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続 公開ラブレター 憧れの女優・市地洋子

2011.05.28
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 市地洋子の女優としてのキャリアを一気に辿って行ったわけだが、観るためには決心が必要な作品もあった。彼女が一時〈安芸晶子〉と改名した時期に出演した『狼の紋章』(1973年)だ。原作は平井和正原作の小説で、高校生の狼男を描いている。狼男の高校生・犬神明は志垣太郎、敵役・羽黒獰は松田優作。本作は松田優作の映画デビュー作であり、学ラン姿で日本刀を携えて歩く彼が、冷酷な学園内の支配者を演じている。安芸晶子(市地洋子)は担任教師・青鹿晶子。インターネットで事前に見つけた情報によれば、青鹿晶子は羽黒にレイプされてしまうらしい。服をビリビリに引き裂かれて裸にされるばかりか、何度も背負い投げされて床に叩きつけられるのだという。このシーンはどうやら伝説になっているようで、安芸晶子による文字通り体当たりの演技が、非常に高く評価されているらしい。彼女のことを知るためには欠かせない作品であるのは分かったが......憧れの女性が酷い目に遭う様を観るのは非常に辛い。本作はツタヤのレンタルで取り扱われていなかったし、店頭販売もされていなかったので、僕は観るのを少し先延ばしにしてしまったのだが......決心を固めてアマゾンでDVDを注文した。観るのはやはり辛かったし、松田優作を激しく憎まずにはいられなかった。しかし。毅然と立ち向かい、最後まで心は屈服しなかった青鹿晶子の姿は、僕にとって大きな慰めとなった。そして、これまでの作品では観たことのない凛々しさに触れ、僕は市地洋子にますます夢中になったのだ。

 最後に観た作品は、『狼の紋章』で酷い目に遭わされた松田優作と再び共演した『最も危険な遊戯』(1978年)だ。この映画では、政財界の黒幕に囲われているバーのママを市地洋子が演じている。彼女はまたしても松田優作に暴力を振るわれてしまうのだが(アノヤロー!)、2、3回殴られてナイフを突きつけられるだけであっさりとパトロンの潜伏先を白状するので、正直なところかなりホッとした。やはり映画といえ、市地洋子が痛めつけられる様は出来れば観たくない。

 取りあえず今のところ観ることが出来た出演作品はこれだけだが、僕は引き続き探している。まだソフト化されていないものやTVドラマの出演作もあるので、地道に見つけて行くつもりだ。そんな調査の中で、市地洋子のEP盤「髪を染めたの」(1970年)を手に入れることが出来たのは、とても嬉しかった。A面「髪を染めたの」は、ホーンセクションを盛り込んだ軽快なアレンジが心地よい曲であった。B面「花を召しませ」は、哀愁のメロディが涙を誘う。どちらの曲も市地洋子の歌がとても良い。艶と儚さを兼ね備えた歌声だ。先述の通り彼女はスクール・メイツ出身だが、「スクール・メイツ」は渡辺プロダクションの歌手養成所だ。彼女はそこできちんとした訓練を積んでいたのだろう。市地洋子が歌手としても確かな技術、表現力を持っていたと評価するのは、決して僕の贔屓目ではないと思う。彼女のもう1枚のEP盤「恋算数」はまだ見つけられていないが、いずれ手に入れるのを楽しみにしている。

 ......と、のんびり構えていたら、また発見! 『スクール・メイツ+ジミー竹内=モンキーズ』(1969年)というアルバムを見つけてしまった。これはジャズ・ドラマーのジミー竹内とスクール・メイツの共演によるモンキーズのカヴァー集だ。スクール・メイツは養成所の生徒で構成されている性質上、卒業に伴ってメンバーは頻繁に変動する。そのため、発売当時は参加メンバーのクレジットを載せていなかったらしいのだが、02年のCD化の際、発売元が帯とライナーノーツに〈市地洋子〉という名前を載せてくれた。素晴らしい! ジャケットを見たら、集合写真後列の左端に、一番美人の市地洋子の姿があった。CDを聴いてみると、青春歌謡にアレンジされた日本語詞のモンキーズ・ナンバーの数々が新鮮であった。例えば、有名な「モンキーズのテーマ」は、今や珍しい〈パヤパヤ・コーラス〉が施された「スクール・メイツのテーマ」となっている。「この女性コーラスの中に、市地洋子さんの声が混じっているんだなあ」と、僕はうっとりと耳を傾けて聴いた。

 僕がここまで夢中になっている市地洋子。しかし、周囲の人に写真などを見せても、僕ほどには痺れないのはどういうわけか? 美人であることは否定されないが、誰もが夢中になる王道の美人というタイプでは、どうやらないようだ。実は僕もそれには薄々気が付いていた。市地洋子と出会って改めて自覚したのだが、僕は彼女のように頬がふっくらした丸顔、色白、肩がなだらかな稜線を描く女性が大好きなのだ。女優や身近な女性も含め、僕が今までに好きになった娘達は、思い返してみると大体この類型に属する。そういえば、僕が「すごく美人でセクシーで素敵だ!」といくら言い張っても、なかなか周囲の理解を得られない野呂佳代というタレントがいる。元AKB48のお笑い担当で、現在はSDN48のキャプテンを務める彼女は、完全に市地洋子のタイプだ。僕はやはりこういう女性が著しく好きなのだと思う。

 僕が辿った限りでは、市地洋子の芸能活動は『最も危険な遊戯』まで。その後の作品が見つからないところを見ると、芸能界を引退してしまったのかもしれない。とても寂しい。しかし、彼女が今何処かで幸せに暮らしていることを想像すると、温かい気持ちになれる。ぜひそうであって欲しい。女優として成功したとは、決して言えないのかもしれない。しかし、彼女は僕にとっては紛れもなく最高の女優さんだ。こんなにも僕をいつでもときめかせてくれる。
(田中 大)

【関連サイト】
ベスト&スクール・メイツ+ジミー竹内=モンキーズ(CD)
『狼の紋章』(DVD)
【執筆者紹介】
田中 大 DAI TANAKA
1973年3月17日生まれ。東京都出身。96年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。
シンコーミュージック、ロッキング・オンの音楽雑誌の編集者を経てフリーランスに。
専門は音楽全般、西部劇。趣味はギター、サックス。