タグ「ブラームス」が付けられているもの

  • 美しいメロディーがより美しくなる おなじみの作品が新鮮な魅力を放ったり、なじみのない作品が親しげに響いたとき、決して誇張ではなく、芸術の深い部分と調和したような気持ちになる。ペーター・マークはそういう感動を与える指揮者である。新鮮な魅力を放つといっても、それが単に奇を衒ったものなら二度聴けば飽きる。マークの指揮はそうではなく、独特の表現が全て音楽的に響くのだ...

    [続きを読む](2022.06.04)
  • 「聖アントニウスのコラール」から始まる物語 ブラームスの『ハイドンの主題による変奏曲』は、1873年に作曲され、同年11月、作曲者自身の指揮により初演された。交響曲第1番を完成させる3年前のことである。 1870年、ウィーン学友協会の司書でハイドン研究家のカール・フェルディナンド・ポールから、ハイドン作とされる「ディヴェルティメント 変ロ長調 Hob.II....

    [続きを読む](2021.10.03)
  •  一つのオーケストラの真価を知らしめるには一人の名指揮者の存在が不可欠である。すぐれた指揮者がいて、素晴らしい公演が実現してこそ、その評価は高まり、名実共に一流オーケストラとなるのだ。レコードだけでは「録音技術の魔術でうまく聞こえるのだろう」などと言われかねない。 では、いわゆる世界三大オーケストラはどうだったのか。むろん彼らにも、来日して圧倒的な演奏を披...

    [続きを読む](2020.09.03)
  • ロマンティックか神経症か チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲は、1878年に作曲され、1881年12月4日にウィーンで初演された。作曲から初演までの経緯は、ピアノ協奏曲第1番と似ている。チャイコフスキーはこれをロシアの大演奏家レオポルト・アウアーに弾いてもらおうと考えていたが、アウアーに「演奏不可能だ」と突き返された。そこへ手を差し伸べたのがモスクワ音楽院...

    [続きを読む](2020.04.05)
  • ブラームスの「田園」 ブラームスの交響曲第2番は1877年に作曲され、同年12月30日に初演された。指揮者はハンス・リヒター、オーケストラはウィーン・フィルである。初演は大成功を収めた。以来、その人気の高さは変わっていない。ブラームスの交響曲は4作品あり、いずれも傑作だが、第2番が好きだという人は非常に多い。 完成までに20年以上かかった交響曲第1番とは対照...

    [続きを読む](2019.12.03)
  •  自分の好きな作品を紹介し、おすすめの演奏を挙げる時、ルドルフ・ケンペの名前を出していることが少なくない。若い頃は極度の激しさ、奈落の底の暗さ、えぐるような鋭さを求めがちで、過剰な表現に走らないケンペに惹かれることは稀だったが、心身を満たす充実感を味わいたいという気持ちが強くなっている今、何度も聴きたくなる演奏となると、この人の録音に食指が動くのだ。 過剰で...

    [続きを読む](2019.07.04)
  • 偉大なる系譜 ジョヴァンニ・バッティスタ・ヴィオッティは1755年に生まれたイタリア出身のヴァイオリニストであり作曲家である。フランスのパリで演奏会を行い、注目を浴びたのは17歳の時のこと。その後、マリー・アントワネットに認められて宮廷音楽家になり、名声を博した。 フランス革命後、ヴィオッティは不遇の身となり、ロンドンへ行き、演奏家・作曲家として活動を続けて...

    [続きを読む](2018.11.28)
  • 新しい交響曲の創始者 ハンス・ロットの交響曲第1番は、完成から100年以上演奏の機会に恵まれず、1989年にようやく初演された。ロットの名前はマーラーの伝記等にも載っているし、ブルックナーやマーラーがその才能を讃えた言葉も記録されている。誰も知らない作曲家だったわけではない。にもかかわらず、その代表作である交響曲第1番が人々の耳に届くまでにはあまりにも長い時...

    [続きを読む](2018.10.13)
  •  サー・エイドリアン・ボールトはイギリスが生んだ大指揮者で、ホルストの『惑星』の非公式初演、ヴォーン・ウィリアムズの田園交響曲や交響曲第4番の初演を任された人物として知られている。世界最長の交響曲と言われるハヴァーガル・ブライアンの交響曲第1番「ゴシック」のプロ演奏家による正式初演で指揮を務め、成功に導いたのもボールトである。同時代のイギリス音楽を世に紹介し...

    [続きを読む](2018.08.15)
  • ベートーヴェン弾きとして ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集は、モノラルとステレオの2種類ある。前者は1950年から1954年、後者は1959年から1969年にかけて録音された(「ハンマークラヴィーア・ソナタ」は除く)。演奏に関しては、モノラル盤の方が構築的である。ピアニッシモの美しい音色や聴き手に違和感を与えないアゴーギクの妙技も、神経質すぎない程度に磨か...

