文化 CULTURE

モーニング娘。'15 新体制の第一章

2015.06.27
 モーニング娘。'15が13人体制でスタートを切ってから半年が経つ。2011年以降に加入したメンバーのみで編成された「新生モーニング娘。」がどんなグループになるのか、年始のテレビ番組(1月9日放送)や「ハロコン」だけでは想像できないところも多くあったが、5月27日に日本武道館で千秋楽を迎えたコンサートツアーを観て、頼もしさと将来性を肌で感じることができた。そのせいか、昨年の横浜アリーナ公演が昔のことのように思える。

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 全33公演の「モーニング娘。'15 コンサートツアー春 GRADATION」で、私が行ったのは3月22日の宮城、4月25日の栃木、そして日本武道館である。セットリストはヴァラエティに富み、過去に観たどのツアーにも劣らないくらい濃い内容を持っていた。その1曲目を飾ったのが、新曲「青春小僧が泣いている」だ。
 4月15日に発売されたこの曲(初オンエアは2月28日)を初めて耳にした時は、唐突な休符の連続に戸惑わされたが、このグループの場合、どんなに変わった楽曲でも、コンサートで消化不良を起こすことはほとんどない。むしろ、ひとつひとつの楽曲がライヴ空間の中で完成される瞬間を見せてくれる。「青春小僧が泣いている」もそうした例に漏れず、振付とフォーメーション・ダンスと楽曲が目にも鮮やかに一体化していた。このグループの消化力には毎回驚かされてばかりいるけれど、そんな彼女たちのポテンシャルを見越した上で曲も作られているのだろう。

 EDM寄りの楽曲は、基本的にグループの格好良さを前面に出すことを主眼としている。今回のツアーは、そういう曲だけでなく、「女子かしまし物語」や「好きな先輩」では楽しげな雰囲気で会場を包み、佐藤優樹と小田さくらによる「Memory 青春の光」ではしっとりとした歌の世界に引き込み、アンコールの「涙ッチ」ではかつてのメンバー卒業時とはまた違った熱い感動を呼び起こした。

 メンバーが殊更口にしなくても、高い意識をもって過去の楽曲を継承していることは明らかで、その自信は「リゾナント ブルー」「SONGS」「涙ッチ」「女と男のララバイゲーム」などを歌う時の堂々たるパフォーマンスにあらわれていた。これらが単なる懐メロにならず、過去からの借り物にもならず、現在進行形の音楽として強く響いたのは、今のモーニング娘。'15のナンバーとして歌い、踊り、魅せることができたからである。新たなメンバー構成で、新たなファンに楽曲を継承させる点でも、大きな意味を持つ素晴らしいステージングだった。私見では、そのハイライトと言える部分は、「SONGS」から「Help me!!」につなぐところの一瞬の静寂にあったと思う。

 最も感銘を受けたのは、やはり武道館公演である。正味28曲のセットリストはハードとしか言いようのないものだったが、中盤でも終盤でも疲労や散漫さを感じさせなかった。それどころか、全体を通して迫力と求心力を示すまでになっていた。若さの賜物というだけでなく、現在のモーニング娘。'15で武道館公演を成功させるのだという強い意志が支えとなっていたのだろう。メンバーの卒業などの付加要素もなく、ステージを観ているだけで私は純粋にエネルギーが湧いてくるような気分を味わうことができた。

 鞘師里保の繊細なダンスは「神は細部に宿る」という言葉を思わせるものだったし、歌唱面でも、これまでしばしばみられた後半で喉が疲れるパターンを克服していた。フォーメーションのスタビライザー的なスタンスにある分、自分を抑えているように見えることもあるが、彼女自身は確実に変化している。武道館の花道からステージに戻る際、後ろ姿だけでひきつける力があったのも、その表現意欲が全身にみなぎっているからにほかならない。
 成長面で目立っていたのは佐藤優樹で、元々素質のあるダンスに躍動感と華やさが加わっただけでなく、歌でもこれまで以上に実力を示していた。発声法や声色をさまざまに使い分けるやり方にはまだ危うさがあり、その果敢さと器用さに喉の調子が対応しきれていない感もあるが、これから徐々に変わっていくだろう。新メンバーの一人、尾形春水は歌もダンスも成長過程にあり、振付の型にきちんと嵌めていくような動きが微笑ましい。反面、手や腕を使った優美な表現には目を見張るようなセンスが溢れており、「夕暮れは雨上がり」のような曲では目が離せなかった。あの持ち味は大事にしてほしい。

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 ところで、彼女たちは演劇活動も定期的に行っている。6月18日からはミュージカル『TRIANGLE -トライアングル-』がα編、β編の2作に分けた形で上演された。内容は、平和な星を舞台にしたメッセージ性の強いラブストーリー。平和といっても、個人的感情より「天のお告げ」が絶対視される過酷さもそこにはある。現在も公演期間中なので詳細は書けないが、ここまで恋愛模様を描いた劇をやるのは、グループとしては珍しいかもしれない。全公演完売で、私が観た2回(6月20日、23日)とも女性客がかなり入っていた。

 ヒロインを務めたのは演技力のある石田亜佑美で、今まで演じたことのない乙女なキャラクターに挑戦、女の子の揺れる想いを巧みに表現していた。周囲に振り回され、何かにつけ気持ちを揺さぶられる難しい役どころだが、演者の嫌みのない可憐さと素朴さがこのプリンセスを魅力的なものにしていたと思う。メインの男役を演じたのは鞘師里保と工藤遥。2人とも役を完璧に咀嚼し、それぞれの性格、立場に観る者が共感できるような説得力を持たせていた。鞘師と工藤は『ごがくゆう』でも『LILIUM』でも対照的なキャラクターを受け持っていたが、舞台ではそのバランスがうまく機能しているようだ。ほかにも、小田さくらが技巧以上に感情を伝える歌い方で実力を発揮したり、新メンバーの野中美希が演技の素質をうかがわせたり、出演者それぞれに注目しながら楽しめる舞台だったことは間違いない。勘の良い人が多いので、いずれはメンバー総出演によるシンプルなコメディを観てみたいものだ。

 ここ数年、モーニング娘。は比較的短いスパンで特徴的なサイクルを繰り返してきた。完成と変形の反復によって、グループの看板を確実に次世代へと継承していくような展開である。
 ひとつの体制が完成形に達したかと思われたところで、メンバーの卒業や加入があり、成熟する前に変形する。そして、新たなメンバー編成になってパフォーマンス力を高め、再び完成形に近づいていく。その過程と結果をファンに示す場は、言うまでもなく、春と秋に行われる全国規模のコンサートツアーだ。少なくとも2012年以降は、ツアーをそのように位置付けているとみていいだろう。単にメンバーが変わるだけなら、グループの見た目が変わっただけで終わるのだが、それで終わらず、その時のメンバーにしか成し得ないバランスと一体感を見せ、ステージ上で結果を出すのがモーニング娘。である。だからこそ、大きな舞台で大輪の花を咲かせた時の感動もひとしおなのだ。

 そういったことを踏まえて言うなら、新体制のモーニング娘。はまだ完成しているわけではない。それはもう少し先のことだろう。彼女たちにはグループおよびメンバーの特色のアピールという点で、まだまだやるべきことが多くある。リーダーの譜久村聖が武道館公演のMCで、13人ひとりひとりの色をもっとつけていきたいと語っていたように、各メンバーがこれから存分に個性や才能を発揮していくことを期待せずにはいられない。そのプロセスをゆっくり見守りたいというのが、私の本音である。
(阿部十三)


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