文化 CULTURE

公開ラブレター 憧れの女優・市地洋子

2011.05.21
ichiji_yoko
 恋は突然やって来る。恋は突然落ちるもの。僕の胸を焦がす美しい人の名前は、市地洋子。我ながら気色悪いテンションの書き出しだが......僕の恋は全く予期せぬ形で始まった。
 ケーブルテレビを観ていると、懐かしい番組と再会することがよくある。僕の年代の男は、特撮ヒーロー番組をやっていると、恥ずかしながらついつい観てしまうのではないだろうか。ヒーローの活躍を楽しむという面も勿論あるが、それだけではない気がする。映し出される風景、物、ファッション、現代人とは何処か異なる顔つきなどを味わう喜びも大きい。自分が子供だった頃の空気感が切り取られている一種のドキュメンタリー番組、タイムカプセルのような側面が、特撮ヒーロー番組にはあるのだと思う。

 ある日、僕が何気なく見つけたのが、子供の頃に再放送で観ていた『ミラーマン』(1971〜1972年)。非常に大雑把な説明をするならば、ウルトラマンっぽい巨人ヒーローの物語だ。「懐かしいなあ」と思いながら観始めたのだが、地球防衛軍SGMの秘密基地のシーンで、僕はミラーマンや怪獣のことなんてすっかり忘れてしまった。僕の心を奪ったのはSGMを率いる科学者・御手洗博士の助手・野村隊員であった。青いブレザーと灰色のキュロットを身に纏い、颯爽と働く彼女を見た瞬間、僕の心臓は激しく高鳴った。「なんて美しい人だろう!」と。

 ミラーマンが勝ったのか? 地球はインベーダーに征服されてしまったのか? すっかり呆けてしまった僕は、その後、物語がどう展開したのかよく覚えていない。野村隊員の再登場を待ちわびている内に、番組はいつの間にか終ってしまっていたのだ。ふと我に返った僕は、鼻息荒くインターネットで『ミラーマン』のことを調べ始めた。人類のために命懸けで闘ってくれたミラーマンには悪いが、彼のことなんてどうでも良かった。僕はただただあの美しい人、野村隊員のことが知りたかった。検索の結果、演じていたのは〈市地洋子〉という女優であることが分かったが、失礼ながら僕は彼女の名前には全く心当たりがなかった。彼女は『ミラーマン』や『ジャンボーグA』(73年)といった子供向けのTV番組の他、様々な映画に出演していたが、大半の作品は70年代の東映で乱造されたB級アクション映画。しかも主役を務めた作品は、どうやら1本もないらしい。元々はスクール・メイツに所属していて、歌手としての活動もしていたらしいが、調べた限りだとEP盤を2枚出したのみ。おそらくセールスが芳しくなかったので、リリースが続かなかったのだろう。

 インターネットのお陰で、ある程度のプロフィールを掴むことは出来たが、それでも彼女に関する情報は非常に少なかった。もっと知りたい! 僕は翌日から彼女の姿を取り憑かれたかのように追い求め始めた。まずは行きつけのツタヤで、片っ端から彼女の出演映画のDVD、ビデオを借り、連日連夜観まくった。正直言って一般的に「名作」と呼ばれ得るものは1本もない。ストーリーがワンパターンなB級アクション映画ばかりであった。しかし、荒唐無稽な物語、猥雑なトーンの画面を通じて市地洋子と対面するのは、僕にとって何とも言えず幸せなひと時となった。

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 まず僕が集中的に観たのは、スケ番を主役にした映画の数々であった。スケ番ものの映画として有名な『ずべ公番長』シリーズの内、『ずべ公番長 はまぐれ数え唄』(71年)、『ずべ公番長 ざんげの値打ちもない』(71年)に市地洋子は出演していた。両作の主演は大信田礼子。大信田礼子が演じるずべ公・影山リカを慕ってつきまとう少女・おゆきの役で市地洋子は登場する。『〜はまぐれ数え唄』は、やくざとリカ軍団の激突がクライマックスなのだが、ピストルを撃ちながら闘うおゆきが、とても愛くるしかった。一方、『〜ざんげの値打ちもない』での市地洋子の出演はごく僅か。おゆきの実家のラーメン屋にリカと仲間達がやってきてラーメンを食べるシーンに登場する。カウンター内でラーメンを作っている市地洋子に家庭的な香りを感じてしまって、僕のハートはキュンキュン高鳴った。こんなラーメン屋が本当にあったら、僕は毎日通いつめてラーメンを食べ続けるだろう。

 『ずべ公番長』シリーズより前に出演した『三匹の牝蜂』(70年)も観た。大原麗子主演のこの作品は、万博で沸く当時の大阪を舞台に、ずべ公達がお金儲けを企む物語だ。市地洋子は3人のずべ公の末っ子的ポジション。オヤジどもを色仕掛けで騙してお金をむしり取る小悪魔的な役柄であった。後の出演作に較べて、若干ふくよかな容姿が素晴らしい! こんな可愛らしい女性に色仕掛けをされたら、僕は迷わず全財産を差し出してしまう。

 千葉真一主演のカンフーアクション『殺人拳2』では、市地洋子はなかなか良い役であった。カンフーで殺しを請け負う剣琢磨という男の相棒なのだ。三つ編みが奇妙なカーブを描いて明後日の方向を指している変てこりんな髪型、とぼけたキャラクターに胸を躍らせながら、『あぶない刑事』での浅野温子をふと思い出した。原型はこの映画の市地洋子か? とにかく、抜群にキュートな市地洋子が印象に残った。千葉真一のカンフーよりも、市地洋子の美貌の方がよっぽど僕にとっては殺人的であった。

 市地洋子の女優としての駆け出しの時期に位置する『ミヨちゃんのためなら 全員集合!!』(69年)も観た。これはザ・ドリフターズが主役の映画だ。大企業と結託して金儲けを企む町の有力者の悪事を、ザ・ドリフターズの面々が暴く。彼らに協力する元気いっぱいの女子学生を演じているのが市地洋子。体操服やセーラー服姿の市地洋子が堪らなく可憐であった。こんな同級生がいたら、僕は勉強なんて全く手につかなかっただろう。
続く
(田中大)

【関連サイト】
『ミラーマン』(DVD)
『ずべ公番長 はまぐれ数え唄』(DVD)
『三匹の牝蜂』(DVD)
【執筆者紹介】
田中 大 DAI TANAKA
1973年3月17日生まれ。東京都出身。96年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。
シンコーミュージック、ロッキング・オンの音楽雑誌の編集者を経てフリーランスに。
専門は音楽全般、西部劇。趣味はギター、サックス。