音楽 CLASSIC

ベルリオーズ 序曲「ローマの謝肉祭」

2019.10.17
オペラから演奏会用序曲へ

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 幻想交響曲を作曲した後、オペラ作曲家としての成功を夢見た30代半ばのエクトル・ベルリオーズは、1838年にオペラ『ベンヴェヌート・チェッリーニ』を完成させた。16世紀のローマに実在した伝説的な彫金師のロマンス、大胆不敵な行状、窮地からの大逆転を描いた話である。しかしこのオペラは初演後まもなく打ち切りとなり、惨憺たる失敗に終わった。

 それでもベルリオーズは精魂込めて書き上げた自作への愛着を捨てられなかった。たしかにこのオペラは、観客の共感を寄せつけない話の筋を別とすれば、音楽的に優れたもので、楽想の豊かさと音の色彩感の華やかさは、同時代のオペラとは別次元にあったと言える。
 そこでオペラで使われた主題を再利用し、華麗な管弦楽書法を駆使して、1844年に〈演奏会用序曲〉を発表した。それが「ローマの謝肉祭」である。初演はリハーサルなしで行われたにもかかわらず大成功を収め、以来、人気曲の一つとなった。

 明るい色彩が噴き出るような激しい序奏は、オペラの第一幕の後半、賑やかな場面で演奏される旋律をもとにしている。その後、静かになるとアンダンテで忘れがたい主題が登場する。オペラの第一幕、チェッリーニと恋人テレーザによる「愛の二重唱」の旋律だ。『ロメオとジュリエット』もそうだが、ベルリオーズが紡ぐ愛の旋律はすこぶる美しい。

 「ローマの謝肉祭」に歌詞はないが、オペラの内容を知らなくても、旋律を聴くだけで愛する男女の溜め息や喜びが表現されていることが伝わってくる。ちなみに、オペラの方で歌われている二重唱の歌詞は、「僕が自分の命よりも愛する人、テレーザ。僕はわかったんだ、君から遠く離れて、悲しみと孤独にさらされていると、僕の魂は希望を失ってしまうということが」という情熱的なものだ。

 その後アレグロ・ヴィヴァーチェに切り替わり、華やかさと軽快さを増し、活気が増幅してゆく。ベースとなっているのはナポリ発祥の舞踊「サルタレロ」のリズムで、高揚感が素晴らしい。とくにコーダに入ると、輝かしいフォルテッシモと豪快なリズムの饗宴と化し、「愛の二重唱」も印象的に再現され、愛の歓喜、青春の勝利が燃えるような音響の中で表現される。

 圧倒的な光彩と爆発力を持つ管弦楽曲である。この曲に魅力を感じたら、次は『ベンヴェヌート・チェッリーニ』を観るべきだろう。おそらくベルリオーズの狙いもそこにあったはずだ。

 ピエール・ブーレーズがニューヨーク・フィルを指揮した1972年の録音は、響きのまばゆさも鮮やかさも文句なしで、切れ味も鋭く、活気にあふれている。しかもアンサンブルは緻密、各パートの音色のバランスも整っている。「愛の二重唱」のメロディーも美しく演奏されている。「ローマの謝肉祭」の録音はたくさんあるが、これほど魅力的な演奏は少ない。

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 ほかに、この曲の楽しさ、管弦楽曲の面白さを十分に伝える名演を挙げると、エドゥアルト・ファン・ベイヌム指揮、ロイヤル・コンセルトヘボウ管の演奏(1951年録音)、ジョージ・セル指揮、クリーヴランド管の演奏(1958年録音)、レオポルト・ストコフスキー指揮、ナショナル・フィルの演奏(1976年)あたりになるだろうか。ベイヌム盤もセル盤も弦の響きが鮮烈で、旬の果実のようにみずみずしい演奏だ。ストコフスキー盤は、聴き手を楽しませるサービス精神に溢れていて、眼前に浮き出てくるような色彩感があり、お芝居の一幕を見ているような気分にさせてくれる。


【関連サイト】
Berlioz:Roman Carnival Overture(CD)
エクトル・ベルリオーズ
[1803.12.11-1869.3.8]
序曲「ローマの謝肉祭」

【お薦めディスク】(掲載ジャケット:上から)
ピエール・ブーレーズ指揮
ニューヨーク・フィルハーモニック
録音:1972年

エドゥアルト・ファン・ベイヌム指揮
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音:1951年

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