映画 MOVIE

オルネラ・ムーティ 〜ふたりだけの恋の島〜

2011.12.12
 川で遊んでいる友人たちのことを少し離れた所から眺めている少女リーザ。その時、どこからともなくギターの音が聞こえてくる。ほかの友人たちの耳には聞こえていないらしい。リーザはその音に誘われるようにして友人たちから離れ、林の中を歩き回り、やがて小さな滝裏のくぼ地で花柄のギターを弾いているロベルトを見つける。

 1971年の映画『ふたりだけの恋の島』のワンシーンである。主演は1970年代のイタリア映画界で「偉大な天啓」と謳われた女優、オルネラ・ムーティ。この林の中を歩くシーンはオルネラ・ムーティを最も美しく撮った不滅の記録、いわば最高のプロモーションビデオである。

 作品のストーリーはいたってシンプル。少女リーザはヒッピー風の青年ロベルトと知り合い、惹かれ合う。しかしリーザの父親は金も権力もある実業家。彼はヒッピーを嫌い、リーザとの交際を禁ずる。ある日、都会の喧噪を嫌ったロベルトは旅立つことを決意。リーザも行動を共にし、別荘にあるボートで海に出る。慌てた父親は警察に通報、大掛かりな捜索が行われるが、2人の行方はなかなか分からない。同じ頃、リーザとロベルトは無人島で恋の炎を燃え上がらせていた。終わりの時がすぐそこまで近づいていることを感じながら......。

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 先述の川のシーンをはじめ、無人島に漂着したリーザが洞穴で濡れた服を脱ぐ時の戸惑いと恥じらいが入り混じった表情、裸になった2人が海の中で戯れる躍動感、警察によって父親の手に渡されたリーザを追ってロベルトが全力で町中を走り抜ける切ないシーンなど、見どころは沢山ある。私がとくに好きなのは、マスコミの記者が別荘の管理人にインタビューしている時、カメラがパンして回想シーンに切り替わり、リーザとロベルトがボートで海へ繰り出すところである。ここでミドル・オブ・ザ・ロードの「THE SUN IN YOUR SKIN」が流れ、2人は甘いムードの中でキスをする。このシーンは何度観ても胸が熱くなるし、ジョルジオ・ステガーニ・カゾラーティの演出も冴えている。もうひとつ、無人島の上空にヘリコプターが見えた時、リーザが終わりが来たことを直感したかのようにロベルトに処女を捧げる、その瞬間の熱いまなざしも忘れがたい。束の間の恋だけど一生を賭けた恋。その一途さ、激しさ、純粋さに心揺さぶられる。

 音楽の充実ぶりにも特筆すべきものがある。メインテーマを手掛けたのはジャンニ・マルケッティ。ボビー・ソロの「君に涙とほほえみを」を作曲した人だ。群雄割拠の当時のイタリア映画音楽界で、仕事に恵まれていたとは言い難いが、その溢れる才能をここで爆発させている。主題を変奏させる際のアレンジの巧さなど、ルスティケッリに匹敵する才能を感じさせる。ミドル・オブ・ザ・ロードの挿入歌も名曲揃い。サントラだけ聴いて満足出来る作品は、個人的には皆無に等しいが、これは例外である。

 しかし、なんといっても魅力的なのはオルネラ・ムーティだ。撮影当時オルネラは16歳。16歳にしてこの色気は反則である。恋をしている時の陶酔で半開きになった唇。父親たちに対して心を閉ざしている時の閉ざされた唇。甘い官能と射抜くような鋭さが同居する蠱惑的な目。健康的に発達しながらもどこか魔性を秘めた肢体。そのくせ何も知らずに映画の世界に迷い込んでしまったような素朴さ、純粋さをたたえているのである。ロベルトは警察の大群を突き飛ばし、全てを投げ出してリーザを追いかけるが、そんな無茶な場面も、ヒロインを演じているのがオルネラだからこそ説得力が生まれてくる。

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 勢いに任せて『ふたりだけの恋の島』について書きすぎた。言うまでもなく、オルネラ・ムーティの代表作はこれだけではない。デビュー作にあたるダミアノ・ダミアニ監督の『シシリアの恋人』も有名だ。これは1970年の映画。オルネラは姉クラウディアがこのヒロイン役のオーディションを受けるのに同行し、ダミアニ監督の目にとまったという。先ほど「何も知らずに映画の世界に迷い込んでしまったような素朴さ」と書いたが、このデビュー作でオルネラが演じたのは、自分を犯した元婚約者=マフィアの青年に敢然と立ち向かう少女フランチェスカ。それでいて、実はその青年のことを愛している、という一面ものぞかせる。フランチェスカの性格はどこか偏執的で、極端な行動をとる傾向があり、必ずしも共感できる役柄ではないが、この難役をオルネラは全力で熱演している。フランチェスカを犯すマフィアを演じたのは、『ふたりだけの恋の島』のロベルト役でもあるアレッシオ・オラーノ。そうやって対比して観るのも面白い。
続く
(阿部十三)