音楽 CLASSIC

バカリッセ ギター小協奏曲

2012.03.25
ロマンティックに、ノスタルジックに

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 ギター協奏曲の中で最も有名な作品は、ロドリーゴのアランフェス協奏曲だろう。単に有名であるだけでなく、人気も高く、コンサートでも頻繁に取り上げられている。それでは、次に有名なギター協奏曲は何か。そうきかれたら多くの人が答えに詰まるに違いない。例えば20世紀に書かれたカステルヌオーヴォ=テデスコ、ポンセ、ヴィラ=ロボスの作品。これらはいずれも個性と品格を備えているものの、アランフェス協奏曲と比べると、スケールが小さく、旋律の印象も弱い。古いところでヴィヴァルディやジュリアーニによる風味あふれる作品もあるが、やはり消化がいいというか何というか、何度も聴かずにいられなくなるような中毒性は感じない。ただ、サルバドール・バカリッセのギター小協奏曲はひと味違う。頭いっぱいに広がるような甘美な名旋律を持ち、ギターの音色の美しさをたっぷりと引き出すこの作品こそ、アランフェス協奏曲の次にポピュラリティを獲得し得るギター協奏曲ではないかと思う。

 サルバドール・バカリッセは1898年にスペインに生まれた作曲家で、「ユリシーズの船」(1923年)、「交響的音楽」(1931年)、「3つの協奏的楽章」(1934年)で国家音楽賞を受賞。フランス6人組を意識し、保守主義を打ち破るべく気鋭作曲家たちと共にマドリードの8人組を結成した。スペイン内乱でフランコ側が勝利すると国外へ。パリでスペイン語放送の解説者の職に就き、作曲活動を継続。その作風は次第に保守的傾向を強め、ロマンティックな色彩感を深めていった。ギター小協奏曲はそんな時期(1952年)に書かれた作品だ。1963年に死去。1939年以来、一度も祖国の土を踏むことはなかった。

 小協奏曲といっても4楽章構成で、それなりにスケール感があり、聴きごたえもある。第1楽章はリズミックで、繰り返しを多用し、古舞曲のような趣をたたえている。第2楽章は全曲中のクライマックス。聴いているだけで、ロマンティックなストーリーがまぶたの裏に浮かんできそうなほどメロディアスだ。ノスタルジックな懐かしさと憧れを呼びさます甘い名旋律。このメロディーのためにこの小協奏曲は存在する、といっても過言ではない。昔、フィギュアスケートのミシェル・クワンがこれをバックに演技していたので、覚えている人もいるかもしれない。第3楽章はギターと木管の絡み合いが魅力的で、簡潔ではあるが、少しでも歩調が乱れればこんがらがってしまう要所である。第4楽章はメリハリのきいた音響が印象的。美しい旋律を挿みながらも、主題の展開が中途半端で、最上の答えを見つけられないまま作曲を終えているような印象がある。

 バカリッセがギターに強い関心を寄せるようになったのは、名ギタリスト、ナルシソ・イエペスと知り合ってからといわれている。この小協奏曲もイエペスによって初演された。ほかに注目すべきギター作品として「小組曲」、「バラード」、「トッカータ」などが挙げられる。ただ、私が小協奏曲の次に好んで聴いているバカリッセ作品は、映画音楽である。マリー・ラフォレ主演の映画『金色の眼の女』。監督はラフォレの夫だったジャン=ガブリエル・アルビコッコである。ここにはバカリッセならではの哀愁をたたえた美しい楽想が波打っている。ちなみに、このサントラで妙技を披露しているのはイエペスだ。

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 ギター小協奏曲の決定盤といえるような録音はまだない。初演者ナルシソ・イエペスの音源はあるが、技術的に万全とはいいがたい。ただ、味わい深い演奏なので、これはこれで持っておきたい。技術的にはエミリオ・プジョールとアンドレス・セゴビアの弟子であるマヌエル・クベードが弾いた録音の方が万全だ。フレージングのうまさ、音色の美しさにも耳を奪われる。
 それにしてもめぼしい録音が少ない。第2楽章だけでももっと取り上げられていいように思うのだが、マリア・エステル・グスマンやスーフェイ・ヤンのような人に録音してもらえないものだろうか。


【関連サイト】
バカリッセ:ギター小協奏曲(CD)
サルバドール・バカリッセ
[1898.9.12-1963.8.5]
ギター小協奏曲 イ短調 作品72

【お薦めディスク】(掲載CDジャケット:上から)
ナルシソ・イエペス(g)
スペイン放送交響楽団
オドン・アロンソ指揮
録音:1972年

マヌエル・クベード(g)
バルセロナ交響楽団
ラファエル・フェレール指揮
録音:1970年代半ば

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