文化 CULTURE

モーニング娘。のフォーマット

2013.12.14
 2013年の夏以降、モーニング娘。は「ミュージックステーション」への出演を皮切りに、「わがまま 気のまま 愛のジョーク/愛の軍団」で11年半ぶりとなるシングル3作連続1位を達成したり、ソチ冬季五輪の日本代表選手を応援する「ニッポン!コールプロジェクト」のアンバサダーに就任したり、ヴァラエティー番組や朝の情報番組に出演したりと、話題をふりまいている。時折オープンスペースで行われるイベントの盛り上がりも相当なもので、2013年9月7日のラゾーナ川崎には約6000人のオーディエンスが集まり、尋常ならざる熱気を肌で感じた。年末の紅白歌合戦に出演出来ないのは残念だが、グループの勢いを印象づける年になったことは間違いない。

 現在のモーニング娘。を紹介する際、必ずといっていいほど使われるキーワードは、「リーダー道重さゆみ」と「10人体制」と「EDM」と「フォーメーションダンス」である。今はこの4つの言葉を織りまぜれば、モーニング娘。の特徴を誰もが簡潔に説明することが出来る。こういった伝えやすさ、伝わりやすさは、関心層を広げる上で欠かせないものだ。無論、モーニング娘。はそれだけのグループではないのだが、テレビなどに出る時はポイントを絞って伝えることを重視しているように見える。

morning_musume_format_a1
 リリースされる楽曲も随所にフックが設けられており、メロディー、歌詞、アレンジ、音圧を含め、ちょっと耳にすれば聴き手のアンテナのどこかに引っかかるような作りになっている。また同じことは、一風変わったポーズを取り入れた振付や細かく変わるフォーメーションについてもいえる。現在は動画の時代であり、飛ばし飛ばし視聴しただけで楽曲の良し悪しをジャッジしてしまう人もいる。ただ、メロディーでも、歌詞でも、振付でも、気になるところがあれば最初から通して再生するものだ。つんく♂がそういうことを意識しながらモーニング娘。の楽曲を作っているのかどうかは知らないが、結果として、自己流に創意工夫を加えた作品を発信し、時代の流れにアプローチしていると思う。

 2013年9月25日にリリースされた『The Best! 〜Updated モーニング娘。〜』は、過去のヒット曲をEDM調にアレンジして現メンバーで録り直す、という分かりやすいコンセプトのアルバムだ。実際の内容も、2013年のモーニング娘。の方向性を潔癖かつ鮮明に打ち出したものになっている。「愛の軍団」で高揚感溢れるトラックを堪能した後だったので、タイミング的には真新しいオリジナル・アルバムを聴きたかったが、「過去のモーニング娘。」のイメージが強い人に「今のモーニング娘。」をアピールする試みとして、こういうベスト盤を出す意義はある。ここでは意義を重んじたのだろう。

 このベスト盤の収録曲をセットリストに組み込んだ「モーニング娘。コンサートツアー2013秋 〜 CHANCE! 〜」がスタートした。初日は2013年9月21日、会場はハーモニーホール座間である。
 まず目を見張らされたのは、これまでのツアーとは趣の異なるものであることを印象づけるかのように、序盤から立て続けにハードなステージングを披露していたこと。7曲目が終わるまで大したMCもない。その後、道重さゆみのMCをはさんでモードチェンジしたのも束の間、後半から再びハードなダンスの連鎖になだれ込む。そして最後は「愛の軍団」のテーマにのせて退場する、という構成だ。私が一番ぐっときたのは、3曲目「ウルフボーイ」から4曲目「Moonlight night 〜月夜の晩だよ〜」。この日初めて聴く新曲「ウルフボーイ」を引き立たせるには最善の組み合わせだった。

 全体的に、ゆとりのある雰囲気は控えめ。そのかわり今のモーニング娘。のスタイルをいったんフォーマット化し、きっちり見せようという意図が伝わってきた。そんな中、明瞭なアイドル性を発揮していたのが道重さゆみで、中盤の彼女のステージが「ザ・アイドル」的な雰囲気を放つことにより、コンサートの内容に魅力的な幅が生まれていた。10人のメンバー中、そういう役回りをリーダーが担っているのも現在の体制の大きな特徴といえるだろう。

morning_musume_format_a2
 私がアイドルのコンサートを観て感動を覚えるのは、大人がいろいろ考えてフォーマットにしたものを、メンバーが自分の感性や実力で高次元ないし別次元へ持っていこうとする時である。その点で目をひいたのは、鞘師里保のステージングだった。
 彼女は振付に理想的な表現を与える。馴染みのない振付も、ともすれば無意味に流されかねない細かな動作も、説得力のある表現として見せることが出来る。そのダンスを見ていると、音楽と振付が不可分なものとして結ばれているような気持ちにさせられる。激しい曲調でも、フォームの決まり具合の美しさや指先まで神経の行き届いた繊細さが失われることはない。それだけでなく、お仕着せではない上品な色気が表現の引き出しに加わり、楽曲によって度を超えない範囲で艶やかさを出していたのも印象的だった。
 歌唱面では、歌う時に力を入れたり抜いたりする加減の付け方が別人のように上手くなっていた。ツアー前は重さのあった喉の調子も、初日までにほぼ万全のコンディションに仕上げたようだ。短期間でこんな変化が起こるのを見ても、まだ15才の彼女が未知の可能性を持つ存在であることを感じる。

 「CHANCE!」というタイトルからもうかがえるように、秋ツアーでは各メンバーの歌割が増え、見せ場が多くなっていた。この采配がメンバーの意識に好影響を与えたことは容易に想像がつく。例えば、譜久村聖は歌の安定感、声の抜けの良さ、いずれも過去の自分自身を軽く凌駕していたし、生田衣梨奈はこれまで以上に垢抜けたステージ姿を見せ、クールさとナチュラルな華やかさの両面を感じさせた。石田亜佑美のダンスも、切れ味だけでなく、思わず二度見してしまうほどのしなやかさや柔らかみが回を追うごとに増していた。小田さくらは体調を崩し、しばらく試練の期間が続いていたが、その鬱憤を晴らすかのように、フィナーレの日本武道館公演では「Help me!!」や「しょうがない夢追い人」のソロパートで胸に響く熱唱を披露していた。

 改めて振り返ると、どちらかといえば、メンバーの個性よりもステージ上での見せ方の変化、成長を凝縮された密度で楽しむツアーであった。短期間で体力のみならず精神力や結束力も一定以上つけなければ乗り越えられない、一種のイニシエーションのようなものでもあった。武道館公演後、道重さゆみは「ファンの皆さんと一緒に乗り越えた感がある」とコメントしていたが(「ハロ!ステ」12月4日公開)、この言葉には彼女なりの実感がこもっている。途中でセットリストが変わったり、振付が変わったりして修正が加えられた分、メンバーが覚えなければならないことも多かったはずだ。そういったハードルを一つ一つクリアすることにより、モーニング娘。は「アップデート」された。これは間違いない。ここで作り上げたフォーマットを、ステージ上でどのように適宜活用していくのか、音楽的な意味でどう崩していくのか、その辺の楽しみを味わうのはこれからである。
続く
(阿部十三)


【関連サイト】
モーニング娘。OFFICIAL WEBSITE
モーニング娘。Official Channel
ハロ!ステ(Hello! Project Station)
モーニング娘。のフォーマット [続き]

月別インデックス