文化 CULTURE

モーニング娘。という変奏曲

2012.12.08
 最近、日常生活の中でモーニング娘。の名前を目にすることが増えてきた。街中にポスターが貼られたり、メジャーな雑誌の表紙を飾ったりしているし、テレビに出演する機会も一時期よりは少しだけ増えた印象がある。電車の中で「モーニング娘。が......」と話している中高生もたまに見かける。「状況が変わった」とまでいいきるのは早計だが、良い形で16年目に入ったとは思う。
 モーニング娘。はその時自分たちにできることを堅実に、かつ、全力でやっている。改めていうまでもなく、それは別に2012年に限った話ではない。彼女たちのステージは、その都度、今の体制こそ実はベストなのではないか、今の体制のまま続いてくれないものか、と思わせるだけのものを持っている。「15周年」や「50枚目」をきっかけにモーニング娘。を知った人は、これからこのグループならではの奥深い魅力、模倣できない存在感に惹かれていくことだろう。

 「モーニング娘。誕生15周年記念コンサートツアー2012秋 〜カラフルキャラクター〜」も、現在のグループの力量をシャープな演出で浮き彫りにした内容になっていた。初日は2012年9月15日。会場はハーモニーホール座間である。まだツアー中なので、そこまで細かくはふれないが、個人的に最も胸にしみたのは「Be Alive」である。モーニング娘。のメンバー構成は何度も変わっている。デビューした時に所属していたメンバーは、今はいない。それでも、「Be Alive」で現メンバーが「君を守る/星を守る/今日を生きる/明日に繋ぐ」と歌う時、彼女たちの背景にたくさんのメンバーが見えてくる。このグループのみが持ち得る時間の重みが、どうしても出てくる。あの感覚は忘れられない。
 ほかにも、ステージで披露される1曲1曲がこちらの予想以上にライヴ映えしていた。ハイライトというべき箇所もたくさんあった。とくに目を見張らされたのは、後半のメドレー。いつになくアレンジが冴えていて、さほど愛着のない曲でも呑み込ませてしまう巧さがあり、ステージ上のフォーメーションも見どころが多く、間然とするところがなかった。

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 9期のメンバーにも少し言及しておきたい。多彩なセットリストの中でも、この4人による「アイサレタイノニ・・・」はとても見応えがあった。鞘師里保のダンスは相変わらずシルエットが綺麗である。独特の拍節感を持つ彼女は、リズムを自在にためながら、瞬間的に波を起こすようにしてフォームを決める。つんく♂が作り出す多様かつ変則的なリズムに振り回されることなく、芯を的確にとらえて対応できる逸材だ。歌い手としても、前回のツアーから成長している。発声にはまだムラがあるが、調子が良い時は必要以上に力むことなく高音をのばせるし、低音への切り替えもスムーズにいく。元々落ち着いた魅力のある声をしているし、声量もある。発声が今より自然になり(ダンスにも注力している以上、限界はあるだろうが)、声量をうまくコントロールできるようになれば良い歌手になることは間違いない。
 譜久村聖のダンスもアグレッシヴである。歌唱面では、以前までライヴでの声量が足りない印象があり、そのことが音程を不安定にさせているようにも見受けられたが、今回のツアーでは、声に少し張力がついてきて存在感が出てきた。また、いかにも昔の文人が好みそうな雰囲気をたたえているのも特徴である。鈴木香音の歌声はなめらかでよく通る。ただ、チャレンジ精神が旺盛なせいか、身の丈以上の歌い方をして音を外してしまうのが気になる。せっかくの歌がもったいない、と思っていたが、10月28日のTOKYO DOME CITY HALLのコンサートでは素直な歌い方になっていて、好感が持てた(ただし、この日はバックの音がやけに大きくて、ヴォーカルをほとんど圧倒していた)。生田衣梨奈はいわゆる「いじられキャラ」。観客側にも、彼女のMCに突っ込みを入れるのがお約束であるかのような雰囲気が完全にできあがっていた。そういう場を作れるメンバーも大事である。ただ、スイッチの切り替えが極端なのか、掴みづらいキャラクターではある。

