音楽 CLASSIC

バルトーク 弦楽四重奏曲とその他の作品

2011.02.14
続・20世紀最大の天才作曲家

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 天才と呼ばれる人には大きく分けて二種類のタイプがある。外部からの刺激をあまり受けない高踏的な天才と、外部からの刺激を受けやすい天才だ。ベーラ・バルトークは後者のタイプに属する作曲家である。

 民族音楽から受けた影響については前回述べたが、そのほかにもバルトークはほとんど無防備といえるほど多くの作曲家に感化されている。少年時代に夢中になったブラームスにはじまり、R.シュトラウス、シェーンベルク、ストラヴィンスキー、あるいは、バッハ、ベートーヴェン、リスト、ドビュッシー、ラヴェル、ドホナーニ、コダーイなど、名前を挙げていたらキリがないくらいだ。また、音楽だけでなく、20世紀前半の不安定な世界情勢からも強い刺激を受けていた。
 バルトークはそれらすべての影響を自分なりに消化することで、オリジナルな芸術を作り上げた。彼ほど多種多様な音に貪欲に耳を傾け、その影響をイミテーションとしてではなく、まったく違うフォームで提示することのできた作曲家が何人いるだろうか。また、彼ほど世界情勢に関心を持ちながら、音楽に明確な政治的メッセージを持ち込む誘惑に背を向けていた作曲家も、当時では珍しいのではないか。

 気位が高く、とっつきにくく、良くも悪くも正直で、自己に忠実な音楽を書き続けたバルトーク。その音楽には嘘や虚飾がほとんどない。代表的な作品は「弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽」以外にも、弦楽四重奏曲が6作、ピアノ協奏曲が3作、ヴァイオリン協奏曲が2作、「2台のピアノとパーカッションのためのソナタ」、「管弦楽のための協奏曲」(通称「オケコン」)、組曲「中国の不思議な役人」、全6巻に及ぶピアノ曲集「ミクロコスモス」、ピアノ小品「アレグロ・バルバロ」、オペラ「青ひげ公の城」と結構たくさんある。

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 バルトークの弦楽四重奏曲はベートーヴェン以来の革命的作品といわれており、その極めて独創的な音響は、今なお衝撃度を弱めていない。混迷、不安、野生、叫びーーいったい誰がこんなものを率先して聴きたがるのか、と訝しく思う人もいるかもしれないが、しかし人間には混乱の向こうにある爆発や解放を求めようとする本能があり、それはふとした瞬間に、私たちの体内に思いがけない波を起こす。その本能に呼びかける力が、バルトークの弦楽四重奏曲にはあるのだ。

 6作のうち特に傑作とされているのは、無調的、半音階的、不協和的でありながら妙に人の心をとらえてはなさない第4番と、古典的な明快さを持つ第5番である。とはいえ、情熱的な第1番も、アラブ音楽の要素をとりいれた第2番も、ユニークな形式を持つ第3番も、1939年の暗い世界情勢への不安と母国ハンガリーを離れる悲しみを込めた第6番も、それぞれ魅力的で聴きごたえがあり、じっと座って聴いていられなくなるほど体を熱くさせる。未開の地の魔術のような音楽だ。

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 ピアノを打楽器として扱ったピアノ協奏曲第1番、大胆な楽器編成で打楽器表現の可能性と新たな音楽スタイルを追求した大傑作「2台のピアノとパーカッションのためのソナタ」、白血病に冒されながら書き、初演で成功を収めた最晩年の「オケコン」も、20世紀のエポック・メイキング的な作品である。ただ、残念なことに、バルトークの作品は(「オケコン」と「弦チェレ」は別として)録音数が少ない。「2台のピアノとパーカッションのためのソナタ」など現在何種類も出ていないのではないか。レコード会社の人は、評価の定まったような音源を何枚も出し直してないで、もう少しバルトーク作品の音源化に積極的になるべきだ。

ベーラ・バルトーク
[1881.3.25-1945.9.26]
弦楽四重奏曲とその他の作品

【お薦めディスク】(掲載CDジャケット:上から)
弦楽四重奏曲全集
ハーゲン四重奏団

管弦楽のための協奏曲
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
アンタル・ドラティ指揮

ピアノ協奏曲第1番、第2番
マウリツィオ・ポリーニ(p)
シカゴ交響楽団
クラウディオ・アバド指揮

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