タグ「ピエール・ブーレーズ」が付けられているもの

  • 自由で多彩な管弦楽の響き ドビュッシーの『海』は1903年8月から1905年3月5日にかけて作曲された。正確な作品名は「海 管弦楽のための3つの交響的素描」。交響詩ではなく、交響的素描である。初演は1905年10月15日、カミーユ・シュヴィヤールの指揮によって行われた。楽譜は同年にデュラン社から出版され、表紙には葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」が使われたが、音楽と...

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  • 協奏曲は軽快に、華麗に モーリス・ラヴェルのピアノ協奏曲は1929年から1931年にかけて作曲され、1932年1月14日、マルグリット・ロンの独奏により初演された。奇しくもラヴェルは1929年に「左手のためのピアノ協奏曲」を書くように依頼され、そちらの作曲も行っていた(完成したのは「左手」の方が早い)。これまでピアノ協奏曲を完成させたことのない作曲家が、晩年...

    [続きを読む](2021.09.03)
  • はじめに 昨年、お気に入りディスク数枚を基にスピーカーを比較試聴し、私のオーディオシステムに最適なスピーカーが定まった。その後も、光学ドライブの更新や設定変更等いくつかの調整を経て、好ましい響き方・鳴り方のシステム構成が出来上がった。[CDプレーヤー相当]・外付け光学ドライブ (パイオニアReal Time PureRead活用)・ノートパソコン (192k...

    [続きを読む](2021.08.28)
  •  現代音楽を得意とする指揮者には、総じて知的でクールなイメージがある。彼らが古典派やロマン派の作品を振ると、大抵の場合、音楽の細かい構造が透けて見えるような演奏になる。もやもやしたものが取り除かれ、分かりにくいと感じていたものが分かりやすくなり、クリアーに全体像が見えてくるのだ。 もっとも、明晰で分かりやすい演奏というだけではじきに飽きが来る。我々が音楽に求...

    [続きを読む](2021.04.03)
  • フェードルの場合 ラシーヌの悲劇『フェードル』で、フェードルはある言葉に対して恐れに近い反応を見せる。それは人の名前、愛してはいけないのに愛してしまった義理の息子イポリートの名前である。 フェードルはギリシャ神話に出てくるクレタ島の王ミノスの娘であり、アテナイの王テーゼの妻である。テーゼにはアマゾン(女性だけの部族)の女王アンティオペーとの間に子供がいる。そ...

    [続きを読む](2020.08.12)
  • そして最後の審判が始まる マーラーの交響曲第2番「復活」は、1888年から1894年にかけて作曲され、1895年12月13日、作曲者自身の指揮により初演された。全5楽章の長大な交響曲で、第1楽章は20分以上、第5楽章は30分以上の演奏時間を要する。全体で80分を超える演奏は珍しくない。それでも人気が高く、この作品を聴いてマーラーに夢中になったという人は非常に...

    [続きを読む](2020.06.04)
  • 第3部 曲とスピーカーとの相性〜PMCのTB2+とtwenty5 22〜 次に、イギリスのメーカーPMCのTB2+である。特徴は、いわゆるモニター性能を最優先し、細密画のような描写力が画期的で素晴らしい。時間軸において恐ろしいほど正確で、音の立ち上がりが速く、「ザサッ ザサッ」と、音が切り込んでくるように感じられ、また、音源に色付けしないストレートな印象。...

    [続きを読む](2020.05.24)
  • オペラから演奏会用序曲へ 幻想交響曲を作曲した後、オペラ作曲家としての成功を夢見た30代半ばのエクトル・ベルリオーズは、1838年にオペラ『ベンヴェヌート・チェッリーニ』を完成させた。16世紀のローマに実在した伝説的な彫金師のロマンス、大胆不敵な行状、窮地からの大逆転を描いた話である。しかしこのオペラは初演後まもなく打ち切りとなり、惨憺たる失敗に終わった。 ...

    [続きを読む](2019.10.17)
  •  ハンス・ロスバウトには現代音楽のマイスターというイメージがある。何しろ20世紀の重要作品であるシェーンベルクのオペラ『モーゼとアロン』、ブーレーズの「ル・マルトー・サン・メートル」、クセナキスの「メタスタシス」の世界初演を務めた人なのである。しかし、そのレパートリーは広い。端的に言えば、ラモーからシュトックハウゼンまで手中に収めているのだ。大半はヨーロッパ...

    [続きを読む](2018.05.03)
  • 誰にも書けない音楽 イーゴリ・ストラヴィンスキーの『結婚』は、1914年に着手され、幾度かの中断を経て、1923年4月6日に書き上げられた。自伝によると、当時ストラヴィンスキーは楽器編成の問題で悩み、結論を出すのを後回しにしていたらしい。そして、「初演の日が最終的に決められて切迫した状態になれば何か解決法を思いつくだろうと当てにしていた」。その後、セルゲイ・...