 後輩メンバーが活躍しているからといって、先輩メンバーが霞んでいるわけではない。そこも今回確認できた。はっきりいってしまうと、このツアーで最も光っていたのは、リーダーの道重さゆみだったのではないか。ダンスの要所要所で決めるポーズひとつとっても絵になっていて、可愛いという以上に綺麗な空気感に包まれていた。彼女は「音痴キャラ」をもって自任しているし、実際そうなのだが、その歌唱面でもだいぶ向上していた。2012年の前半と後半で一番変わったメンバー、といっても過言ではない。

 セットリストの軸になったニュー・アルバムについてもふれておく。楽曲は粒揃いで、いつものことながらヴァラエティに富んでいる。メロディアスで爽快な「What's Up? 愛はどうなのよ〜」もあれば、「Be Alive」のようにシングルカットされてもおかしくない正統派の名曲もあるし、つんく♂の繊細な感性が滲出した「ゼロからはじまる青春」もある(この曲に耳を傾けていると、私は「青春コレクション」を思い出す)。そして、メンバーそれぞれに比較的多く見せ場が与えられている。けれど散漫さはない。聴き終えた後、多様な音楽性、多彩な声質を武器に持っている現在のモーニング娘。の特性が、しっかり伝わってくる。シングル曲「恋愛ハンター」の置き場所には悩んだのではないかと思われるが、入れるならここしかないだろう、という場所に収まっている。ちなみに、ここ数枚のアルバムでは、4曲目だけをフェードアウトで終わらせる傾向があり、いずれも3曲目までの世界観を変える役割を担わせている。意味不明なタイトルを持つ道重のソロ曲「ラララのピピピ」もそういう存在として機能している。偶然が重なっているだけかもしれないが、つんく♂が無意識にやっているのだとしたら興味深い。

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 アルバム・リリース後に出たシングル「ワクテカ Take a chance」は、「One・Two・Three」の路線を継いだ楽曲だが、かなりラディカルにリフォームされていて、その外壁は(タイトルも含めて)つんく♂のビザールなPOPセンスで塗り固められている。良くいえば、聴き手の感性を刺激する創意に溢れた楽曲であり、何度か聴いているうちに馴染んでくる。が、「One・Two・Three」でモーニング娘。に関心を持った人が、この曲を一回聴いて、さらにもう一回聴こう、と思うかどうかは分からない。音楽の流れが掴みづらいという感想が出ても、別に驚きはしない。
 歌詞や歌メロの展開には不思議感がつきまとうが、トラック自体はいつになく雄弁である。きちんと作り込まれているので、「instrumental」バージョンでも楽しめる。いわゆるカラオケだけを聴いているような物足りなさを感じることはない。細かなサウンドメイクが、この楽曲をボーカル抜きで聴くにたえるものにしている。リスナーの中には、「instrumental」で聴く方がしっくりくる、という人もいるかもしれない。

 MUSIC VIDEOにも注目しておきたい。ダンスの先生が踊ったもの、11期メンバーの小田さくら(2012年9月加入)が1人で踊ったものを含めると、公式動画サイトには現在7種類ほどアップされているが、私がつい何度も観てしまうのは「つんく♂プロデューサーの独断」で先行公開された「Dance Rehearsal」バージョンである。これを最初に観たときは、楽曲構成のいびつさが振付の面白さによって許容されていくような感覚を味わったものだ。それくらいメンバーの存在感が生々しく、彼女たちの動きが(全員とはいわないが)楽曲のとっつきにくい部分を補っているように見えたのである。
続く
(阿部十三)


【関連サイト】
モーニング娘。OFFICIAL WEBSITE
モーニング娘。Official Channel
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