文化 CULTURE

2013年のモーニング娘。 百聞は一見にしかず

2013.07.06
 2013年に入ってからモーニング娘。は2枚のシングルを発表し、いずれもオリコンチャートで1位を獲得し、「11年ぶりの2作連続1位」ということで話題になった。現在は道重さゆみをリーダーに、譜久村聖と飯窪春菜をサブリーダーに据え、10人体制で活動しているが、12期メンバーのオーディション中なので、秋ツアーの頃には増員されているのではないかと予想される。その新しい体制が生まれる前に、自分なりにここ数ヶ月のモーニング娘。を振り返り、感銘を受けたこと、印象に残ったことを書き留めておきたいと思う。

 そういうわけで、話は4ヶ月以上前の2013年3月3日にさかのぼる。この日はパシフィコ横浜で行われた「Hello! Project 春の感謝祭 ひな祭りフェスティバル2013」の2日目。場内には、メインステージのほかに、後列の観客も楽しめるようサブステージが設けられていた。私の席は後方の上手側。そこからはステージに向かうハロー!プロジェクトのメンバーたちの様子も見ることが出来た。
 その中でひときわ目をひいたのは、田中れいなだった。コンサート前半のソロコーナーでは、緊張している、集中している、といった気配を微塵も感じさせず、落ち着き払い、ファンからの声援に余裕の笑みで応じながら客席の後ろを通ってサブステージに上がり、「抱いてHOLD ON ME!」を歌いこなしていた。イベントの間中、全体的にイヤモニが不調だったようで、しかも田中に関していえば耳の調子が良くない時期でもあったはずだが、ここでは観客に余計なことを考えさせない彼女なりのプロフェッショナリズムを貫いたのである。

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 モーニング娘。のパフォーマンスもグループ自体の好調さをうかがわせる出来で、その頃公式動画で公開されたばかりの「ブレインストーミング」では、メインステージ上の熱気と迫力が後ろの席まで伝わってきた。ファンを慣れさせない、というつんく♂のスタイルゆえか、毎回新曲が出るたびに「こんな曲をライヴでちゃんとやれるのか」と不安にさせられるのだが、蓋を開けてみると、これまた毎回こちらの予想を上回るかたちに仕上がっている。やはりモーニング娘。は生で観られる限りは観ておいた方がいい。テレビカメラでは捉えきれないダイナミズムやメンバーの個性の飛沫が、観ていて心地よい。
 気になることがあったとすれば、田中れいなが卒業した後、「抱いてHOLD ON ME!」のようなスタンダード曲を歌いこなして観客を納得させるようなメンバーが出てくるのか、という点である。そういったことも含めて、「モーニング娘。コンサートツアー2013春 ミチシゲ☆イレブンSOUL 〜田中れいな卒業記念スペシャル〜」への期待は高まった。

 初日は3月16日、会場はオリンパスホール八王子。オープニング映像は、リーダーの道重をフィーチャーしたもので、ツアータイトルに沿ったコンセプチュアルな「作品」になっていた。過去のツアーでも魅力的な映像はいくつかあったが、今回は格別。各メンバーがポーズを決めるところでは、道重が非常に巧く、ポージングの際に少しの目の動きも腕の角度もおろそかにしない彼女の美点がここに集約されていた。この映像に象徴されるように、ステージング全体を通して観ても、彼女がいると安心出来る、といいたくなるほど存在感があり、苦手とされる歌唱面も、前回のツアー時よりまた少し向上していた。アイドルとして活動し、10年近く経っても、というか、むしろ10年近く経ってから成長している道重さゆみのユニークさはもっと注目されて然るべきだろう。

 田中れいなはというと、卒業を控えているにもかかわらず、言動に湿っぽさがなく、歌唱面でも変に気張ることなく、いつもと変わらない自分を出そうとしていた。ライヴで観客を煽る姿も相変わらず堂々としたもの。あくまでも、最後のツアーをマイペースで楽しむスタンスである。その姿勢には、はっきりと好感が持てた。
 とはいえ、初日の時点では、各々の表現力や集中力に差が出ているように見受けられたのも事実である。田中が選んだ卒業スタイルに対し、各自感情の持って行き方に若干ばらつきがあったのではないか、とも推察される。

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 過去に私が観たモーニング娘。のツアーは、初日より中日が良いといった分かりやすい成長物語ではなかったけど、今回は成長の軌跡を描いていたように思える。その過程を4月13日の蒲郡市民会館で確認することが出来たし、5月3日の中野サンプラザでは「ミチシゲ☆イレブン」に文句のつけようのない一体感が生まれていた。歌やダンスだけでなく、トークの面でも、後輩メンバーが頭角を現し、自身のキャラクターを確立させつつあるように見えた。
 そして5月21日の日本武道館。田中れいなは涙でじめじめするのを極力避け、あくまでも歌自体の魅力で勝負することに徹していた。卒業コメントもさっぱりしたものだった。以前、彼女について「周囲の大人たちの思惑にコントロールされない生身の個性や主張が弾け、サービス精神とエゴが二人三脚で突っ走っている」と書いたことがあるが、その異端児的なキャラクターを根本的には変えることなく、それでいて嫌みなところもなく、最後まで自分の美学を押し通したといえる。

 このツアー中、急ピッチで変わったメンバーについてもふれておきたい。まずは、鞘師里保である。雑誌のインタビュー記事等を読むと、彼女の発言からは中学生のものとは思えないほどの使命感が感じられるのだが、おそらくそういった言葉が出てくる裏には大きな理想と情熱と不安があるのだろう。だから、田中れいな卒業前のこのツアーで、しっかりスキルを向上させておきたい、先輩の能力を吸収しておきたい、という気持ちがかなり強くあったはずである。

 そういう使命感は、4月の蒲郡でのコンディションの上げ具合からも十分伝わってきた。曲によって、というよりは、全体を通して安定した歌唱を披露していたのである。5月の中野サンプラザでは、そこからさらに表現力がついてきて、成長の速度が尋常でなくなっていることに驚かされた。日本武道館では、さすがに後半疲れが喉に出ていたが、あれだけ舞踏家のように踊り、なおかつ歌いまくっているのだから、無理もない。
 彼女の声にはまだ自覚されていない深みがあるように思われる。音域によっては劇的な力を迸らせるし、大人っぽい艶やかな広がりを見せることもある。偶然性に負うところが大きいものの、レガートを使うパートでは、その声の特性が出てくるようだ。これから時間をかけて自分に恵まれた能力を開拓していってほしい。なお、今回のツアーについていえば、3月末のブログに「自分の楽な歌い方を見つけられた気がします」とあり、その辺りで何かコツのようなものを掴んだことがうかがえる。

 佐藤優樹のポテンシャルには謎の部分が多く、園児のような言動に注意が向きがちだが、「Rockの定義」で鞘師里保と共に田中れいなのバックダンサーを務めた時は、ダンスの能力を遺憾なく発揮していた。激しい動きの中でも手足をのびやかに使い、それでいてきっちりテンポも合わせてくる、かなり特徴的な踊りである。普段は、関節が外れたような、力のみなぎりをほとんど感じさせないダンスで、それはそれで面白い。ただ、スイッチが入ると豹変するらしい。
 最近のモーニング娘。の振付は群舞的な要素が強いので、こういう機会があると色々参考になる。もっとも、佐藤の場合、すぐリセットされそうな雰囲気もあり、次のコンサートでよりスキルアップしているかどうかは分からない。そんなところも含めて、解読しづらい魅力がある。
続く
(阿部十三)


【関連サイト】
モーニング娘。OFFICIAL WEBSITE
モーニング娘。Official Channel
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