    [続きを読む](2017.03.13)
  • ワルターと私 ブルーノ・ワルターはクラシック音楽を聴きはじめた人の前に、モーツァルトやベートーヴェンの作品の指揮者として現れる。そして、ライナーノーツやレビューに書かれている「温厚な人柄」「モラリスト」といった人物評により、大指揮者には稀な人格者のイメージを植え付けられる。これはワルター受容の一つのパターンと言えるだろう。しかし、そんな人物像を前提にして音源...

    [続きを読む](2016.12.11)
  • ヴァイオリンが持つ美の力 ヨハネス・ブラームスがヴァイオリン協奏曲を作曲していたとき、名ヴァイオリニストのヨーゼフ・ヨアヒムが助言を与えていたことはよく知られている。1879年1月、ブラームス自身の指揮で行われた初演でも、独奏を務めたのはヨアヒムである。このヴァイオリニストはマックス・ブルッフとも親交があり、ブラームスより10年ほど前、ヴァイオリン協奏曲第1...

    [続きを読む](2016.09.24)
  • ピアノとオーケストラから生まれる宇宙 ブラームスのピアノ協奏曲第2番は1878年から1881年夏にかけて作曲され、1881年11月9日にブラームス自身のピアノにより初演された。第1番の初演が公式に行われたのは1859年1月22日なので、ピアノ協奏曲の「新作」が発表されるまでに20年以上の歳月を要したことになる。ちなみに第2番の初演当時ブラームスは48歳、作曲...

    [続きを読む](2016.01.02)
  • 天才作曲家の代表作 マックス・ブルッフは作品の知名度が高いわりにプロフィールがあまり知られていない人である。そのヴァイオリン協奏曲第1番は名曲中の名曲で、初演時から今日まで多くの人に愛されてきた作品だし、「コル・ニドライ」も「スコットランド幻想曲」も有名だ。にもかかわらず、ブルッフに関するまとまった資料は驚くほど少ない。この事実は、音楽以外の情報を抜きにして...

    [続きを読む](2015.06.24)
  • 世界が未だかつて耳にしたことがないようなもの マーラーの交響曲第3番は全6楽章、演奏時間に90分以上を要する大作である。ただ、渋滞感や退屈な部分は皆無で聴きやすく、最終的には聴き手を大きな幸福感で包み込む。あらゆる雑念を吸収し、世界を高みへと押し上げるような第6楽章の美しさが、この作品に存在する全ての要素を肯定させ、悲しみも苦しみも疲れも忘れさせるのだ。これ...

    [続きを読む](2015.02.25)
  • 協奏曲の録音 ギレリスのピアニズムには確かな造形感があり、胸に響く重量感、輝かしいまでの明晰さがある。しかし、グリーグの『抒情小曲集』で聴くことが出来るしっとりとした味わいと甘美さ、プロコフィエフの「束の間の幻影」で聴くことが出来る胸のすくような跳躍感や諧謔的な表現の巧さもギレリスの特性である。 若い頃(1930年代から1940年代にかけて)の録音を聴くとテ...

    [続きを読む](2014.04.23)
  • 歳月の重さと理念の重さ ヨハネス・ブラームスが交響曲第1番を完成させたのは1876年。「2台のピアノのためのソナタ」を交響曲に改作しようとして挫折したのが1855年頃なので、20年越しの念願成就ということになる。むろん、その間ずっと交響曲にかかりきりだったわけではないが、自らが世に出す最初の交響曲のことをブラームスはかなり重く考えていたようである。ベートーヴ...

    [続きを読む](2013.07.01)
  • 独奏ピアノを持つシンフォニー ブラームスのピアノ協奏曲第1番は、1859年1月22日にハノーファーで初演された。長い年月をかけて完成させた渾身の力作だったが、結果は成功とはいえなかった。しかし、さらなる失望が25歳の作曲家を襲う。その5日後、1月27日にライプツィヒで行われた演奏会が大失敗に終わったのである。演奏後、拍手した聴衆は数人だけだったという。世間の...

    [続きを読む](2012.10.12)
  •  クナッパーツブッシュが作り出す音楽は構えが大きい。テンポは概して遅め。しかし緊張感を失うことはない。響きは重厚でがっしりとしているが、時折えもいわれぬ透明感を帯び、聴き手に息を呑ませる。 スタジオ録音の代表盤は、ワーグナーの『ワルキューレ第一幕』『ヴェーゼンドンク歌曲集』、コムツァーク2世の「バーデン娘」などが入った名演集。全てオーケストラはウィーン・フィ...

    [続きを読む](2011.05.10)
  •  カイルベルトについて語る時に決まって出てくる言葉は「質実剛健」「無骨」といったものばかり。渋いと評する人もいるが、それも褒め言葉ではなく単に「地味」「色気がない」の裏返しとして言っているだけ。これには本人のジャガイモみたいな風采も少しは影響しているのかもしれない。 そのイメージが変わってきたのはワーグナーの『指環』のバイロイト・ライヴ音源が発売されてからで...

    [続きを読む](2011.04.28)
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