文化 CULTURE

モーニング娘。'14の実力

2014.05.24
 2014年からモーニング娘。は「モーニング娘。'14」と改名し、「ミュージックステーション」をはじめとする音楽番組や朝の情報番組のほか、CMにも出演するようになり、メディアに登場する機会が驚くほど増えた。コンサート会場でも女性の観客が多くなり、新たなファン層が加わったことをうかがわせる。これは劇的な変化といっていいだろう。

 そもそも17年間続けていなければこういう現象も起こらなかったのである。メディアに出ることがほとんどなかった時期も、質の高いコンサートを行い、グループの土台を守り続けてきたから今がある。だからこそ、今の状況に対して「よかった」といえるのだ。これを現時点で「再ブレイク」と呼ぶことにはさまざまな意見があるだろうが、この点に関しては、メンバー自身、冷静なのではないかと思う。それなりに酸いも甘いも噛み分けた道重さゆみがリーダーを務めている影響もあってか、メンバーたちにうわついたところはみられない。

morning_musume14_a1
 2014年3月15日にスタートした「モーニング娘。'14コンサートツアー春 〜エヴォリューション〜」は、そういうグループの向上心を示す絶好の場であった(もっとも、ツアーは現在も続いているが)。このツアーは2013年秋の「CHANCE!」の時に作り上げたフォーマットの応用編のような内容で、セットリストに『モーニング娘。'14 カップリングコレクション2』の楽曲を盛り込んだり、メンバーに思いきり個性を出させるような楽曲をとりいれたりして、「CHANCE!」よりもバラエティーを持たせていた。

 私が観たのは盛岡、仙台、中野の3ヶ所なので、その印象しか書けないが、石田亜佑美と佐藤優樹の成長ぶりが著しく、とくに3曲目でステージを牽引する石田は、進化したというよりも、「誰?」といいたくなるほど突然変異していた。彼女は演技の才能があるので、おそらくこの時も一つの役になりきり、パフォーマンスしていたのではないだろうか。
 佐藤優樹の方は、歌唱の引き出しが明らかに増え、「泣いちゃうかも」の「気付かないフリをしていつまでも」の部分では陰翳を出すなどして、はっとさせられたものである。彼女の場合、計算してやっているのかどうか分からないところがあるが、今回は自分なりに歌い方をいろいろ考え、工夫しながら挑戦しているようだった。

 センターのポジションを任されることが多い鞘師里保は、まだ高校1年生ではあるが、歌とダンスの両方で大きな役割を果たしている。そのダンスの身のこなしは相変わらず隙がなく、求心力も強い。制約の多い振付では細かな動きの差にみえても、それは、才能の差としては大きいものである。現在のフォーメーションダンスで、彼女が全体の印象をまとめるような立ち位置にいることがプラスに作用していることはいうまでもない。
 ただ、彼女自身は周囲の人のすぐれた部分に刺激を受けながら歌もダンスも変異していくタイプで、まだこれが到達点だといえる場所に達しているわけではないだろう。自分でも2013年に12期メンバーのオーディションが行われた時、「何かしらのスイッチを押してくれる刺激的なメンバーに入ってきてほしい」という意味のことを語っていたし、今後入ってくる新メンバーによってどう変わるのか楽しみである。

 「エヴォリューション」は東北公演を観ただけでも十分楽しめる内容だったが、これをグループの「進化」とまでいいきれるかどうかは即断出来なかった。毎回ツアーのたびにそんな風に思い、後日訂正することになる。今回もその通りになった。
 コンサートツアー後半、5月6日の中野サンプラザ。冒頭から観客の熱い声援に支えられた力のこもったパフォーマンスが続く。といっても、ただ力んでいるのではなく、自信にあふれていて、まだまだ自分たちは上にいけるのだといわんばかりの様子もうかがえる。10人のメンバーの呼吸が合うことで、ツアーを通して育てた楽曲の魅力がしっかりと伝わってくる。それでいて安全運転にならず、あくまでも攻めようとするその姿勢には、頼もしさがあふれていた。とくに「わがまま 気のまま 愛のジョーク」は、これまで観たり聴いたりした中(CD音源も含む)では最高のできばえで、終わった後は思わず溜息が出た。楽曲も、メンバーも、本当の意味で「エヴォリューション」していたのである。