    [続きを読む](2017.08.02)
  • 聖金曜日に輝く聖杯 リヒャルト・ワーグナーの『パルジファル』は死の前年、1882年1月13日に完成され、7月26日にバイロイト音楽祭で初演された作品である。当初はバイロイト音楽祭のみで上演され、それ以外の場所での上演は禁じられていたが、1913年12月31日深夜に解禁され、世界各地で上演されるようになった。 ワーグナーがバイロイト以外での上演を望まなかったの...

    [続きを読む](2015.09.23)
  • 完全無欠 ベートーヴェンの交響曲第5番は、1804年から1808年の間に作曲された。キンスキー=ハルムの作品目録によると、交響曲第3番「英雄」完成後に着手したが、交響曲第4番、ピアノ協奏曲第4番、ヴァイオリン協奏曲などの創作のため中断、1807年に再び取りかかり、1808年の早い時期に書き上げたという。作曲に費やした時間が実質的にどれくらいなのかは不明だが、...

    [続きを読む](2015.08.13)
  • 世界が未だかつて耳にしたことがないようなもの マーラーの交響曲第3番は全6楽章、演奏時間に90分以上を要する大作である。ただ、渋滞感や退屈な部分は皆無で聴きやすく、最終的には聴き手を大きな幸福感で包み込む。あらゆる雑念を吸収し、世界を高みへと押し上げるような第6楽章の美しさが、この作品に存在する全ての要素を肯定させ、悲しみも苦しみも疲れも忘れさせるのだ。これ...

    [続きを読む](2015.02.25)
  • 音による表現のエッセンス アントン・ヴェーベルンの「弦楽四重奏のための5つの楽章」は1909年に作曲された。作品番号は5。アルノルト・シェーンベルクのもとで研鑽を積んでいた頃、オペラの作曲計画が頓挫した後に起こった創作意欲の爆発を示す傑作である。まだ20代半ばだったヴェーベルンはここで調性的な世界から離れ、音の配列、強弱、音響、そして演奏法を徹底的に吟味し、...

    [続きを読む](2014.07.25)
  • 「人間は深い淵だ。底をのぞくと目が回るようだ」 アルバン・ベルクの歌劇『ヴォツェック』は1914年に着手され、幾度かの中断を経て1922年に完成した。台本のベースとなっているのは、23歳で夭折した天才劇作家ゲオルク・ビューヒナーの『ヴォイツェック』。この舞台を観たベルクが、オペラ化するために自ら筆をとったのである。 ビューヒナーの劇は、実際にあった出来事から...

    [続きを読む](2014.04.11)
  • 音楽と詩のデリケートな関係「その詩は、音楽家が無意識の間に作った詩のように思えるし、その音楽は、詩人が無意識の間に作った音楽のように思える。それほどの域に達している」 これはクロード・ドビュッシーのオペラ『ペレアスとメリザンド』を評したポール・デュカの言葉である。オペラというと、題材がドラマティックで、歌手たちが競うように声を張り上げて歌っているイメージを持...

    [続きを読む](2012.10.27)
  • 20世紀に最も絶賛された前衛音楽の一つ ピエール・ブーレーズの『ル・マルトー・サン・メートル(主なき槌)』は、1955年6月18日に初演されて以来、戦後生まれた最も画期的な音楽の一つとして評価され続けている。あのストラヴィンスキーが寄せた「今の新しい時代、真に価値ある唯一の作品」という賛辞を筆頭に、賞賛の言葉は数限りなくある。ここまで多くの人に歓迎され、理解...

    [続きを読む](2011.08.14)
  • 音色の変奏曲 モーリス・ラヴェルの『ボレロ』は、極めてユニークな手法で書かれた傑作として音楽史上特異な地位を占めている。管弦楽曲の醍醐味をここまで大胆かつわかりやすく明示した作品はほかにない。 曲の構成はいたってシンプル。一定のリズムが刻まれる中、ひたすら2つのメロディーが繰り返される。ただそれだけ。展開も何もない。変化するのは「音色」のみ。様々な楽器が代わ...

    [続きを読む](2011.05.28)
  • 20世紀最大の天才作曲家 人は常にいくつかの感情を同時に抱え込んでいる。心が喜びだけで満たされる瞬間があったとしても、その状態は長く続いてはくれない。嬉しさの中には少しのわだかまりがあったり、安堵感の中には拭いきれない不安の影があったり、達成感の中には説明のつかない不満があったり......と相反するはずの感情が胸の内に共存しているものである。人間とは割り切...

    [続きを読む](2011.02.10)
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