音楽 CLASSIC

ブルックナー 交響曲第4番「ロマンティック」

2021.06.02
天高く響き、地を揺るがす

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 ブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」を聴いていると、不思議な気分になることがある。一体全体この巨大な音楽はどこから生まれてきたのだろうかと。作曲者から生まれたものだと言ってしまえばそれまでだが、彼がどういう気持ちで書いていたのか読めないのである。私はそこに一個人の喜怒哀楽や信仰心や創作意欲を超えた自然の意思のようなものを感じ、時折気が遠くなる。

 それまで華やかな成功とは縁遠かったブルックナーは、1881年2月10日、ハンス・リヒターの指揮によって行われた第4番の初演で聴衆を熱狂させ、喝采を浴びた。56歳の時のことである。その際、批評家から「ブルックナーは我々の時代のシューベルトである」と評された。たしかにシューベルトもブルックナーも独自性が強く、己の内から次々と湧き出る楽想を有機的につなげている印象がある。ブルックナーの方は改訂に改訂を重ねるタイプの人だったが、根の部分はシューベルトに通ずるところがありそうだ。

 作曲期間は1874年1月2日から11月20日。その後、1878年1月18日から12月30日にかけて改訂・改作された。さらに、第4楽章を大幅に変えるべく1879年11月19日から1880年6月5日まで改訂を行い、決定稿(1878/1880年稿)と呼べるものが完成した。ただ、厳密に言うと、ブルックナーはこれにも納得していなかったようで、細かく手直しをしている。

 この作品は、「ロマンティック」という親しみやすい副題が付いているおかげで、ブルックナーの交響曲の中では知名度が高い。スケールは非常に大きく、伝統的な形式を踏襲しながらも堅苦しさはなく、型にはめられることを嫌うかのように、旋律は天高く響き、時に地を揺るがしてみずみずしくうねる。交響曲第3番や第5番は緻密に構築されているが、第4番にはむしろ自由な雰囲気があり、ドイツの雄大な自然の中にいるような気分にさせられる。

 第1楽章はソナタ形式。原始霧的な弦のトレモロで静かに始まり、ホルンが主題を提示する。その旋律と響きはまるで山々の稜線の向こうから聴こえてくるかのように、雄大な起伏を描き、聴く者を自然の神秘の中に引き込む。この主題が全体を統一しているが、ほかにも第2主題、第3主題、経過主題など魅力的な旋律が織り込まれていて、緊張をはらみながら進行する。展開部における金管のコラールが美しい。

 第2楽章は冒頭から薄暗い森の中にいるような雰囲気で、チェロが歌謡的な主題を奏でる。さらにもう一つ、楽節が弦楽器によって厳かに奏でられるが、これが神秘的な空気を醸成する。第3楽章は「狩の主題」と呼ばれるホルンのシグナル音型が鳴り響き、やがて激しく高揚して巨大な音の波濤を形成する。ブルックナーのスケルツォの中でも特に明るく華やかな音楽で、二拍子で進行する(中間部は三拍子)。

 第4楽章は自由なソナタ形式。第1楽章と同様、3つの主題を持つ。まずは第1楽章の第1主題を類似した主題が提示され、第3楽章のスケルツォ主題も回想される。音の強弱・高低の差が大きく、荒ぶる自然の猛威を見る思いがする。コーダでは弦楽器のトレモロを背景に管楽器が高揚し、最後は第1楽章の第1主題を力強く響かせて終わる。

 この音楽は何を表現しているのだろうか。先にも書いたように、一個人の喜怒哀楽などというものではないだろう。もしかしたら、ブルックナーという偉大な器を介して、神が大自然を創造しようとしたのではないか。キリスト教徒でも何でもない私でも、そんな風に考えてみたくなる。大地を作り、山を、森を、川を作り、雨を降らせ、嵐を起こし、動物たちが生まれ、人間たちが生まれるという地球・自然の神秘の絵巻である。

 演奏される機会の多い作品なので、録音の種類もそれなりにあるが、全4楽章を通して満足できるものは少ない。第4楽章の表現が難しく、どうしても途中で耳が疲れてしまうのだ。第1楽章と第3楽章が良い演奏でも(そういう演奏はたくさんある)、第4楽章で管楽器の響きが飽和し、耳が疲れてしまうというパターンである。

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 そんな中、驚かされたのはセルジウ・チェリビダッケ指揮、ミュンヘン・フィルによる演奏(1988年ライヴ録音)だ。細部までアンサンブルが練り込まれていて、強奏も耳に痛くないし、各主題、動機の扱いも巧みである。第4楽章のコーダなどゾクゾクするほど美しく、これぞ神がかりと言いたくなる。細部まで作り込まれた演奏は、自然に湧き立つような高揚感を損ないがちだが、そういう短所がない。

 ほかには、ギュンター・ヴァント指揮、ベルリン・フィルの演奏(1998年ライヴ録音)、オットー・クレンペラー指揮、フィルハーモニア管の演奏(1963年録音)が目の覚めるような表現力を持っている。ヴァントの方は精緻かつ堅固なアンサンブルが素晴らしく、すっきりとまとまっているが、音に深みがある。クレンペラーの方はスケール感が異様に大きく、オーケストラが燃えるように熱い演奏を繰り広げている。第3楽章のトゥッティで鳴り響く音は、セッション録音とは思えないほど凄まじく、まるで波頭が崩れるのを見るかのようで心から圧倒される。クレンペラーだと、バイエルン放送響を指揮した時のライヴ音源(1965年ライヴ録音)も残されている。セッション録音と比較すると、ライヴ盤の方が落ち着いた美しさを持っているのが面白い。


【関連サイト】
Anton Bruckner:Symphony No.4
アントン・ブルックナー
[1824.9.4-1896.10.11]
交響曲第4番 変ホ長調 「ロマンティック」

【お薦めディスク】(掲載ジャケット:上から)
オットー・クレンペラー指揮
フィルハーモニア管弦楽団
録音:1963年

セルジウ・チェリビダッケ指揮
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1988年(ライヴ)

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