音楽 CLASSIC

マーラー 交響曲第4番

2021.02.05
これは天上の生活なのか

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 マーラーの交響曲第4番は1899年から1900年にかけて作曲され、1901年11月25日、作曲者自身の指揮により初演された。第2番「復活」、第3番と同じように、もともと歌曲集『少年の魔法の角笛』に収録されていた曲を転用していることから、3作まとめて「角笛3部作」と呼ばれることもある。

 交響曲第4番の最終楽章に使われたのは、『少年の魔法の角笛』の「天上の生活」である。これは当初の構想では第3番の第7楽章に配置されるはずだったが削除され、第4番の方に回された。そういう経緯もあって、第4番は第3番から生まれた子(もしくは姉妹作)とみなされることが多い。

 冒頭では鈴とフルートの音色がリズミカルに鳴り響き、メルヒェン的な雰囲気を醸しているし、オーケストラの編成も(マーラーにしては)比較的小さいので、9つの交響曲の中では最も親しみやすい印象がある。とはいえ、単純な作品ではない。親しみやすさの裏には影がある。

 第1楽章はト長調。冒頭の鈴とフルートの音が異世界的な空気を作り、その後も効果的に繰り返される。第1主題は古典的な美しさを持ち、第2主題は深い情感をたたえている。第2楽章はハ短調。マーラーはこの楽章について「友ハインは演奏する」と記したことがあるが、ハインとは「死神」のこと。シニカルなユーモアと不気味なおどけがあるかと思えば、トリオでは穏やかな安らぎが表現される。複雑な性格を持つ楽章だ。第3楽章はト長調。「平安に満ちて」と記されているが、美しい主題を変奏させながら、やがて濃厚な情念や深い絶望をみせる。愛の物語でも見ているような気分にさせる音楽だ(昔、アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督の映画『囚われの女』にも使用されていた)。

 第4楽章では、ソプラノが「天上の生活」を歌う。歌詞の内容は、「われらは天上の喜びを楽しむ。ゆえに俗世間のことはもう知らぬ。俗世間の騒ぎは天上には聞こえない。すべては最高に柔和な安らぎのなかで生活している。われらは天使の生活を営むのだ......」というもので、天国での牧歌的な生活が綴られているが、緩急のテンポの切り替えが多く、その音楽は「平和」とか「和やか」といった言葉では表現しきれない。私はこれを聴くたびに、曰く言い難い切迫感に襲われ、無理やり天使と共同生活をさせられて、力を失っていくような狂気じみた心地を覚える。鈴の音がたびたび鳴るのも効果的で、第1楽章を想起させる。

 交響曲第4番は第3番の姉妹作である一方で、第5番の生みの親でもある。それは第1楽章の展開部で鳴り響くトランペットによるファンファーレが、第5番の葬送行進曲の冒頭に受け継がれていることからも明らかだ。さらに興味深いのは、第1楽章でリヒャルト・シュトラウスの交響詩『ドン・ファン』(1888年作曲)に似たフレーズが出てくるところで、もしこれがマーラーによって意図的に仕組まれたものだとしたら、第4番はメルヒェンを装いながら、情愛や死を描くことを主眼としていたのではないかと穿った見方をしたくなる。畢竟、第4番で描かれた死は、決して恐るべきものではなく、天国へと導くものである。その死者が、第5番の葬送行進曲によって葬られるのだ。

 録音では、古いところではブルーノ・ワルターがウィーン・フィルを指揮した際のライヴ(1955年ライヴ録音)、比較的新しいところではクラウディオ・アバドがウィーン・フィルを指揮したもの(1977年録音)が高い評価を得ている。

 私はフリッツ・ライナーがシカゴ響を指揮したもの(1958年録音)で第4番を初めて聴き、それ以来、この器楽的な美しさを持つ演奏を好んでいる。どこにどんな楽器の音が潜んでいるのか知るのにもうってつけの演奏だと思う。リーザ・デラ・カーザの歌声にも落ち着いた美しさがある。

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 ロリン・マゼールがウィーン・フィルを指揮したもの(1983年録音)は、表現に細かい工夫があり、テンポを揺らしたり、アクセントをつけたり、特定の楽器を強調したりと、この作品を隅から隅まで堪能させるように抜かりなく味付けを施し、楽しませてくれる。キャスリーン・バトルが独唱を務めているのもポイント。天使のように可憐かと思えば、時に大人っぽい表情をみせるその歌声に耳を奪われない者はいないだろう。

 ジョン・バルビローリ&BBC響のライヴ(1967年ライヴ録音)は傾聴すべき熱演で、金管の強奏はストレートでやや繊細さに欠けるが、第3楽章は濃密で深い響きをたたえている。同楽章の演奏では、ジュゼッペ・シノーポリ&フィルハーモニア管の録音(1991年録音)も秀逸で、陰翳の濃い響きが波打ち、酔い心地にさせる。第4楽章でのエディタ・グルベローヴァの清潔かつ豊潤な歌声も素晴らしい。


【関連サイト】
グスタフ・マーラー
[1860.7.7-1911.5.18]
交響曲第4番 ト長調

【お薦めディスク】(掲載ジャケット:上から)
リーザ・デラ・カーザ
フリッツ・ライナー指揮
シカゴ交響楽団
録音:1958年

キャスリーン・バトル
ロリン・マゼール指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1983年

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