文化 CULTURE

ロンドン五輪 開会式と閉会式を彩った音楽

2012.08.18
 先頃閉幕したばかりのロンドン五輪、筆者が一番楽しみにしていたのは何を隠そう、開会式だった。音楽が大きな役割を果たすに相違ないと思って。映画監督のダニー・ボイルがディレクターに就任してからは尚更のこと、ボイル監督と度々コラボしているアンダーワールドが音楽スーパーバイザーを務めるというのだから、期待せずにいられるだろうか?

 実際、英国近現代史を紐解くようにしてこの国の魅力を実にユニークな形で表現した7月27日のイベントは、世界に誇るポップ・ミュージックにたっぷり時間を割いたショウケース。改めてその多様性や創造性や特異性に感服させられたものだ。時代ごとのファッションを身にまとって舞うパペットやダンサーのバックで、レッド・ツェッペリンからクラッシュにザ・ジャム、ニュー・オーダー、ソウルIIソウル、ブラー、プロディジー、エイミー・ワインハウス、デヴィッド・ホルムズ......と、スタジアムに響き渡った曲の数は30あまり。そして、最新シーンを象徴する存在としてパフォーマンスを披露したのが、ガーナとナイジェリアの血を引き、スタジアム近くの下町で育ったラッパーのディジー・ラスカルだ。その後、2005年にロンドンで起きたテロ事件の犠牲者に捧げたセクションでは、ザンビア人と英国人を両親に持つスコットランド生まれのソウル・シンガー=エミリー・サンデーが「Abide With Me」(葬儀で歌われる古い賛美歌)を歌ったが、ふたりはまさに英国のマルチカルチュラリズムを体現するアーティストと呼べるのだろう。他方、終盤にはアークティック・モンキーズとポール・マッカートニーによる新旧UKロック対決も用意されていて、ポールの指揮で8万の観客が「Hey Jude」を歌う光景は、今回のオリンピックならでは。彼らのギャラ? 全員一律で1ポンド。単に便宜上の金額で、要は無償というわけだ。

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 選手の入場行進のBGMも、ケミカル・ブラザーズに始まりアデルやビージーズも飛び出す楽しいセレクションで、最後に現れた英国チームを迎えたのはデヴィッド・ボウイの「Heroes」。ステラ・マッカートニーが手掛けたユニフォームはグラム時代のボウイを想起させ、こりゃ計算づくの演出と見た。聖火が点火されて、ピンク・フロイドの「Eclipse」(名盤『狂気』のフィナーレ)が流れる中で華々しく花火が上がったシーンも、圧巻の一言。またボイル監督とアンダーワールドの茶目っ気を感じさせたのが、エリザベス女王がスタジアムに現れる前にこっそり、何かの映像に織り込まれていたセックス・ピストルズの「God Save the Queen」だ。王室を嘲る内容ゆえに、1977年の発売当時に放送禁止になったのはご承知の通りで、さすがパンク世代のチームだけある。パンクといえば、開会式の〈前座〉に指名されたフランク・ターナーは、アンチ商業主義を掲げるフォーク・パンク・シンガー。多国籍企業がスポンサーに名を連ねる場で、〈大企業の卑劣で滑稽なお偉いさんたち〉と名指しする「I Still Believe」を堂々披露する姿も、天晴れだった。

 そんな開会式がメッセージを含んだセレモニーなら、8月12日の閉会式はずばりパーティー。「A Symphony of British Music」と銘打って音楽界のスターを総動員し、コンサート会場の聴衆みたいにモッシュピットを埋め尽くす各国の選手とテレビ越しに見ている我々を、ライヴ・パフォーマンスで歓待しようというものだ。大トリを務めたザ・フーが1960年代組を、ペット・ショップ・ボーイズがニュー・ウェイヴを、ファットボーイ・スリムがダンス界を、カイザー・チーフスとエルボーがインディ・ロックを、目下世界を席巻中のアイドル・グループ=ワン・ダイレクションやジェシー・Jが若手を代表するという具合に、計20組あまりで約50年を網羅。ジョン・レノンやフレディ・マーキュリーら故人も映像で参加してお馴染みの曲を次々に聴かせる屈託ない大盤振る舞いは、「打ち上げ」だからこそ? 開会式では耳にすることができなかったミューズによる公式テーマ・ソング『Survival』もナマで披露され、中でも会場を沸かせたのは、一夜だけの再結成を果たしたスパイス・ガールズに、去年肺炎で生死の境を彷徨って以来のステージとなったジョージ・マイケル、オアシスの解散後初めて名曲「Wonderwall」を歌って大合唱を引き起こした(現ビーディ・アイの)リアム・ギャラガー。そして、聖火を消すクライマックスを名アンセム「Rule the World」で盛り上げたテイク・ザットも然りで(国民的ポップ・グループとして絶大な支持を得ている彼らを「1990年代に活躍したアイドル」と紹介したNHKのアナウンサーは、どういうリサーチをしたんだろう?)、本閉会式のディレクターを務めた演出家キム・ギャヴィンはほかでもなく昨年のテイク・ザットの記録的スケールのツアーを手掛けたことで高く評価され、今回白羽の矢が立てられたのだとか。

 ちなみにキム・ギャヴィンはパラリンピックの閉会式も演出し、開会式は映画監督のスティーブン・ダルドリーが手掛ける予定で、この分だと、そちらも必見イベントになりそうだ。
(新谷洋子)


【関連サイト】
ロンドン五輪
ロンドン五輪公式サウンドトラック

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