 3ヶ所の公演を通じて、道重さゆみのダンスの動きがいつにも増して大きく、振付をしっかり見せようとしていたのも印象的だった。彼女は自分のシルエットを綺麗にみせるのがうまく、新曲「時空を超え 宇宙を超え」ではその美点があますところなく出ていたと思うが、ほかの曲でもぬかりがなく、コンサートの終盤は疲れてくるというファンにはおなじみの場面も皆無だった。一つ一つの曲を大切にしたいという強い思いに駆り立てられていたのかもしれない。その彼女が2014年4月29日に卒業を発表した。

morning_musume14_a2
 道重さゆみが卒業するのは淋しい限りだが、彼女なりに考えた上での結論なのだろう。地元の山口県で発表したことや、何かを目指すために卒業するという展望を口にせずスピーチをまとめたことにも、こだわりを感じさせる。彼女は自分に正直でありながら、人から期待されている自分のイメージも壊さない。卒業を発表する時も、そういうところはブレないのである。

 これまで道重は、メディアで自分のイメージを賭けた大きな勝負を行ってきた。そして、そこで蒔いた種が結果的に収穫へと結びつくよう努力を積み重ねてきた。そうやって彼女が培ってきたものを一言でいうなら、それは信頼感である。ふとしたことで一瞬にして崩壊しかねない「アイドルに対する信頼感」をファンとともにはぐぐみ、強固なものにしてきたのである。11年間在籍していながら、前回より今回のツアーの方がステージ上での見せかたがうまくなっている、という風に成長を止めないところも、負けず嫌いの彼女らしいが、冷静に考えると大変なことだ。もちろん、ルックス面に魅力があることも強みである。このまま卒業の日を迎えることが出来れば、彼女は誰にも模倣し得ないお手本のようなリーダー像を純正アイドルの立場で示したことになる。

 アイドルの歴史は祝祭の歴史である。一口に祝祭といっても種類はさまざまだが、道重さゆみはその歴史の本道に自分のやり方で名を連ねた。私にはそのように感じられる。とはいえ、モーニング娘。'14の長所を全てリーダーの功績に還元して語るつもりはない。そういった見方は、正確さを顧みなくなるものだし、喪失感を殊更強調するための布石にもなりかねないからだ。それに、後輩メンバーは強い向上心を持ち、その大半は決して遅くないスピードで実力をつけている。彼女たちは才能や個性の幅にまだ先があることを感じさせるし、ツアーごとに「この人にはこういう面白さもあるのか」という発見をさせてもくれる。

 モーニング娘。は常に今ベストを尽くすことでファンの信頼を勝ち取り、歴史を作ってきた。そのスタイルはモーニング娘。'14になっても変わっていない。道重は「超でっかく、超かっこいいモーニング娘。に仕上げてから卒業して、次の世代にバトンタッチしたい」とコメントしていたが、それはグループのために力を出し切り、完全燃焼することの宣言とも受け取れる。それを踏まえていえば、秋のツアーは10人の総合力をいかんなく示した中野サンプラザでの「エヴォリューション」を超えるものになる。これまで以上に熱気を帯び、個々の力も増していくことだろう。モーニング娘。'14が生まれ変わるまであと半年、10月にはニューヨーク公演も控えている。その間、彼女たちがどこまで仕上がるのか、今が勝負の時である。
(阿部十三)


【関連サイト】
モーニング娘。'14 OFFICIAL WEBSITE
モーニング娘。'14 Official Channel
ハロ!ステ(Hello! Project Station)

月別インデックス