物の光合成や芽吹きまで描いているかのような、荒野の情景すべてを捉えているかのような、巨大かつ緻密な造形美を楽しめる。美しいと感動しているのは、心地よさや軽やかさの類ではなく、偉大さに圧倒される類のものである。爽やかな風が吹いて気持ちいい...といった軽やかなイメージではなく、壮大な城郭が眼前に立ちはだかり、しかも装飾の造り込みが細やかでどれほどの労力を費やしたのか想像に絶する...といったイメージである。そう感じるほど、各楽器パートの重なり合いや入れ替わりの連続で、複雑な綾をおりなしている。このような美しさは、チャイコフスキーやマーラーに期待しているものだったので、激しい不意打ちを食らった感じで、つくづくクラシック音楽は面白いと、あらためて感じ入った。また、ボリューム調整ひとつで鳴り方・聴こえ方がなかなかに変わる、そんな発見がたまにあって一喜一憂させられる、オーディオもつくづく憎たらしくもあり、楽しくもある。

【オーディオ面に関する報告】
 最後に、オーディオ面での細かい話ではあるが、当初聴き比べを始めた時から変更点が出てきたので触れておく。音量のボリューム調整の方法のことで、今までは単純に、プリメインアンプのボリュームだけを絞っていた。ディスクにもよるが、概ね-40dB 〜 -60dB程度であった。今回は2つを組み合わせる形で、プレーヤーであるPCソフト上で-12dB絞り、プリメインアンプで概ね-20dB 〜 -40dB程度とした。変更した理由は、ネットで見たデジタルアンプの利点が気になったからだ。そこでの解説によると、アナログアンプのボリュームを絞ると音質への悪い影響が出やすいが、デジタルアンプでは影響がほぼ無いとのことだった。悪い影響というのは、音域(低音〜高音)のバランスが崩れ、例えば低音が極端に減ったり、高音が妙に誇張される......等である。

 私の機器構成や環境で試したところ、プリメインアンプ(アナログアンプ)ではほとんど絞らなくて良いように、PCソフト上で-24dB絞って聴いてみたところ、ザワついたような飽和したような嫌な聴こえ方だったので、そこまで極端な方法はやめた。上述の設定にしたところ、次のような変化が感じられた。PMCについては、粒立ちや押し出し感が更に強くなったのは良いが、静寂感・透明感はやや損なわれ、微かにザワつきが漂っている気もする。DALIについては、低域が増加し、そのためか音に弾力感が出て、粒立ちが良くなった。以前は平面的だった印象が、起伏がしっかりして好ましい響きになった。PMCには微妙で、総合的にはプラス、DALIには良いことづくめの効果となった。

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