音楽 CLASSIC

ブラームス 交響曲第2番

2019.12.03
ブラームスの「田園」

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 ブラームスの交響曲第2番は1877年に作曲され、同年12月30日に初演された。指揮者はハンス・リヒター、オーケストラはウィーン・フィルである。初演は大成功を収めた。以来、その人気の高さは変わっていない。ブラームスの交響曲は4作品あり、いずれも傑作だが、第2番が好きだという人は非常に多い。

 完成までに20年以上かかった交響曲第1番とは対照的に、第2番の作曲は順調そのものだった。ブラームスは1877年6月9日から避暑で南オーストリアのヴェルター湖畔にあるペルチャッハに滞在し、そこで作曲に着手した。その後、9月17日からはリヒテンタールに滞在し、10月に作曲を終えた。仕上がった作品は、美しい風景や穏やかな生活を反映させたものとなった。全ての楽章が長調で書かれていることも、当時のブラームスの気分を表していると言えるだろう。

 ブラームスはエドゥアルト・ハンスリック宛の手紙の中で、この作品について「陽気で愛すべきもの」と書いているが、単に中身のない明るさではなく、あたたかみと深みがあることを強調しておきたい。その音楽は、幸福をもたらす陽光のようにやさしく清らかに広がっていきながら、時に情緒的な陰翳を帯び、時に切なく響く。ただ苦悩のあまり呻くようなことはない。ベースにあるのは満ち足りた感情である。

 第1楽章はアレグロ・ノン・トロッポ。まず低弦によってD-C#-Dの基本動機が奏される。牧歌的な第1主題、優しく情感のこもった第2主題はともに美しい。82小節から始まる第2主題は、1868年に書かれた有名な「子守歌」をもとにしているが、より遡れば、1865年作の「4手のためのワルツ」の第15番が起源である。私はこのフレーズを「ブラームスの愛のテーマ」だと考えている。1865年に亡くなった母への愛であり、亡き師シューマンの妻クララへの愛、つまりブラームスの心を満たすものである。118小節から現れる起伏の激しい動機は、穏やかな音楽の流れに動的な力を与えるが、指揮者によって不恰好に聞こえることもある。スケールの大きな楽章だが、構成はまとまっていて、間延びした印象は微塵もない。

 第2楽章はアダージョ・ノン・トロッポ。平和で崇高な雰囲気の中に、のびやかな歌があり、哀愁がある。第1楽章よりも劇的な緊張感と熱気を帯びる瞬間があり、分かりやすい甘美さや平穏さでは終わらない。

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 第3楽章はアレグレット・グラツィオーソ。変奏を活用したロンド形式で、主題は基本動機を転回させたものである。木管が豊かな表情を見せる楽章で、アンサンブルの精緻さが求められる。緩急のリズムの変化は、第4楽章を予告したものだろうか。

 第4楽章はアレグロ・コン・スピリート。第1主題が静かに奏でられた後、堰を切ったように華やかさと熱気をまとって突進する。第2主題は第1主題とは逆に穏やかな性格のものだが、両者の相性は素晴らしく良い。この2つの主題の扱い方は巧緻の極みであり、しかもそれを忘れさせるほど自然に、先へ先へと流れてゆく。コーダは輝かしい金管が印象的だが、この部分にも2つの主題が活かされている。そして最後は突き抜けるようなクライマックスが形成され、力強く曲が閉じられる。

 ブラームスは交響曲第1番を長年苦心して仕上げた翌年、半年もしないうちに第2番を完成させた。両者の雰囲気は大きく異なる。これは明と暗のバランスをとりたがるブラームスの性格を示しているのだろう。かつてベートーヴェンが「運命」と「田園」をほぼ同時期に作曲していたこと、また、作品自体が美しい自然の中で書かれたことから、第2番を「ブラームスの田園」と呼ぶ人もいる。

 数ある録音の中で広く知られている名盤の一つが、カール・ベーム指揮、ウィーン・フィルの録音(1975年録音)だ。穏やかさの中に高揚感があり、優美で、重厚さにも不足がなく、格調高い。「ブラ2」のファンを増やした名演奏であり、これを一番に挙げる人は多い。

 ヨーゼフ・カイルベルト指揮、ベルリン・フィルの演奏(1960年録音)は、「ブラ2」を知り尽くした指揮者の見識に溢れた超名演である。ただ私自身は、同じ指揮者がバイエルン放送響を指揮したライヴ(1966年ライヴ録音)の方を好んでいる。大器らしい懐の深さ、内側から燃える情熱、ライヴならではの興奮、どこか澄んだ空気感、そして巧いという表現が野暮に思えるほど説得力に満ちたフレージングがこの演奏にはある。

 ブルーノ・ワルター指揮、ニューヨーク・フィルの演奏(1953年録音)も魅力的で、うるわしいと言いたくなるほど歌心と活気に溢れている。第4楽章は情熱的で、フィナーレに向かって猛進するが、ウケ狙いの表面的なお祭り騒ぎとは異なる。ワルターがもたらす高揚感は、聴き手を幸せな気持ちにするタイプのものだ。

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 ピエール・モントゥー指揮、ウィーン・フィルの録音(1959年録音)は、豊かな色彩と平和な光彩に満ちた演奏で、天空に向かって響いているような開放感がある。モントゥーの指揮はいかなる時も慌てず焦らない。悠揚迫らぬ足取りで(時折巧みに緩急をつけている)流れてくる旋律には、えも言われぬ香気が詰まっている。
 リッカルド・ムーティ指揮、フィラデルフィア管の演奏(1988年録音)も、この作品のファンなら一度は聴いておきたい名演奏。管弦楽の音が洗練されていて、細部まで美しい。牧歌的な味わいは少ないが、旋律のなめらかな手ざわりが伝わってくるかのような心地よさがある。


【関連サイト】
Brahms Symphony No.2 Op.73(CD)
ヨハネス・ブラームス
[1833.5.7-1897.4.3]
交響曲第2番 ニ長調 作品73

【お薦めの録音】(掲載ジャケット:上から)
ヨーゼフ・カイルベルト指揮
バイエルン放送交響楽団
録音:1966年12月8日(ライヴ)

ブルーノ・ワルター指揮
ニューヨーク・フィルハーモニック
録音:1953年

ピエール・モントゥー指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1959年

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