文化 CULTURE

モーニング娘。のフォーマット [続き]

2013.12.21
 現在のモーニング娘。にとって、フォーメーションダンスは単に外面的な武器であるだけでなく、10人のメンバーが息を合わせ、ステージ上で気持ちを一つにするためのジェネレーターとして機能している。これは控えめにいっても有効なアイディアだと思う。各メンバーの表現の個性的な部分やスキルが見えにくい一面はあるが、それらを打ち出していくのはまずパフォーマンスの基盤を整えてからの話になるのだろう。そういう意味でも、今回のツアーはメンバーの意識や実力を向上させる役割を果たしたといえる。

 EDMをとりいれた最近の楽曲にはアグレッシヴな印象があり、メロディーも歌詞もアレンジも振付も、聴覚や視覚に対して刺激的である。私は今でも「One・Two・Three」や「ワクテカ Take a chance」が流れると胸が熱くなるし、「愛の軍団」を聴くたびに異才の仕事だと感じる。おそらくこの路線で作品を作ることはまだまだ可能なのだろう。ただ、モーニング娘。の世界には何が出てくるか分からない多彩さや意外性があるし、つんく♂が現在の方向性にとどまり続けるとも思えないので、EDMを武器にした後、どのように攻めるのか気になるところだ。

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 そこで注目されるのが、2014年第1弾のシングルである。概要はすでに発表されており、タイトルは「笑顔の君は太陽さ/君の代わりは居やしない/What is LOVE?」(2014年1月29日リリース)、3曲をメイン扱いにしたトリプルA面シングルである。メンバーのコメントによると、「笑顔の君は太陽さ」はミドル・テンポで、歌っていると笑顔になるナンバーらしい。タイトル通り明るく、聴いている方も笑顔になれる作品なのだろう。「君の代わりは居やしない」はソチ冬季五輪の日本代表選手応援ソングで、「激しいダンスナンバー」とのこと。この2曲で対極のカラーを出すことになりそうである。

 「What is LOVE?」はすでにテレビでもコンサートでも披露されている曲。エレクトロの音色が飛び交う中、リズムが小気味良くはねていて、どことなくスウィングっぽい味わいがある。また、スピード感がありながらも、メロディーラインがしっかりしているため、構成がのみこみやすい。猛風のように吹き抜け、それでいてメロディーとリズムの感触は克明に残る、という印象だ。カラオケで何人かで歌えば盛り上がりそうな雰囲気もある。
 秋ツアーで鍛えられたメンバーのパフォーマンスも、新曲とは思えないほどの完成度に達していて、アップデートされたグループの次元の高さを明確に示していた。2013年11月20日に公開された「ハロ!ステ」にも(中野サンプラザ公演の)コンサート映像が収録されているので、視聴をおすすめしたい。こういった一筋縄ではいかない楽曲を鮮やかにステージにのせ、発信していく力を身につける上でも、2013年がいかに意義深い年だったかが分かるというものだ。これからが収穫の時である。

 ちなみに、「ハロ!ステ」とはHello! Project Stationの略。2013年2月に始まったYouTubeオリジナル番組で、毎週水曜日に配信されている。当初は火曜日配信でMCも2人いたが、その後1人になり、水曜日配信で(今のところ)固定化されている。
 内容は、ハロプロ所属グループの最新MUSIC VIDEOやコンサート映像、それに対するMCの感想、舞台裏映像、ソロ歌唱、対談、その他特技やヘアメイクを披露するなど結構充実していて、しかも自分の都合に合わせて気軽に視聴出来るのが嬉しいところだ。なんとなく情報が少ない印象のあったハロー!プロジェクトとの距離が「ハロ!ステ」を通じて近くなった、という人も沢山いるのではないだろうか。

 こういった試みは確実に客層にも影響を与えていて、コンサートでも女性客が目に見えて増えてきている。秋ツアーの武道館公演でも、私の席は女性に囲まれていた。偶然といってしまえばそれまでだが、前のツアーまではなかったことである。

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 そんな状況の中、2014年から「モーニング娘。'14」に改名される、という発表があった。今後は西暦の下2桁をグループ名の末尾につけていくのだという('14の部分は「わんふぉー」と読む)。このニュースを目にした時は、何かの企画かと思ったが、本当に変わるらしい。まるで年齢を名前にしていた直木三十五みたいである。
 改名の理由についてはつんく♂がブログ(2013年12月6日)で説明している。そこから汲み取れる範囲で解釈すると、歴史があり未来もあるモーニング娘。を分かりやすくアーカイブ化する意図があるようだ。それだけで名前を変えるのだろうかという気もするが、あれこれいわれるのは承知の上で決めたことだと思うので、そういう声を一蹴するような充実した音楽活動を期待したい。

 今のモーニング娘。のほとんどのメンバーは、加入から3年に満たない中高生だが、10人の個性と才能を合わせることで様々な局面を乗り越えてきた。見えないところでは相当努力を積んでいるに違いない。それが今、ステージ上で光を浴びながら実を結びつつある。いかなる変転があろうとも、秘めたる闘志を失わない人、楽しそうにやっている人が美しく見える、という真理をこのグループは体現している。これからどう展開していくのかは分からないが、彼女たちには大きな力に飲み込まれない愛の軍団として、慢心することなく前進してほしい。今のモーニング娘。なら「モーニング娘。'14は凄く良かった」といわれる時代を作ることが出来るはずだ。
(阿部十三)


【関連サイト】
モーニング娘。OFFICIAL WEBSITE
モーニング娘。Official Channel
ハロ!ステ(Hello! Project Station)
モーニング娘。のフォーマット

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