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『暴力教室』の衝撃 〜「ロック・アラウンド・ザ・クロック」にのせて〜

2011.06.20
 1955年に公開された『暴力教室』(原題『BLACKBOARD JUNGLE』)は、非行が横行する学校の現実をリアルに描いた作品で、各地で上映禁止騒動を起こした。不良たちによって荒らされる授業、女教師への暴行未遂、教師の妻への嫌がらせ、そして「当校には非行問題はない」と言い張る校長。教師たちは聖職者でも何でもない。獣ばかりがいるジャングルで孤軍奮闘する使い捨ての駒である。こういう映画は今では珍しくないが、当時はかなりのショックを与えたものと思われる。

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 主題歌はビル・ヘイリーと彼のコメッツによる「ロック・アラウンド・ザ・クロック」。元々は1954年にリリースされた曲だが、映画に使われたことで爆発的に売れ、今では「ロック史上初めての大ヒット曲」として知られている。その歌詞は「一晩中ロックで踊り明かそう」というもの。これを聴いて父兄が顔をしかめたであろうことは容易に想像がつく。「ロック=不良のシンボル」というイメージは、もしかするとこの映画で根付いたのかもしれない。

 理想に燃える英語教師リチャード・ダディエはノース職業高校に赴任した初日、自己紹介をしている最中に、黒板にボールをぶつけられる。その衝撃音が物凄い。この映画がいつ大爆発するか分からない火薬をはらんでいることを告げる象徴的なシーンだ。校内にのさばる不良のボスで、窃盗と暴力に明け暮れるアーティ・ウェストが醸し出す鋭利でまがまがしいムードも緊張感を煽っている。
 うわべの快活さや笑い声の裏に張り詰めている名状しがたい不穏な空気。少しでも油断すれば獣たちに食われてしまうという危機感。才人リチャード・ブルックス監督は、クールなトーンを保ちながらも手綱を緩めることなく、観る者をぐいぐい牽引する。とりわけ終盤、ダディエがカンニングをしたウェストを咎めたことで空気がまずくなり、そこから一気にラストの対決へとなだれ込むシークエンスには絶句してしまう。

 印象的なシーンを挙げていったらキリがないが、ダディエの同僚である数学教師エドワーズが15年間かけて集めたジャズのレコード・コレクションを、ウェスト一味によって粉々にされるところは凄惨である。これはロックに目覚めようとしている若者たちが「ジャズ」を葬っているシーンと解釈できないこともない。

 冷酷で、陰湿で、容赦がないアーティ・ウェストに扮しているのは、若きヴィック・モロー。『コンバット』のサンダース軍曹のイメージが強い人は戸惑うかもしれない。本物のアブない人が映画に紛れ込んでいるようにしか見えないほど役に入り込んでいる。

 主役のダディエにはグレン・フォード。『ギルダ』『復讐は俺に任せろ』『ポケット一杯の幸福』などで知られるスターである。ダディエと距離を置きながらもやがて心を通わせる黒人生徒ミラー役にまだ若手だった頃のシドニー・ポワティエ。ダディエに想いを寄せるグラマーな女教師ミス・ハモンド役にマーガレット・ヘイズ。教育者としての情熱や理想など持つだけ無駄と割り切っている先輩教師マードック役にルイス・カルハーン。
 ここまでのキャストは文句なしだが、ダディエの妻アン役のアン・フランシスが可憐すぎてこの映画ではやや浮いている。ダディエが学校でいくら苦悩しても、「でも家に帰ればアンが待っているのだからいいじゃないか」と思われかねないほど可憐である。ほかのシーンが殺伐としているので、目の保養にはなるけれど。

 原作はイヴァン・ハンター。「87分署シリーズ」の作者エド・マクベインの別名である。このシリーズの「キングの身代金」が黒澤明監督の『天国と地獄』の原作であることは周知の通り。

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 「ロック・アラウンド・ザ・クロック」を初めて聴いたのは22、3年前のこと。主に昔の曲を流すラジオ番組で流れていた。その時、ディスクジョッキーが「ロックの最初の曲」として紹介していたことを今でも覚えている。後になって知ったが、これは大きな間違いらしい。とんだ誤情報を植えつけられたものである。ただ、『暴力教室』という映画があることを知ったのもそのラジオのおかげなので、そこは感謝している。
 私が所有しているのはVHS。あまりにも有名な作品なのに、日本ではまだDVD化されていない。早々にリリースしてほしいものだ。
(阿部十三)

【関連サイト】
Glenn Ford
Bill Haley and his Comets Rock Around The Web