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ジョージ・スティーヴンス 〜光と影の叙事詩〜 [続き]

2012.04.12
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 しかし、私がこの映画で一番感銘を受けたのは、アラン・ラッドの早撃ちでも、ジーン・アーサーの魅力でもない。悪役のジャック・パランスなのである(クレジットはウォルター・ジャック・パランス)。彼が演じたのは殺し屋ウィルソン。このウィルソンが、エライシャ・クック・ジュニア扮する短気な開拓農民トーリーを撃つ場面は、鳥肌が立つ。
 わざと喧嘩を売るウィルソン。カッとするトーリー。ウィルソンは不敵な笑みを浮かべ、「抜け」という。相手が先に銃を抜けば口実ができるからだ。挑発に乗り、銃を抜くトーリー。ウィルソンも銃を抜く。ウィルソンの方が圧倒的に速い。その銃口はトーリーに向けられている。が、トーリーの銃口は下を向いたまま。そこで一瞬、時間が止まる。静寂の中、恐怖と後悔で身動き出来ないトーリーはやや俯いた状態で自分の死を意識する。自分は撃たれる。自分は死ぬのだ。一方、ウィルソンは銃口をトーリーに向けたまま、勝利感を噛みしめ、殺すまでの時間を楽しんでいる。この間があることにより、口実は消える。ウィルソンはすでに勝っているのだ。しかし、彼は容赦なく撃つ。トーリーはぬかるみに吹っ飛ぶ。思わず目を背けたくなる残酷さである。
 観る者に緊張感を強いるジャック・パランスのオーラも凄いが、エライシャ・クック・ジュニアの演技も賞賛に値する。このシーン以降、西部劇の中に「快楽やゲームとしての殺し」の要素が加わったとみなす人たちがいる。その一人がサム・ペキンパー監督。いかにも彼らしい見方である。

 ウィルソンは後年のマカロニ・ウェスタンの悪役たちを彷彿させる。黒い衣装をまとった全身から漂っているのは、人間的感情が入り込む余地のない100パーセントの「悪」の気配。彼は人を撃ち殺すことしか考えてない、生まれながらの殺し屋である。シェーンとの対決シーンでも、立ち姿はウィルソンの方が凄みがある。そのシルエットに比べると、シェーンはおっとりとして、衣装も野暮ったい。二枚目だが精悍なタイプではない。西部劇のヒーローらしくないヒーローである。

 ここまで書いたものの、私自身は『シェーン』がそれほど好きではない。この作品が話題になる時、子供の視点から描いているところが素晴らしい、とよくいわれるが、私にとってはそこがネックなのである。子役の存在感がくどすぎるのだ。ジョーイが発する猫なで声が本当に鬱陶しくてかなわない。可愛くないのに可愛いだろう、とアピールしている。おまけに最後の決闘シーンにもしゃしゃり出てくる。子供が大人たちの決闘を見届けることに、一種のイニシエーション的な意味を持たせるための演出なのだろうが、はっきりいって過剰である。子供が決闘の場であるグラフトンの店に着くタイミングも異様に早い。いくら全速力で走っているとはいえ、不自然としかいいようがない速度である。

 シェーンはというと、ジョーイが思い描く理想のヒーロー像を守るために必死である。敵に撃たれても笑顔でいなければならない。馬に乗って去る時、「本気を出せば撃たれなかったよね」とか、「銃を抜かせなかったよね」と背後から浴びせられるシェーンを見ていると、私は哀れな気持ちでいっぱいになる。

3人のスターの名演と共に

 『ジャイアンツ』は、テキサスを舞台にした一大叙事詩。『シェーン』の映像も息をのむほど美しかったが、こちらの風景描写も卓抜している。ジョージ・スティーヴンスは広大な風景の中に人物を巧みに配置し、観客にスケール感を体感させる達人だ。もっとも、一個の映画作品としては完璧とはいいがたい。超大作にしてはプロットが甘く、この手の大河ロマンに欠かせない壮大な感傷の深さや重さもさほどない。役者の一人一人は悪くないのだが......。
 ジェット・リンク役にはジェームズ・ディーン。彼はこの役を得るために自ら売り込みをかけたという。監督が第一希望として考えていたアラン・ラッドはオファーを辞退。結局、ジミーに落ち着いた。レズリー役には当初グレース・ケリーが予定されていたが、モナコ王妃となったため実現せず、エリザベス・テイラーが演じることになった。撮影中、ジミーとジョージ・スティーヴンスの間には口論が絶えなかったらしいが、それで火がついたのか、ジミーの演技には気合いがみなぎっている(その演技スタイルが好きか嫌いかは別問題として)。周知の通り、彼はこの撮影直後、事故で急逝。一部アフレコを録ることができず、ジミーの物真似がうまかったニック・アダムスが代役を務めた。

 「完璧主義者」の作品として観ると、惜しいところや足りないところが目についてしまうが、役者たちに完璧な演技をさせる腕は間違いなくあった。『陽のあたる場所』ではモンティから、『シェーン』ではアラン・ラッドから、『ジャイアンツ』ではジミーから、引き出せるだけの魅力を引き出したのだ。ハリウッドの光と影を象徴するようなこの3人のスターを輝かせた監督として、ジョージ・スティーヴンスの名が消えることはないだろう。
(阿部十三)


【関連サイト】
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[ジョージ・スティーヴンス プロフィール]
1904年12月18日、カリフォルニア州オークランド生まれ。子役としてスタートしたが、1921年に映画界入りした時の肩書きはアシスタント・カメラマン。ローレル&ハーディのコメディ作品で腕を磨く。1934年、監督デビュー。1935年、キャサリン・ヘップバーン主演の『乙女よ嘆くな』で名声を獲得する。1948年、『ママの想い出』でさらに評価を高め、1951年、『陽のあたる場所』で地位を確立する。以後、『シェーン』、『ジャイアンツ』、『アンネの日記』などを発表。1975年3月8日、死去。
[主な監督作品]
1935年『乙女よ嘆くな』/1936年『有頂天時代』/1937年『踊る騎士』/1937年『偽装の女』/1939年『ガンガ・ディン』/1941年『愛のアルバム』/1942年『女性No.1』『希望の降る街』/1948年『ママの想い出』/1951年『陽のあたる場所』/1953年『シェーン』/1956年『ジャイアンツ』/1959年『アンネの日記』/1965年『偉大な生涯の物語』/1970年『この愛にすべてを』