文化 CULTURE

モーニング娘。'15 鞘師里保の卒業とグループの展望 [続き]

2015.12.19
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 2015年9月19日にスタートした「モーニング娘。'15 コンサートツアー秋 〜PRISM〜」は、途中で鞘師里保の卒業発表があり、後半から卒業コンサートツアーの意味合いも兼ねるような形になったものの、動揺がステージ上で乱れを生む場面は(私が観たところでは)なかったと言っていい。改めてその期間を振り返ると、「よくあんな凄いコンサートができたな」という気持ちにさせられる。ちなみに、私が行ったのは横浜(11月3日)、名古屋(11月14日)、日本武道館(12月7日)の3カ所。ツアー前半は行くことができず、皮肉にも後半のチケットのみ取っていたので、心情的に慌ただしく「お見送り」をすることになった。

 卒業発表後のパシフィコ横浜公演では、鞘師が異様に高いテンションで12期の新メンバー牧野真莉愛と喋っていたのが印象的で、コンサートではそんなに見せない一面を見せていたが、名古屋公演では気合いの入った歌とダンスを披露して、ラストスパートへのスイッチが入ったことをうかがわせた。彼女だけに関して言うなら、この日の昼公演は、私が観た過去のコンサートを含めても屈指の出来ばえだったように思う。アンコールの「ここにいるぜぇ!」まで迫力を失わないロックな歌い方からも、吹っ切れた心境が伝わってきたものだ。

 セットリストは相変わらずハードで、フォーメーションダンスからそうでないものまで網羅し、さらに生田衣梨奈、石田亜佑美、野中美希がアクロバットを披露して場内をどよめかせるなど、中だるみする隙は一寸もなかった。12期メンバーでは、尾形春水と牧野真莉愛の対照的な個性が面白く、モーニング娘。ならではの奇妙だが気になるバランス感がステージ上で形成される前兆を感じた。2人とも歌唱パートは少ないが、曲調・歌詞にあわせた表情作りやダンスの表現の仕方がそれぞれ独自的なので、何かと目立つ。一言でいえば尾形は静的、牧野は動的。粗削りなところもある。ただ、このようにタイプの異なるメンバーが共存し刺激し合うことで、これから化学反応が起こるのではないか。

 譜久村聖は安定感のあるパフォーマンスでグループの要となり、コンディションにむらのあるメンバーが多い中でも、この人は安心して観ていられる、と言いたくなるほど決め処を外すことなく存在感を示した。コンサート終盤に行われるメンバーの挨拶でも、特に武道館公演ではリーダーらしくまとめていて頼もしかった。また、生田衣梨奈もアクロバットで活躍したこととは別の次元で、このツアーの支柱になっていたような印象がある。ツアーの後半が必要以上に湿っぽくならなかったのは、誰に対してもフラットに接し、ぶれる気配のないKYキャラ・いじられキャラを貫いた彼女の存在によるところが実は大きかったのではないか。何にしても、締め括りとなる武道館公演は(一部音響のトラブルはあったけど)9期のメンバーがグループを引っ張り、10期と11期のメンバーがきちんとカバーしている、と思わせる箇所が多く、今回のツアーの仕上がりとしては理想的だった。

 2015年夏に掲げられた課題の一つである「一人ひとりの知名度向上。」については、譜久村聖が雑誌の表紙を繰り返し飾ったり、飯窪春菜がバラエティ番組でトークを披露したり......という具合に状況は変わってきている。ドラマの方でも、工藤遥が9月放送の「オトナヘノベル」に出演していたし、12月20日放送の「44歳のチアリーダー!!」には石田亜佑美が出演する。誰も現在の自分の知名度に満足してはいないだろうが、変に戦略的になることなく、一人ずつ、一歩ずつ、課題の壁を乗り越えようとしているプロセスには好感が持てる。

 テレビの大掛かりな歌番組では、結構な確率で昔のヒット曲だけを求められていたが、それはそれでファンとしては「一種のお祭りだから」と受け止めることができるし、現役メンバーが大舞台に出演するという点では意味のあることなのだと思える(ほとんど黙殺されていた時期もあるのだ)。その一方で、「いつも同じ曲」という一般的印象と、進化・変化のスピードが速いグループの実像との間に乖離が生じていることも否定できない。モーニング娘。'15は昔のヒット曲に依存している人たちの集まりではない。彼女たちは過去の財産の正当な継承者だが、濫用はしていないのである。実際のコンサートでも、凄まじい盛り上がりを見せるのは「わがまま 気のまま 愛のジョーク」をはじめとするここ数年のナンバーなのだ。しかし、そんな状況の中でも、「MUSIC JAPAN」や「FULL CHORUS 〜音楽は、フルコーラス〜」などでは、グループの「今」を良い形でアピールする機会を得ていたので、このような場が来年以降もっと増えていくことを期待したい。

 2016年1月、12人体制でモーニング娘。'16が始まる。どのような変化や驚きが待っているのかは知る由もない。このグループにとっては毎年が「勝負の年」であり「激動の年」だが、2016年もまたそういう一年になるのだろう。

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 思えば2011年春に鞘師里保が高橋愛、新垣里沙と一緒に歌い踊ったあの数分間は、2010年までのモーニング娘。と2011年からのモーニング娘。を繋げた象徴的な時間でもあった。2015年までのコンサートツアーでは、メディアにあまり露出していなかった時期の楽曲を頻繁に取り上げていたが、それは「当時のモーニング娘。を介して今のモーニング娘。をパフォーマンス面で成長させる」という重層的な意味を持つに至ったと言える。センターを務めた鞘師自身、実力があるだけでなく、「SONGS」の歌詞をそのまま体現したようなイメージのメンバーだったこともあり、そこにしっかりと嵌っていた。ただ、モーニング娘。'16には全く予測できないところがあり、新たな展開への興味をかき立てる。

 何をするにしても、とにかく怪我、病気、醜聞がなければいいというのが私個人の率直な気持ちだが、このグループの最大の魅力であるコンサートがどうなっていくのかは気になる。2013年の「CHANCE」ツアー以降、コンサート内容のハードさは毎回アップデートされており、「PRISM」ツアーでは既述したように本格的なアクロバットまで披露していた。ここからハードさを上積みしていくと、際限がなくなるようにも思える。しかもツアー期間中、多くの会場では1日2回の公演が行われているのだ。まあ、アクロバットをする女性アイドルは昔からいるけれど、現在のコンサートの緻密な構成を維持しつつ、この路線を徹底させるのであれば、コンディション管理がより求められることになるだろう。

 コンサートでは女性客が一貫して増え続けている。各メンバーの地元会場では名前のコールをしてくれる温かいファンもたくさんいる。しかし、大半のメンバーには「ファンに愛されている」という意識はあっても、現状に満足しているという意識はないはずだ。「Oh my wish!」のサビで歌われる「進め、挑め、自分を磨け」は、いかにも彼女たちにふさわしい。正直、力が出ないときには聞きたくない言葉の三連弾だが、これら抜きに成長があり得ないのも事実である。そして、つんく♂が同曲のライナーノーツ(ブログ)に書いていた「夢を持って入って来たあのときの気持にもう一度戻って新鮮な気持でまた未来に向かってほしい」という思いは、一ファンとして共鳴するところでもある。誰に何と言われようと、その意識を何度でも繰り返し再生させることで、モーニング娘。はモーニング娘。であり続けることができるのだ。
(阿部十三)


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